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戦乙女の残酷な覚悟

――時はナツヒがエリスの元へ駆けつける少し前に遡る。


*************************

【エリス=ヴァレンティア】


女の子たちをジャスリーンの元へ合流させ、急いでボス達のいた部屋へ戻る。


するとナツヒ君が、ゴブリンシャーマンの魔法で足を縛りつけられているのか上半身だけの動きで、ボスの攻撃を避け続けていた。


けれど全ての攻撃を避ける事はできずに、時折鮮血が飛び散りダメージを負っている事を伺わせる。


私の目にいきなり飛び込んできたナツヒ君の危機という光景を見て、私は無我夢中でゴブリンシャーマンへと斬りかかる。


魔法をかけることに集中していたのか、無防備なゴブリンシャーマンを深く斬り裂く事に成功し、ナツヒ君にかけている拘束魔法を解くことに成功した。


――良かった!なんとかナツヒ君のピンチを救う事ができたと安心していると、近くにナツヒ君の気配を感じる。


そして普段の優しいだけとは違う、やけに頼りがいのある声で感謝の言葉を投げかけられる。


「ありがとうエリス!助かった!」


この声を聞いたり彼の目を見ていると、どんなピンチでもなんとか切り抜けられる気になってくるから不思議だ。


私はこの部屋から逃げ出した女の子たちがジャスリーンの判断で、大部屋で避難している事をナツヒ君に伝える。


女の子たちがひとまずは安全な場所にいるという事を確認できたナツヒ君は、改めてホブゴブリン・ザ・スウィンドラーとゴブリンシャーマンを倒そうと口にする。


「なるほど。どちらにしろこいつらを片付けないとな。俺たちが逃がそうとしたとは言え1度逃げ出そうとした彼女たちがどんな扱いを受けるかわからない。さっきあいつは逃げ惑う彼女たちにむけて容赦なく剣を振るおうとしていた・・・。」


その通りだ。ゴブリンが人間に酷いことをするという話は聞いていた。


だけどそれがあそこまで酷いことだなんて思いもしなかった。


父上が冒険者学校で学ぶことの中には、私にとって受け入れられないこともあるだろうがしっかりと受け止め、自分の頭で考え広く世界を知れと言ったのは、こういうことも含まれているのだろうか。


女の子たちの泣き叫ぶ顔が脳裏から離れない。


嫌がる女の子たちを裸にして無理矢理あんな事をして、なのに悪いことなんて何もしていないかのように、笑って楽しそうにしているゴブリン達の姿。


あんなにも邪悪なものを見たのも、その悪を討ち倒したいとこんなにも強く思ったのも生まれて初めてかもしれない。


「絶対に許せないよ。あんなに酷い事をしておいていらなくなったら平気で殺そうとするなんて。」


――ナツヒ君がいれば必ず勝てる。私も覚悟を決め2匹と対峙しようと思ったその時だった。


「2人とも!!今すぐ逃げて下さい!!あいつらが戻ってきました!!!」


ジャスリーンさんの叫び声が響き渡った。


「きゃあーーー!!!!」


直後ジャスリーンさんの悲鳴が続く。


思わずナツヒ君を見てしまう。珍しく動揺しているように見える。


私もしっかりしないといけない。


今自分にできることを考えないと!


“あいつら”というのは外に出て行った18匹のゴブリン達のことだろう。


もしも、あいつらがこの部屋まで来てしまったらいくらナツヒ君がいても、きっと勝つことはできない。


かといってレベル7の私がここに残ってもレベル8のゴブリンシャーマンとレベル10のホブゴブリン・ザ・スウィンドラーが相手ではすぐに負けてしまう。


でもナツヒ君ならこの2匹相手でも勝ててしまう気がする。


私がやる事は決まった。


――戻ってきた18匹の足止め。


私では全員を倒す事はできないだろうけど、それでも私がゴブリンのボスを含む2匹と戦うよりは私たちが勝てる可能性は高い。


私は戻ってきた18匹をボスたちと合流させないように、なんとしてでも足止めをする。


そうすればナツヒ君は1人でボスたちを倒して絶対に私を助けにきてくれるはずだ。


「エリス・・・。あいつらを足止めできるか?」


ナツヒ君も同じことを考えていたようで、自分の判断が間違っていなかったと少しだけ勇気をもらう。


「もちろんそのつもりだよ。私にはボスとシャーマンの相手はできないから。ここはナツヒ君に任せたよ!」


18匹のゴブリン達と戦うのは正直怖い。だけど、自分を奮い立たせるように努めて明るい声をだす。


「ナツヒ君なら2匹とも倒せるよね?多分私は長くは持たないだろうから早く助けにきてね。」


私はうまく笑えていただろうか。


考えたくも無いけど、ゴブリン達が女の子にしてきたことを見る限り、私はきっと負けても殺されることは無いのだろう。


たくさんのゴブリン達に好き放題犯されて、私は大切なものを失う。


そうすれば足止め自体はできるのかもしれない。


だけど自分の守ってきたものは大切にしたいし、どうせなら初めては好きな人としたい。


人の生死がかかっている中なのに、自分の女の子としての望みが首をもたげてしまい“早く助けにきて”なんていうわがままが思わず口をついてしまう。


「・・・!!」


ナツヒ君は言葉に詰まってしまった。


頭の良い人だから、私が奴らに犯されてしまう可能性があるというのもわかっているのかもしれない。


だけど優しい人だからできもしない約束はしないのだろう。


わがままを言ってしまった少し前の自分を責めたくなる。


「ナツヒ君死なないで。絶対あいつらを倒して!」


これ以上ナツヒ君を困らせないよう、戦いに集中する為に鼓舞の言葉をかける。


「必ずすぐに駆けつける。それまでどうか頼む。」


「うん!任せて!」


真剣な表情で応えるナツヒ君。


“必ず”という言葉は例え嘘だとしても嬉しく思った。


「エリス。これを使ってくれ。」


続いてインベントリからだろう薬草を取り出す。


どういう仕組みかわからないが、ナツヒ君はインベントリからアイテムを取り出すスピードがものすごく早い。


ナツヒ君だけが知っている技でもあるのだろうか。この戦いが無事に終わったらコツを教えてもらおう。


「ありがとうナツヒ君。」


ナツヒ君からもらった薬草を使い、HPゲージを6割程まで回復させる。


これでまだまだ抗える。


絶対に屈したくない。


「じゃあいっちょいきますか!」


ナツヒ君は最後の決戦に臨むにしては、軽い調子のセリフと共に拳を突き出してくる。


一瞬なんのことかわからなかったが、拳と拳を突き合わせるものだと理解してナツヒ君と拳を交わす。


時折同じ16歳にしてはやけに余裕な態度で少しキザな仕草をするナツヒ君。


だけど拳を合わせる挨拶は、確かに私の心を落ち着かせてくれた。


――もう怖くない。


ナツヒ君がボスたちを倒してくれると信じて、私は援軍18匹の合流を必ず防ぐ。


絶対にナツヒ君の元に行かせはしない!


「うおおおおおおぉぉぉ!!!!!!」


――ナツヒ君の熾烈な咆哮を背に私は走り出す。


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