戦い追跡するおっさん
「ナツヒ君!」エリスが悲鳴に近い声を上げこちらに向かう気配を感じるが、手を上げ親指を立て「大丈夫だ。」という意思表示をしておく。
ゴブリンたちは確かな手ごたえを感じたはずなのに、吹き飛びもせず平然と立っている俺に対して動揺の色を隠せていない。
受けたダメージは3と4。俺のHPは90あるので、それぞれの攻撃なら30発程度は直撃を受けたとしても耐えられることがわかった。
さらに今の装備はレベル1の初期装備。先日ユリダ武具店で買ったレベル11用の武具を装備すれば恐らくダメージは0に抑えられそうだ。
「ゲギャー!」ゴブリンたちは不快な叫び声を上げながら、こん棒を再び打ちつけようとしてくるが、今度は攻撃をうけずに躱すことに専念する。
2匹揃って2回3回と連続で振り回すが、俺がよけ続けることによってその全てが空を切ってしまう。途中弓矢持ちが放つ矢も飛んでくるが少し頭をかがめて躱す。
俺はゴブリンたちの攻撃を避け続ける。こん棒の軌道と矢の軌道と、己の身体の位置関係が悪く避けきれない時は、手にした刀でこん棒の攻撃を受けガードをする。
計15回以上の攻撃を避けたりガードをし続けた結果ダメージはゼロ。
これで弓矢使いも合わせて計3匹を同時に相手にしても確実に負けることは無いとわかった。
ゴブリンたちとの実力差を測り終えたので、俺は次に確かめたいことを実行に移す。
ゴブリンたちの攻撃を避けながらも、弓矢持ちとさらに奥でギャーギャーと喚いている兜と剣装備の個体の方へと距離を詰める。
俺にゴブリン語はわからないが、一番偉そうにしている兜と剣装備の個体がこう言っているだろうことは伝わってくる「お前ら!何をしている!とっととぶっ殺さないか!!」と。
1人無防備に立っているエリスに向かうことはせず、俺のみを執拗に狙ってくるゴブリンたち。
これで、俺の立てた仮説のうち1つの可能性が高くなってきた。しかもかなり胸糞が悪く、やつらの知能の高さを裏付けるような仮説だ。まだ確定では無いが。
その仮説に関しては、この場で証明することができないので俺はゴブリンたちとの戦闘の仕上げにとりかかる。
こん棒の攻撃を刀で受け止めると同時にカウンターの要領で、左ストレートを顔面に打ち込む。
ゴブリンの背は低く打ち下ろしのような左ストレートになり、体重のしっかり乗った打撃は一撃でゴブリンを仕留めることに成功した。
突如の反撃に戸惑ったのか、もう一匹のこん棒持ちは動きを止めている。
その隙を待つ義理も無く、右手に装備した刀で右下から左上に払いあげゴブリンの胴体を切り裂く。
こちらも一撃で倒すことができた。
奥で「ゲギャギャギャヤー!!」と喚く片手剣装備のリーダー格。
その指示に従ったかどうかはわからないが、弓矢持ちが矢を放ってくる。
避けようとも思ったが、俺は刀で矢を空中で斬り落とした。
やってみたかったんだよなこれ。
かっという矢を切り裂く音と、からんと音をたてて地面に落ちる矢を見て唖然としている弓矢装備のゴブリンに俺はアーツをお見舞いする。
体術スキルと雷魔法スキルの複合アーツ【迅雷掌】、対象に急接近して、掌底を叩き込む技だ。
その際ごくわずかではあるが、雷撃によるスタン効果を与えることができる。
15メートル程の距離を一瞬で詰め、ゴブリンが反応するよりも先に雷をまとった掌底をゴブリンの胸のあたりに叩きこむ。
スタンの時間を確かめるまでもなく、弓矢持ちのゴブリンは絶命し光の粒となって霧散する。
残るは片手剣と兜装備のリーダー格のみ。
このまま再度【迅雷掌】で瞬殺もできそうだが・・・。
ゆっくりとリーダー格のゴブリンに向かって歩を進める。
すると、自分の部下を散々けしかけて戦わせたリーダーは、俺に攻撃を加えようともせず俺とエリスを一瞥した後に逃げようと背を向ける。
逃げ出す前にリーダー格のゴブリンがエリスに向けていた目の色には、単純に戦うべき敵とみなしているのとは別の意図を感じた。
その意図を確かめる為にも、ここはとどめを刺さずに逃げさせてやることにした。
「エリス!こっちに来てくれ。」
レザーアーマーに収まりきらずはみ出した爆乳をたゆんたゆんと揺らしながらこちらに走ってくるエリス。
逃げるリーダー格の背中を目で追いながら俺はエリスに伝えた。
「後を追うぞ。」
「ここで倒さなくていいの?」
「あぁ。あいつらの巣の入り口はさっき俺たちが見つけた入り口とは別にある。あいつを泳がせて、本当の入り口を見つけたいんだ。」
先ほど俺が感じた洞窟の入り口の不自然さ。
わかりやすい洞窟の入り口に、門番が立っていないのは明らかにおかしい。
どうぞ入ってくれと言わんばかりだ。
恐らくあの入り口には侵入者を阻む罠が仕掛けられている可能性が高い。
それを裏付けるのは小隊の中にはリーダーがおり統率がとれていたこと。
また、ターゲットも明確に選ぶだけの知能があったことだ。
そして、残ったリーダーは俺たちを感情のままに倒しにくるのではなく、必ず逃げようとしていた。
いや、逃げようとしていたというよりは、巣に戻り報告なり援軍などを呼びに行こうとしていたように思える。
その確証を得る為にもリーダー格ゴブリンの後を、100メートル弱の距離を保ちつつ物陰に隠れながら尾行を続ける俺とエリス。
リーダー格のゴブリンは先ほどの洞窟の入り口があった南側ではなく、北の方に向かって逃げている。
そして、小高い丘の北東部分の岩陰に消えていったきり姿を現さなくなった。
「やはりな。」俺はつぶやきエリスと共に、ゴブリンが消えていった岩陰に向かう。
そこには、人が充分通れる大きさの穴が開いていた。
こちらが本命の入り口とみて間違いないだろう。
「こっちから侵入するんだね!」
裏口を見つけた嬉しさと、いよいよ本格的なクエスト攻略が始まるとあってエリスの顔からはちょっとした高揚感が伺える。
だが、申し訳ないことにもう少しエリスを焦らさなければならない。
「いや、まだだ。」
「え?」
「こっちにきてくれ。」
少し悲しそうな表情を見せるエリアに、手招きするような仕草と共に丘の上の方へ登る。
裏口を観察できる場所にある手頃な岩陰を探す。
ちょうど大人ふたりが身を隠せるくらいの岩があったのでその陰に身を潜めながら、再度裏口の観察を始める。
「ここで少し待ってもゴブリンたちがでてこなかったらその時はいよいよ突入だ。だけど、俺の考えが正しければ必ずゴブリンたちの何匹かはでてくるはずだ。」
「ほんとに?多分ナツヒ君が言うんだから出てくるのかもしれないけど・・・。それよりもナツヒ君って実はちゃんと戦えたんだね!」
少しも非難めいた様子は無く、素直に俺がある程度は戦えることを知って嬉しそうな表情でまっすぐに目を見て話しかけてくるエリス。
「うん。まぁゴブリンくらいだったらなんとかね。」
俺はごまかすように笑いながらゴブリンだったからという部分を強調する。
今回のクエストをエリスと一緒に受けるにあたり、全く戦わないでクリアすることはほぼ無理だろう。
だがゴブリンを倒したくらいで、俺がまさかレベル11もあるということはバレないと判断した。
それに、仮にエリスにバレたとしても「他の人に言わないで欲しい。」と伝えたらぺらぺらと周りの人間に喋ることは無いという気がする。
「私はてっきり全然戦えないかと思っていたから見直しちゃったよ!ゴブリンをまとめて3匹相手にしても余裕そうだったよね。しかもアーツもすごかったし。あんなに速く攻撃できてしかも一撃で倒せるなんて、もしかしたらナツヒ君ってとんでもなく強いんじゃ・・・?」
アーツを使ってしまったのは少しミスったか?エリスの中で俺の強さが上方修正されそうな流れになった時、ゴブリンの巣の裏口からゴブリンたちが出現してきた。




