16才のおっさんと入学試験
翌朝、窓から差し込む光や外の喧騒で目を覚ます。
目を覚ましても日本のオフィスでは無く、少し年季の入った木のベッドの上で外は見知らぬ中世風な街並みだ。
改めて異世界に来た事を確信する。
・・・・よっしゃーー!!!確実に間違いなく異世界にいる!
目が覚めたら夢だったという事はなかった!
まずは冒険者になる為に学園の入学試験に合格しなければいけない。
まぁ厳密に言うと冒険者にはなっているが、おつかい士という冒険者には向かないはずれジョブなのでお先真っ暗状態。
この状態をなんとかしないといけない。
雑用なんてサラリーマン生活でもう充分だ。
この世界で俺は剣と魔法を使って世界を救っちゃったりする【英雄】になりたいんだ!!
とりあえず自分のステータスを確認する。
――この世界では、ステータスが能力確認魔法という事になっていて、魔法の力で自分のステータスが確認できる。人のは見えないし自分のも人には見られないとの事だ。
目の前に浮かぶウィンドウに記された俺のステータスはこうだ。
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名前:ナツヒ=ミナミ
天職:おつかい士
HP:23
MP:22
物理攻撃力:12
物理防御力:10
魔法攻撃力:11
魔法防御力:12
素早さ:11
運:10
【天授能力】
雑用英雄:クエストクリア時の報酬にボーナスがつく。依頼主の満足度や、星への貢献度により増加。
収納上手:インベントリにボーナスがつく。
【スキル適正】
なし
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アリナによるとステータスは星結いの儀を終えた時点の男性としては平均的。
ギフテッドアビリティであるクエストマスタリーとインベントリマスタリーは、今までに天職でおつかい士になった者の例が無く、見たこともないアビリティで効果は不明との事。
スキル適正というのは、この世界のジョブはマイナス5からプラス5までの10段階でスキルに適正がつくらしい。
例えば剣士であれば片手剣にプラス2、魔法にマイナス2などのように。
俺のスキル適正なしというのは、得意武器も不得意武器もない、要するに器用貧乏という事だ。
まぁとにかく、俺のステータスは普通。
そして、冒険者に向いている要素が今のとこ無いという事だけがわかっている。
ステータスを確認した後は、インベントリを操作して【冒険者の服】を装備する。
――インベントリもこの世界では収納魔法という扱いで、魔法空間にアイテムを入れておける便利魔法だ。
ちなみに【冒険者の服】はギルドからの支給品という事で、アリナがくれたものだ。
上は白い生成りの生地で、胸や腰のあたりがウイスキー色の革で補強されている。
下は黒い革製のトラウザで、丈夫そうで動きやすい。
この服装を部屋の鏡で見ると、改めて冒険者になった気分が増してくる。
ゲームの初期装備的な感じでデザインは悪くない。
これからの壮大な冒険を感じさせるようでRPGのオープニングを見ている時のような感情が湧いてくる。
ちなみに転移の影響で俺の肉体年齢は16才になっているようだ。
やや茶色がかった黒髪で前髪が眉毛あたりの長さ、サイドは耳が隠れるくらいのごく平凡な髪形。
これは日本にいた時と一緒だ。
だが、目の色が夏の晴れた日の空を思わせるような、空色になっている。
中二病的にはとても嬉しい要素なので、素直に受け入れる。
そんな訳で中身は34歳のおっさん、外見は16才の少年がこの世界に出来上がってしまった。
俺をこの世界に呼んだっぽいガイア様。本当に大丈夫か?
若返らせてくれたのは嬉しいが、日本の社会でもまれたサラリーマンをこの世界に解き放ってしまった事を後悔しないでくれよ。
さて、とりあえず冒険者養成学園の試験とやらに行くか。
34になって、学校の試験というのも新鮮で楽しみだ。
サラリーマンとして日本の社会で生きてきた今なら、学生時代のあらゆる試練が余裕にしか感じられない自信がある。
ちゃちゃっと首席とかで試験合格して、異世界の美女たちとの学園ハーレムライフを送ろうではないか!
はーはっはっは!異世界最高だわ!!
*
「はい、次――!!!」
目の前で、革ベルトを体に巻き付けただけの装備のスキンヘッドのおっさんが、少年を両手ハンマーで吹っ飛ばして叫んでいる。
・・・・いやいやいや!!!聞いてないって。
冒険者養成学園の試験怖すぎでしょ!!異世界やばいって!!!
吹っ飛ばされた少年に救護係とおぼしき女性が駆け寄って、手をかざして光の粒のようなものが少年を包んでいる。
回復魔法っぽいな。
だけども!!回復魔法があるからって、あのおっさん手加減しなさすぎでしょ!!
怖いぞ異世界!!!回復魔法があるせいで逆に暴力に寛容すぎてしまうのか!?
今度は、大剣を持った女戦士といった言葉が似合いそうな女子相手にハンマー振り回しているぞ!
女戦士もなんとか避けつつ何合かは打ち込んでいたが、すべて避けられるかハンマーでガードされる。
革ベルトおっさん意外に素早いし器用だな。
最後は頃合いと見たのか「ぬぅぅぅぅん!!」いう声と共に革ベルトおっさんがハンマーをフルスイングで女騎士にあてにいく。
大剣でガードしたものの、革ベルトおっさんに比べ遥かに華奢なその体は数メートル吹き飛んだ
「きゃっ!!!」
着地に失敗し盛大に転げる女戦士。
短めの白いミニスカートを履いていた為パンツが丸見えだ。
薄いピンクか。うん、エロい。おっさんナイス。
「はい!次―!!!お前だ!!お前!ぼさっとするなーー!!」
思いっきりこちらを指さし阿吽像みたいな形相で叫んでいる革ベルト。
あれ、俺?
これ詰んでるよな・・。
日本で武器を持って戦った事なんてゲームの中でしかないし、最近は運動不足だったし革ベルトに吹っ飛ばされるの確定してんだよなー。
回復魔法があるとは言え、死なないかな俺。
せっかく異世界来られたのにいきなり死ぬのはごめんだぞ。
とりあえず得意な武器や好きな防具を装備して良いというので、一番丈夫そうな金属鎧と、大盾を装備する。
武器は適当に片手剣。
でも一発は喰らわせてやりたいなと思い、革ベルトおっさんに急接近しようとするが、鎧が重くて1歩も動けない。
あ・・・れ?鎧動きにくっ!!!
「なんだそれは!!!!なめてんのか貴様―!!!!」
えっ!?と思った次の瞬間に初日の出を思わせるようなスキンヘッドが視界いっぱいに広がる。
同時に腹部あたり、いやもはや全身にダンプではねられたような衝撃を受けた。
はねられた事はないからわからないんだけども。
それくらいヤバい衝撃を受ける。いや、マジ死ぬって。
「げふぁっ!?」
口から盛大に血を吐く。え!?本当に死んじゃわない?大丈夫俺?
「はい!次――!!」
威勢よく怒鳴る声が聞こえる。
・・・革ベルト許さん。
革ベルトの怒鳴り声を聞きながら、意識がフェードアウトしそうになったが、
「大丈夫ですか?今手当しますからね。」
という女性の可憐な声でなんとか気絶をまぬがれる。
ふわっと温かさを感じ体が光に包まれたかと思うと、全身の痛みが一瞬で消える。
回復魔法すげーー!!!
目の前の女性を感激の眼差しで見る。
青いシスターのような服を着ているが、胸元が割と大きくあいていて、たわわに実ったメロンほどのサイズの胸の谷間に思わず目がいってしまう。
そして、服に覆われたその胸の先端は若干とんがっているような。
もしやノーブラ?
だとしたら天使だ!だとしなくても天使だ!
「あらあら。ヒールでHPが全回復なんて、相当HPが低いのね。どんな育ち方してきたのかな君?」
・・・。前言撤回、ここの学校のやつら全員ドSか。
笑顔でさらっとひどい事言ってくるな。
回復魔法の効果はすごかったけども。
素直にありがとうと言いたくないが、サラリーマン生活で俺は習った。
【社交辞令】というスキルを!!
「ありがとうございます!回復魔法の効果すごいですね。一瞬で痛みが治りました!もし僕が入学できたら回復魔法教えて下さい!」
「うふふ。素直でかわいい子ね。ちゃんとお利口さんにしていたら考えなくもないわ。」
うん。完全に見下されている感は若干気に食わないが、外見が16才なのもあって可愛く見られるのかもな。これはしっかり利用していこう。
・・・そしていつか、ノーブラかどうか確認してやる。
こうして俺の『戦闘試験』が終わった。
ちなみにこの『戦闘試験』の前に『冒険者基礎知識』という筆記試験があったが、ほとんどわからなかった。
そして次が『魔法試験』という事だ。
教官に燃やされたり、カエルにされて踏みつぶされたりしなければいいなと思いながら俺は試験会場に向かうのだった。
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