恋と学園長と冒険者の危険
女戦士ちゃんが英雄という言葉を発した時の違和感はスルーだ。初対面で踏み込む領域では無いと判断する。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかった。僕はナツヒです。ナツヒ=ミナミです。」
「私はエリス。エリス=ヴァレンティア。ナツヒ=ミナミって変わった名前だね。どこ出身?」
エリスっていうのか!名前もかわいい。話しながら思ったが、顔は黙っていれば美人と言える顔だろうが表情が豊かでそれ以上に愛嬌を感じさせる。
髪色は春に咲き誇る桜のような淡いピンク色で、頭の真ん中より高い位置でツインテールに結んでいる。腰くらいまで伸びるその髪はシルクのように艶やかで講堂の魔工灯の光を反射し輝いている。
そして、入学試験の時には盛大にスカートをひるがえし丸見えだったパンツばかりに意識がいっていたが、胸も相当なボリュームを感じさせる。
女子生徒の制服も俺が着ているものとデザインに大差はない。下はグレーのスカートで少し短めの丈からのびる足が眩しい。上は白いブラウスで襟元に赤色のリボン、濃紺のブレザーだが制服に包まれたふたつの大きな果実は、白いブラウスを押し上げるに留まらずブレザーさえもはっきりと膨らませており大変窮屈そうだ。
そっか・・・。胸もでかいのか。人のために怒れる優しい性格、入学試験の際に見せた男を一瞬で虜にしてしまう天真爛漫な発言や行動、そしてかわいい顔に巨乳。
先ほど俺のなかで恋に落ちたとぽんというような音が、滝のような轟音に変わっていた。
異世界に来てよかった。入学できてよかった。エリスに出会えてよかった。
できれば同じクラスになりたい。そいえばクラス編成はこれから発表されるのだろうか。
例え同じクラスじゃなかったとしても、これで“自己紹介をして既知の仲になる”という最低限の目標はクリアだ。
しかし出身か。日本から来た事を隠すなら考えておかないとな・・。
「僕は誰も知らないような田舎から来ました。トーキョーってとこなんですけど知らないですよね?」
「トーキョー?聞いた事ないな。」
自己紹介あたりから少し打ち解けたのかエリスが敬語から少しくだけた口調に変わっている。俺はここを好機とみて、さらに踏み込んだ事を聞く。
「ははっ、かなり辺境の地だからね。それよりもエリスさんの入学試験の時の魔法すごかったよ!重そうな大剣を持って魔法人形のところまでひとっとびして強烈な一撃を加えていてかっこよかった!あれはどんな魔法なの?」
「本当!?ありがとう!あれは、自分自身の力を増幅する魔法。身体強化の魔法だよ。でも私はヴァレンティア家では落ちこぼれなんだ・・・。」
えっ!?あれで落ちこぼれ?疑問をエリスにぶつけようとしたその時、マイクのような魔工製品を通して気品高い女性の声が鳴り響く。
「静粛に!」
その一言で、大講堂内のざわめきが一瞬にしておさまった。
かくいう俺も戦う訳ではないのに、声の主と彼我の圧倒的な戦闘力の差を感じ思わず背筋を正してしまう。
「私がこのオルニア学園の学園長エルヴィアーヌだ。諸君らには今日からこの学園で3年間冒険者になる為の知識と経験を叩き込む。早速だが問おう!冒険者とそうでないものの決定的な差はなんだと思う?そこのお前、答えてみろ。」
開口早々に彼女が厳格であろうことが伺える発言から続き、前方に座る生徒を目線だけで射抜き回答を求める。
「はい!身分の差によらず実力があれば一攫千金を狙えるという事でしょうか!!」
きびきびと答える獣人の青年。
しかし、俺はその回答内容よりもエルヴィアーヌ学園長の容姿が気になってしまう。
ファンタジー映画などでみる木漏れ日の柔らかな日差しのような金髪にとんがった耳。
顔は壮絶なまでに整っていて、美人という言葉ではこと足りない。目つきは怜悧で、その美貌と相まってある種の迫力を見るものに感じさせる。
服装はパンツスーツスタイルだが、上下共に白で着る者を選ぶ色だ。
しかも上はジャケットを羽織るのみでブラウスや下着は着ていない。
豊満な胸の内側半分程は見えていて、ジャケットのボタンよ外れろ!と念じざるを得ない。
異世界のスーツスタイル最高か。
「それも冒険者とそうでない者の違いと言えなくは無いが、決定的な差ではない。」俺の桃色の思考を鋭利な刃物で切り裂くように学園長が言葉を発する。
次いで、1人の生徒が立ち上がる。
「戦闘力の差ではないでしょうか?冒険者というのは一般市民にはできないような偉業を成し遂げられます。強大なモンスターの討伐や、紛争の鎮圧、盗賊団の退治など。そのどれにも求められるのが戦闘力の高さだという事は明白!このクロード=アルヴェイユ!3年間の学園生活で正義の刃をより鋭く研ぎ、力なき民のためにその力を振るう事、ここに誓おう!」
はぁ・・・またクロードか。よくこの学園長相手に勝手に発言できるな。その丹力は見事だと素直に感心する。しかも、前半は学園長の問いの答えになっているが後半は自分の話になっている。なんか誓いだしているし。いちいち自己顕示をしないと死んでしまう呪いにでもかかっているのだろうか。
「・・・ある意味正解と言えなくもない。褒美に勝手に発言した事は免じてやるが次は無いと思え。」
怒られてやがる。後ろ姿なので、その表情は読み取れないが髪をかき上げながら座る様を見ると、反省している様は感じられない。
「いいか諸君!よく聞け。冒険者とそうでないものの決定的な違い。・・・それは死亡率だ。」
クロードの演説で若干浮ついた雰囲気のあった空間が、エルヴィアーヌ学園長の一言により静まり返る。
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