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美しい兎に恋するおっさん

何匹目かのステップラットを倒した時『スキル【刀】を獲得しました。』とガイア様の声でアナウンスが流れた。


おお!ついに!


「イセラさん!刀スキルを獲得しました!」


「おー!おめでとうございます!もう少し早く獲得するかと思っていたんですけど、敵とのレベル差とスキル適正が無いせいで遅かったですね!」


おめでとうと言いながらも心にダメージを与えてくるイセラ。


「それではその状態でまた、ステップラットと戦ってみて下さい。」


どうやらまだスキルの説明をしてくれる気は無さそうなので、言われるがままステップラットに相対する。


するとさっきまでとは全く違う感覚が身体から湧いてくる。


なんというか、刀の柄が手にすいつくように収まり、自分の重心の位置も感じられるようになる。


最小限の動きでステップラットへと接近し、刀の重さをうまく利用し自然な流れで右上から左下方向へ袈裟斬りにする。


「チュイー!!」


すると一撃でステップラットは光の粒となって霧散。


「うおーーー!!!すげーーーー!!!!」


急いでログを確認する。


俺は一撃で22ダメージを与えていた。


「うん!いい感じでしたね!これがスキルの力です。スキルもガイア様から授けられる力の内のひとつで使いこなすととっても強力な力になります。逆にいくらレベルが高くてもスキルが育っていないと、さっきまでのおつかい士さんみたいによわよわなままって事ですね!」


ぐはっ!褒められたかと思ったら落とされた・・。こんな高等な技術も使ってくるとは。イセラの毒舌には慣れなければ心が持たないぞ。


しかしスキルの重要性がよくわかったと共に、だからこそおつかい士の“スキル適正なし”というのが冒険者に向いていない所以なのかと思う。


ただ、星結いの儀の時にアリナからは“スキル適正なし”というのは、得意なスキルも無い代わりに不得意なスキルも無いと聞いた。


「イセラさん。おつかい士ってなんで冒険者に向いていないって言われているんですか?適正なしでもマイナスも無い分、色々なスキルをひと通りは使えてそんなに悪くない気がするんですけど。」


「あぁ。それは冒険者が基本パーティを組むからですよ!剣士は剣が得意だけど魔法が不得意、魔法使いは魔法が得意だけど剣が不得意っていうように、ジョブごとに得手不得手があるんです。そしてそれを補うようにパーティを組むことによって、結果強大な敵も打ち倒せるようになるって事ですね!」


そういう事か。確かに適正なしって事は、剣は剣士に勝てないし魔法は魔法使いに勝てない。


お互いの良い部分を伸ばして悪いところを補うのが冒険者パーティだというなら俺の居場所は無さそうだもんな。


でもそれなら・・。


「おつかい士はソロ向きって事ですか?」


「ソロにも向いていないですね。魔物つかいなどのパートナーを従える力を持つジョブだったり、聖騎士のように攻撃魔法は不得意でも剣と盾、回復魔法に適正があるジョブは比較的ソロ冒険者に向いていると言われています。」


冒険者ギルドでアリナから言われた“はずれジョブ”というのはそういう事だったのか。


スキルを覚えた今だからこそ逆にその言葉の意味を実感する。


冒険者にならないでおつかい士として、街のみんなの為に生きる道もあるのだろうし、あるいはその方が向いているのかもしれない。


だけど俺は日本のサラリーマン時代に、ゲームやアニメの中で自由に生きる冒険者や、世界を救う英雄に憧れた。


いや、サラリーマン時代というよりは小さい頃から悪を倒すヒーローというものに憧れてきた。


男なら誰しもが一度は抱いた事のある想いで、とても自然な憧れのようなものだと思う。


それがいつしか大人になるにつれ、「自分には無理だ。」と諦めるのが当たり前になってきた。


そんな俺が異世界に来られて、冒険者や英雄を目指せるチャンスがあるというのにどうして諦める事ができようか。


もしかしたらこの世界の人も俺と同じように小さい頃は英雄に憧れて、大人になりその夢を諦めたのかもしれないが、できうる限りの努力はしたいと思う。


それでもなれなかったら、潔く諦めて冒険者では無くおつかい士として生きていけばいい。


この世界の人達は今のところ気の良い人達が多く、人間関係には恵まれていると言ってもいい。


その中でなら例え冒険者になれなくても、楽しく生きていけそうな気がする。


それにギフテッドアビリティのお陰で、クエストをこなし依頼人の満足度を高めれば今のところレベルだけは普通の人よりも早く上げる事ができる。


「自分の長所を伸ばせ。人は自分の短所には気付きやすいが短所を伸ばしても凡人が完成するだけだ。誰にも負けない自分の武器で勝負しろ。」尊敬する上司の言葉だ。


俺はサラリーマン時代の経験を活かしてやれるだけやってみせるさ!


「もしも~し大丈夫ですか?なんだか神妙な面持ちですけど。」


イセラの呼びかけで我に返る。


「はい!大丈夫です!色々教えてくれてありがとうございます!」


その頃には夜が明けつつあり、遠くの空が薄紫に染まっていた。


「うちの戦闘レクチャーは、今日はこんなところですね!それでは香草を摘んで帰りましょうか!」


少し移動して、イセラに香草の種類を教えてもらう。


朝露が乾く前に摘むことによって香りが良くなり、食欲増進やリラックスの効果が増すという事だ。


こんなところにも、【山賊の隠れ家亭】のこだわりを感じる。


それに従業員がこういった食材も採りにいっているから、あの低価格で美味しい料理が出せているんだなと感心する。


いつもは明るく元気に接客をして、お客さんを虜にしているような姿しか見ていなかったが、こういう風に見えないところで地味な事も手を抜かずにやっていると知り、見る目が変わる。


朝陽を浴びながら香草を摘むその姿は、きらきらと光る朝露の中に現れた精霊のようで俺は見惚れてしまった。いや、恋に落ちたかもしれない。



お読み頂きありがとうございます!


もしも面白いと思ってもらえたら


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