彼女の資金源
今日は実に一月振りくらいに残業なしで帰宅出来ることになった。理由はなかったが、そうなったら俺は彼女へ連絡をして、今日会えないかとメールで尋ねたのだった。
彼女から快い返事をもらえたのは、既に俺が彼女の部屋へと向かう電車に乗った頃だった。
彼女の家は、会社からで見ると俺の家から真逆に位置している。まあ、もし駄目でも残業なしだったんだし、そのまま乗り換えて帰宅すればいいや。それくらいの軽い気持ちで、俺は電車に乗り込んでいた。
「今日もお疲れ様」
彼女の部屋に着くと、彼女は俺にそんな労いの言葉をかけてくれた。
「いやいやそんな。今日は定時だし楽勝だったよ」
「でも、体には気をつけてくださいね?」
「お互いにね」
俺は微笑んで続けた。
「君も、体は壊したら駄目だよ。そうなったら、俺心配で夜も眠れなくなっちゃうからさ」
と言葉にして、彼女が頬を染めて俯いていることに気が付いた。俺はようやく、自分が何やら恥ずかしいことを宣ったことに気が付かされた。
「あぁと、君こそ今日どうだったの、仕事」
取り繕うように俺は言った。
「えぇっ!?」
……ん? なんだこの反応。
「まあ……あたしもぼちぼちだったよ?」
なんで彼女、今こんなにも言い辛そうにしているのだろう。まるで、自分の仕事をバラしたくないような、そんな感じ。
……思えば。
俺、彼女が一体どんな仕事をしているか知らなかったわ。
あの貯金額、並大抵のことでは俺よりも二つ年下の彼女が所得出来る額ではないが……彼女、一体どうやってあれだけの金を稼いだのだろう?
真っ先に思い付いた内容に、俺は顔を青くした。
まさか、体を売った?
性的な意味から始まり多種多様なやり方で、彼女は体を売ったのではないだろうか?
その結果があの額?
そ、そんな……。
そんなもの、さすがの俺も良心が痛んで退職後の当てに出来ないよ!
どうしようどうしよう。
今日、完全に全部がどうでも良くなって、色々とおざなりな態度を職場で見せてしまったんですけど!
これ、まずい……?
まずいのですか……?
「でもさすがに、ずっと座ってるのも疲れますね」
慌てる俺を他所に、彼女は大きな胸を強調するかのように背筋を伸ばしていた。
ワオ、なんてセクシャルなんだろう。
……じゃなくて!
ずっと座ってた?
であれば、多分春を売ったとか、そういう話ではなさそうだ。
思えばあんな額、体一つ売った程度で簡単に得られる額じゃなかった。今更ながら、浅はかな自分を少し呪った。
しかし、はて?
だとしたら、彼女は一体どうやってあれだけのお金を稼いでいるのだろう?
ボーッと彼女を見つめていると、目が合った。
しばらくそうして、彼女は頬を染めて、もじもじしながら俺から目を離した。頬は少し赤かった。
「どうかした?」
「あの……見つめてくれるの、嬉しいんですけど。少し恥ずかしくて……」
「……ああ、そう?」
恥ずかしさは俺にまで伝染した。
顔の熱さを感じながら、少しだけ居た堪れない気持ちになりながら、俺は頭を掻いた。
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