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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【8話】ラーヴワス・リナワルスの過去

「いまから800年くらい前だろうか? ……800年か。  ……ずいぶんと時が流れてしまったものだな」

ラーヴワスは「ふっ」と自笑していた。



――――――――



あの頃、オレは猿系の獣人として生きていた。

もともとチカラもあり、住んでいた森にはオレより強いヤツは居なかった。


その頃の世界は、今とは違い獣人やエルフ、ドワーフなどの亜人がその力を奮っていた。


今もそうだが、ヒト種族はゴブリンよりも弱かった。

ヒト種族はたくさん集まって暮らす事でなんとか身を守る事ができていたのだ。

それでも森に住む魔物などに襲われ、村が無くなるなんてことも日常茶飯事だった。


その頃、一番勢力を持っていたのが獣王ザザンだった。

ザザンはその強力な力とカリスマをもって獣王国を築き、現在のアクロチェア王国やガザム帝国の辺り一帯を支配していた。


そして北の山脈はドワーフ達が、西の巨大な森はエルフが支配していた。

その合間を縫うようにヒト種族は国を作っていた。

その頃のアクロチェア王国は、とても小さく獣王サザンなら戯れで滅ぼす事もできるだろうと言われる程だった。


だが、幸いな事に獣王ザザンは自分から攻めるような男ではなかった。

獣人はその本能からナワバリを重要視する。

自分のナワバリが荒らされなければ、基本的に動く事はしない。

それはドワーフもエルフも同じだった。

自分達の山や森が荒らされなければ、敵意を向けてくる事はなかった。

その為、この頃の世界はとても穏やかな時間が流れていたのだ。


そんな世界の中、ヒト種族だけは違っていた。

牙も爪も持たないヒト種族は、この世界ではとても弱い。しかし、その欲望だけはあらゆる種族の中で飛び抜けて強かった。

ヒト種族はその欲望をチカラにして知識を深め、その知識から得た知恵を使って様々な道具を作り出し、牙と爪そして硬い毛皮の代わりとなるモノを次々と生み出していた。

ヒト種族はゆっくりと、そして着実にチカラを蓄えていた。




その頃のオレはまだ若くチカラを持て余しており、近くにある獣人の小国を襲っては自分のナワバリを広げる事に執着していた。

そんな生活が何年か続くとオレの周りにも仲間が増え、オレは中規模の国の王となっていた。




そして、オレはついに手を出してはいけないモノに手を出してしまったんだ。

それまでも獣王ザザンと小競り合いを何回か繰り返していた。

その度に大きく勝つ事もなかったが、負ける事もなかった。 それがオレを勘違いさせたんだ。

ある日、オレは全勢力を持って獣王ザザンに挑んだ。


結果は、もちろん惨敗だった。

オレ達との小競り合いで戦っていると思っていたのはオレ達だけだった。ザザンはオレ達を適当にあしらっていただけだったんだ。

まるでジャレついてくる子供の頭を撫でるようにな…


そんな事に気が付いていないオレ達は、ザザンを怒らせてしまったんだろう。

完膚なきまでに叩き潰されたオレ達は、チリヂリになり必死で逃げた。

こうしてオレの国は滅んだんだ。


オレはなんとか生き残った仲間と民を連れて、ザザンから隠れるように土地を放浪していた。

その途中で仲間は死に、民も減っていった。

いつしかオレの下には数える程の民が居るだけだった。



オレは何度も民に『オレから離れてどこかの町で暮らせ』と言うが、民たちは『ラーヴワスさんが居ないなんて、生きている価値もありませんよ』と言い、オレから離れる事はなかった。


その言葉はオレの生きる力となったが、反面、呪縛となっていた。



放浪に疲れたオレ達は森の中に小さな村を作り、力を合わせて生きる事にした。

それはとても貧しく苦労ばかりする暮らしだったが、オレ達には幸せな暮らしとなっていった。



それから何年か経ちなんとか生活できるくらいになった頃、オレはひとりになる度に考えるようになっていた。


(オレはコレでいいのだろうか? あいつらは最強のオレ(過去のオレ)に付いて来たのではないのか? 今のオレは()()か? いや、ザザンに負けた時点で最強では無いのは分かっているのだが… それでいいのか? あいつらは… いや、()()()それでいいと言えるのか?)


オレは毎日、思い悩み…

それを誤魔化すように1人森に入り、森に住む魔物や獣、大木を相手に戦うようになっていた。

オレはあの日から、『呪縛』に囚われたままだったのだ。


しばらくそんな日々が続いていた時、森の中で奇妙な少女に出会った。


少女は黒いゴスロリのドレスを着ており、肩辺りで切り揃えた黒い髪を右手で跳ね上げさせていた。

その少女の目は、まるでルビーのように赤く輝き…… 額のその目を合わせて3つあったのだ。


その赤い目は全体的に黒い少女の中で、異様な輝きを放っており『恐怖』よりも『畏れ』を強く感させた。


オレはすぐに理解した。


「ロア・マナフさま…」

オレはその場で跪き、頭を垂れる。


「ねぇ、ラーヴワスさん。 ボクはね、この世界がつまらないんだ。 ラーヴワスさんなら、面白くできる?」

ロア・マナフは突然現れたかと思うと、そんな事を言い出した。

オレが言葉の意味が理解出来ず、固まったままロアさまを見つめていると


「ねぇ、聞いてる?」

ロアさまは少し機嫌悪そうに、オレに話しかけてきた。

オレは慌てて頭を下げて答える。


「は! 申し訳ありません。 少しロアさまに見惚れてしまいました…」


「あら!? うん… それは仕方のない事だよね。 いいよ、許してあげる」

ロアさまは機嫌をなおし、ニコニコしながらオレを許してくれた。


「ありがとうございます。 ロアさま、この世界が()()()()()…とは、いったいどういう意味でしょうか?」

オレはロアさまが、()()つまらないと言っているのかが分からなかった。


「えー? 分からない? うーん。仕方ないなぁ。 うん… いいよ、教えてあげる」

ロアさまはクルっと回り、スカートをふわっと膨らませて機嫌よく微笑む。

そのままオレに近づくと、顔をオレの顔に寄せて『クスっ』とイタズラっぽく笑った。

その笑顔は側からみれば可愛いモノなのだが、なぜかオレには悍ましさを感じる笑顔だった。


「ねぇ、今の世界どう思う?」

ロアさまの質問は、オレにはよく分からないモノばかりだった。


「どう… とは?」


「今の世界ってさ、平野には獣王さんがどーんっていて、森はエルフさん、山にドワーフさんがずーんっているでしょ? で、お互いに干渉もあまりしないからさぁ、みんな時間が止まってるみたいに見えるんだよね」


「時間… ですか」

確かにお互いに干渉する事もほとんどなく、自分の世界に閉じこもって平和に暮らしているように見える。

だが、それは一部の力を持つ者だけで、オレ達のように弱い者はその日を生きるのにも必死なのだが…

ロアさまには、そんな小さなオレ達は見えていないのかもしれない。

それよりロアさまの表現は独特と言うかなんと言うか…

神とはそういうモノなのだろうか?

オレは不敬な事を考えながら、ロアさまの言葉の続きを待つ。


「そう、だからさぁ 上から見ててもつまらないの。 ラーヴワスさん、前はバリバリだったじゃない? 見てて面白かったんだけど… やめたの?」


(バリバリ??)

やはりロアさまの言葉は難解だ…

だが、なんとか言いたい事は分かったような気がする。


「なるほど… ロアさま、オレならこの世界を()()()する事が出来る。 だから、オレにチカラをくれないか?」

オレはオレの呪縛を解く為に、更なるチカラを求めたのだ。


「いいよ」

ロアさまは軽く即答すると、オレに手を向け何かを呟いた。

すると、オレの身体は一瞬だけ光り…… 元に戻っていた。

いや、元には戻っていなかった。

猿系の獣人だったオレの姿はヒト種族に近づき、()()()()()()髪と顔は()()なっていた。



「こ…… コレは…」

オレは体の内から溢れ出すようなチカラを感じていた。


「ラーヴワスさん、そのチカラ気に入った?」

ロアさまはクスクスと笑いながらオレを見ていた。


自分の身体を確かめるように軽くジャンプし、腕を振ってみる。


「すごい… ロアさま! ありがとうございます! 必ずやロアさまのお気に召す世界にしてみせます!」


「ふふふ、楽しみにしてるよ?」

ロアさまはそう言うと、光の粒子になり消えてしまった。



「オレにも運が向いてきたな…」

この時のオレは最高の気分だった。

だから、この先に起こる災いを想像する事すら出来なかった。

ロアからチカラを得たラーヴワスは行動を始める。

だが、それは容易な事ではなかった。

そんなラーヴワスはある人物と出会う。


次回 ふたつの天啓


ぜひご覧ください。

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