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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【7話】特異点

酒瓶を中心にノブナガとアネッサ、ラーは車座になって座っていた。


「まずはワシらの事を話さねばなるまい」

ノブナガはそう切り出すと、自分達がここに来た経緯を説明した。




「なるほど。 あんたらは『冒険者』で、ここにオレ達を殺しに来た…ってことだな?」

ラーは酒を器に並々と入れると一気に飲み干し、器をコンっと床に置いた。


「うむ、その通りじゃ。 じゃが、ワシはその依頼内容に疑問を感じておる。 じゃから、お主らを殺す前に話をしてみたいと思ったのじゃ」

ノブナガは全てを正直に説明していた。

うまく誤魔化しウソを混ぜて説明しても、おそらくはラーにはバレないだろう。

だが、それをノブナガは良しとしなかった。

もし正直に話した事によりラーと敵対する事になったとしても、それはそれで致し方ない。

それよりも腹を割って話し、お互いに信頼できるようになったら面白そうだ。と、ノブナガは考えていたのだ。



「なるほどね。 で、その疑問って聞いてもいいか?」

ラーの酒は止まらず、すでに5杯以上飲んでいた。


「うむ。 ワシらはとにかく金が必要だった。だから、最初は今回のクエストの条件である『殲滅』にも目を瞑っていたのじゃ」

ノブナガが説明すると、となりでアネッサは「う…」と小さく声を漏らして目を逸らしていた。


「それに『王国』が『殲滅』を条件にするのじゃから、それなりに理由もあるのじゃろう… と、勝手に考えていた。 当然、近くの村に住む者からすれば、近くで魔物がウロウロしていたら不安になるじゃろうからな。 じゃが、近くの村が襲われている様子もない。 たまたまかもしれんが、街道を歩くヒトが襲われているようにも見えんかった」

ノブナガは酒を飲み干し、ラーを見る。


「そりゃそうだろう。オレは子分どもに村を襲わせない。 オレは酒が呑みたいんだ。村を襲ってヒト共がこの洞窟に来たら、ゆっくり酒を呑んでいられなくなるからな。 まぁ、偶然、ヒトと遭遇してしまったら襲いかかるだろうが、それは自己防衛だ。 ヒトと遭遇してしまったらゴブリンどもは殺される。なら、殺される前に殺すしかないだろう?」

ラーは器でノブナガを指しながら、同意を得ようと首を傾げていた。


「うむ。 道理じゃ」

ゴブリンだって素直に殺されてやる理由はない。

『殺られる前に殺る』

当たり前の理屈だ。


ラーは満足そうに頷くとノブナガに酌をし、自分の器にも並々と酒を注ぐ。


「ワシが昔住んでいた町の近くでも、獣に人が襲われる事があった。 じゃがな、それは森にエサが無い時や、不用意に近づいたバカが襲われるのじゃ。 じゃから、ワシらはその獣を殺す事はしても、理由もなく撫で切りになどせん」


「撫で切り?」

ラーは『撫で切り』と言う言葉が理解出来ずノブナガを見ていると


「たしか、皆殺し… って意味よ。 こいつ、時々、よく分からない言葉を使うの。 たぶん、ど田舎過ぎでわたし達には分からない言葉を使うのだと思うわ」

アネッサは器用に肩をすくめながら、ラーに話しかける。


「なんじゃと? ワシにはお主の方が田舎者に見えるがの」


「なんですって?」

ノブナガとアネッサが睨み合っていると、ラーがノブナガとアネッサの器に酒を注いだ。


「どっちが田舎者でもいいから、話しの続きは?」

ラーの冷静な声にノブナガとアネッサは、「むぅ」と頬を膨らませながらも『どっちが田舎者が論争』は強制終了となった。


ノブナガは軽く咳払いし、話しを続ける。


「今回のクエストの基本内容は『調査』じゃ。 ()()()()()()ゴブリンの殲滅という内容じゃ。 反対に申すと不可能なら調査、つまり情報だけ持ってこいと言うことじゃ。 ワシはこのクエストの主旨は『()()()ゴブリン共を殲滅する』ことじゃと感じた」


「確実に……か」


「うむ、中途半端に突いてゴブリン共が逃げる事を嫌っておるように思えるのじゃ。 なぜじゃ? なぜそこまでして殲滅に拘るのじゃ? ワシはここに来てその理由が分かったような気がした」

ノブナガはラーを見ながら、言葉を止める。


「……オレ……か…」

ラーも心当たりがあるのか、ノブナガの考えを理解していた。


ノブナガはクイッと酒を呑むと、ラーに尋ねた。

「お主、王国と何か因縁があるのか?」



ラーは少しだけ黙ると、ノブナガを真剣な目で見る。


「その前にひとつ聞かせてくれ。 あんたは、どうしてオレが王国に因縁があると思ったんだ?」


アネッサもラーの言葉に頷きながら「どうしてそう思うの?」と、言いたげな目でノブナガを見ている。


ラーの真剣な目に、ノブナガも真顔になり「ふむ」と頷いてから話しだした。


「まずは、先程も申したように王国が異様に『殲滅』に拘っていること。 そして実際に来てみると確かにゴブリンが洞窟に住み着いていた。 が、ゴブリン自体は弱い。少し脅せば洞窟から追い出す事もできそうな程にな」


ラーはノブナガの言葉に同意するように頷くだけだ。


「ワシは初め、ここのゴブリンの大将を脅して洞窟から追い出してやろうと考えたのじゃ。 そうすればここにいるゴブリン共を撫で切りにする必要もないからの。 すでに100体程殺しているから、王国にも『殲滅した』と言ってもバレんじゃろうと思ったのじゃ。 それにな、なによりその方が楽じゃ」

ノブナガはクククと悪そうな顔で笑う。


「あ… あんた、そんな事考えてたの?」

アネッサは呆れたように呟いていた。


「楽して金が貰える方がよかろう?」

ノブナガはニヤリと笑うと、アネッサは「はぁ」と溜め息を吐くだけだった。



ノブナガはラーに向き直ると、話しを続ける。

「そこで、ゴブリンを捕まえて話してみると、名前を持たないゴブリンが大将を『ラーさま』と呼ぶのじゃ。 もしかしたら、強いゴブリンは名前を持つのか?とも思いながら案内させた… ところが、実際に会うと強いゴブリンではなく人間じゃった」

ノブナガはラーを見ながら言葉を続ける。


「お主は強い。ゴブリン共をまとめるだけにしては強過ぎた。 それに、この場所じゃ。 大将は洞窟の奥で過ごすとしても、せめて洞窟内で起こっている事は把握できるような場所にいるものじゃ。 じゃが、この部屋はまるで誰かに見つからないように隠れているように見えた。 つまり、この洞窟の中で、お主はあまりにも特異過ぎるのじゃ。 そこで、ふと思い出したのじゃ。王国が『殲滅』に拘っていることをな。 もしかして、王国の本当の目的はお主ではないのか?」


ノブナガの考えを聞きラーはしばらくの沈黙の後、意を決するように話し出した。

「オレの本当の名前は、ラーヴワス・リナワルス。 アクロチェア王国の()騎士、ロイヤルナイツのひとり()()()

ラー… いや、ラーヴワスは溜め息と一緒に過去の記憶を吐き出すように『本当の名前』を吐き出した。


「ロイヤルナイツ!? あの、ロイヤルナイツか!?」

ノブナガは思わず声が大きくなってしまう。


「ああ、オレは500年程前までは王国の騎士として戦っていた」


「500年? お主はヒトではないのか?」


「ん? オレはどちらかと言うと獣人だ。 まぁ、正確には獣人でもないのだが…」


「では、お主はいったい…?」


「所謂、『幻獣人』というやつだ。 オレは元はサル系の獣人だったが、ある時、神… ロア・マナフさまと出会ってな。 ロアさまは『この世界はつまらない。ラーヴワスさん、この世界を面白くしてよ』と仰ったのだ」


「面白く…じゃと?」

ノブナガはチラっと刀の柄の先に止まっているマナを見る。マナはいつもと変わらず、長い尾羽をフリフリしているだけだった。


「あぁ、オレは『面白くしてやるから、チカラをくれ』と言ったんだ。 すると、ロアさまは軽く『いいよ』と返事をしてオレを獣人から幻獣人へ進化させたんだ。 幻獣人となったオレは永遠とも言える寿命と、チカラを手に入れた。 そして、王国騎士団に入りロイヤルナイツにまで上り詰めたんだ」

ラーヴワスは酒を煽るように呑み干すと、器をコンと床に置く。


「ちょっと待て。 ワシは騎士団 団長のヤールガに『ロイヤルナイツは王国の上流貴族しか成れん』と聞いておるぞ? それに、王国では獣人は獣以下として扱われておる。 ヒトでないお主がどうやってロイヤルナイツに成れたのじゃ?」

ノブナガの疑問は当然だった。あまりにもノブナガが見てきた王国の姿と、ワーヴワスが話す王国の姿が乖離しているのだから。


「ああ、オレが王国から離れて500年の間にずいぶんと変わってしまったようだからな…」

ラーヴワスは器に酒を並々と入れるとひと口呑み、ふぃーと息を吐く。


「オレと王国の因縁… か。 ノブナガ、あんたには教えてやるよ」

ラーヴワスは遠い目をしながら、中空を見つめていた。

洞窟の奥でゴブリンと過ごすラーヴワスは、アクロチェア王国の元騎士『ロイヤルナイツ』のひとりだった。

驚くノブナガ達に語るラーヴワスの過去とは?



次回 ラーヴワス・リナワルスの過去


ぜひご覧ください。

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