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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【4話】はじめてのおつか… じゃなくて、クエスト

そして、話しは戻る



――――――――――



「くそ、どうしてこうなった…」

ノブナガはゴブリン達に囲まれ、悪態をついていた。


となりでアネッサが「う…」と小さく声を漏らしながら、バツの悪そうな顔をしているがノブナガの視界には入っていない。


すでに100体以上のゴブリンを斬り殺しているが、洞窟の奥からワラワラとゴブリンが湧いて出てきているのだ。




王都アクロザホルンから西に半日ほど歩いた場所にある村の近くにその森があった。

その森の入口付近にゴブリンが住み着いたという洞窟があり、今回の目的地であった。

いま、ノブナガ達はこの洞窟に入り3時間程経っているだろうか。

ギルドの受付嬢は、この辺の洞窟はそんなに広くないと言っていたが、まだまだ洞窟は広がっているようでノブナガが思う『広くない』と、受付嬢の思う『広くない』には、かなりの乖離があるように感じていた。


この森にはいくつかの天然洞窟があり、ゴブリンやオークなどの魔物や、黒大蜘蛛や大蠍などの魔獣が住み着いている。

森の奥にある洞窟なら魔物や魔獣達がそこで繁殖していても、付近の村や町にはそんなに影響はないだろう。

(まったく無いわけではないが、比較的影響は少ない… というレベルだ)


今回は森の入口付近であるため、その洞窟に住み着いた魔物や魔獣達が森を出て村や町を襲う可能性があったのだ。

それを危惧した付近の村や町の住人から、王国へ対策の要望を依頼していたのが、今回のクエストの真相だった。


ちなみにアネッサの話しだと、この世界には魔素という物質があり、魔素は空気のように自然にあるもので、森や洞窟・墓場などには魔素溜まりが出来やすいらしい。

その魔素から発生するスライムやバジリスク、コカトリスなどを魔物と呼び、元は動物や昆虫などで魔素を浴びて変異したものを魔獣と呼んでいたらしい。

ただ、アネッサがヒトであった300年前はそう呼び分けていたようだが、最近はその定義が曖昧になり、まとめて『魔物』と呼ぶ事が多いそうだ。



ゴブリン達を見ながら、ふと、そんな話しを思い出したノブナガは、

(こやつらは、『魔獣』じゃろうか? それとも『魔物』なんじゃろうか?)

と、くだらない事を考えていた。


この洞窟で出会ったゴブリンのほとんどを一撃で斬り殺しきたノブナガにとって、これくらいの数なら容易く屠ることができる自信があった。

ただ、数が多いので疲れる事と、多少、面倒臭い事がネックなだけなのだ。


「まぁ、どっちでも良いわ」

ノブナガは腰を落とし、ゴブリンに斬りかかる体勢をとる。


「ノブナガ、さっきと同じようにいくわよ!」

アネッサはゴブリンを見据えながら、ノブナガに声を掛けると、「承知」とノブナガも短く答えた。


ソレはこの洞窟に来てから、アネッサとノブナガが何度も行なってきたゴブリン討伐の手法だった。


アネッサの目が赤く変化すると、部屋の中の温度が数℃下がる。

急な気温の変化にゴブリン達が驚いているところに、アネッサから悍ましく、そして禍々しいオーラが発せられた。

このオーラがアネッサの『リッチ』としてのスキル『恐怖のオーラ』だ。


恐怖のオーラがゴブリンたちに襲いかかると、ゴブリンの顔色は蒼白に変わり恐怖に染め上げられていく。

ほとんどのゴブリンは足を震わせ、手にしていた武器を落としてしまい、そのうちの何体かは口から泡を吹いて倒れてしまう。

気丈にも震える手で武器を構えるゴブリンはノブナガに斬り殺され、あっという間にノブナガ達を取り囲んでいたゴブリンは無力化されてしまった。


「こやつらより、足軽の方が手応えがあるぞ…」

ノブナガはブツブツと文句を言いながら、残りのゴブリンを殺す。

本来なら戦意喪失した相手を殺すような事はしないのだが、今回のクエストの討伐条件に『殲滅』がある為、仕方なく殺しているのだ。


「悪く思うなよ…」

ノブナガは斬り殺したゴブリン達に手を合わせ、冥福を祈っていた。



「ノブナガ、行くわよ」

アネッサはゴブリンの死体をチラっと見ると、さっさと部屋を出て行く。


ノブナガと違い、アネッサは『死』に対して感傷的なものをあまり感じていない。

それが自分が固執する月女族なら別だが、それ以外のモノに対してはほとんど興味も示さない。

せいぜい『アンデットを作る材料』くらいの感覚だろう。

だがアネッサは『巫女』でもあるため、()()()()()()『巫女』として死者を慈しみ供養するのだ。


「お主は、こやつらに対して冷たいのぉ」

ゴブリンの死に興味を示さないアネッサにノブナガはそう呟くと、アネッサについて部屋を出て行った。



かれこれどれくらいのゴブリンを屠ってきたのだろう。

ノブナガもアネッサも冒険者カードがカウントしてくれている事もあり、数えることを諦めていた。


「のう、アネッサ」

洞窟内を歩きながらノブナガは気楽に声をかける。

普通は突然現れる魔物に注意しながら進むので神経をすり減らすものだが、あまりに頻繁に出てくるゴブリンにノブナガは慣れてしまい… と、言うより飽きてしまっていたのだ。


「なに? また、急に出てくるかもしれないんだから、あまり話しかけないで欲しいんだけど?」

アネッサは若干イライラしながら応える。

だが、これが()()だろう。

いつ、どこから襲われるか分からない状況で世間話でも始めるような雰囲気のノブナガの方がおかしいのだ。


「まぁ、そうピリピリするな。 ゴブリンとやらが出てきても、即座に斬り捨ててやるわ」

ノブナガは、かかかと不敵に笑っていた。

確かに、それは事実だった。

ノブナガは普段と同じように歩いているように見てるのだが、アネッサよりも早くゴブリンを察知し、会敵した瞬間にはゴブリンを斬り伏せているのだ。

ゴブリンからすれば出会い頭に殺されているので、何が起きたのかも分からずに死ぬ事になるだろう。

まあ、それも2〜3体くらいのゴブリンならそれで対応できるが、先程のように多数のゴブリンに囲まれてしまうとアネッサとの共闘が必要になるのだが…



「で、なによ?」

アネッサは冷たく返事をする。


「ふむ、このレーションというメシは美味いのぉ。 昔、戦の時は干飯や味噌玉、ズイキを美味いと思っていたが、このレーションは比べ物にならんほど美味い」

ノブナガはメルギドを出発する時、イルージュが準備してくれた冒険時の保存食『レーション』をポリポリと食べ、指を舐めていた。


「あ… あんた… もう少し緊張しなさいよ… わたしだけ緊張してバカみたいじゃない」

はぁ、とため息を吐きながらアネッサは頭を抱えていた。


「腹が減っては戦はできぬ… と、昔から言うじゃろ」

はははと、朗らかに笑うノブナガの声が洞窟に響いていた。


「で? 話しはそれだけ?」

アネッサの呆れたような問いかけに、ノブナガは神妙な顔をになり「ふむ…」と腕を組んでアネッサを見る。


「どうしたのよ?」


「うむ。ワシはこの国をあまり知らんとは、前にも言ったが。 のぅ、アネッサよ。 今回のクエストのゴブリン共じゃが… なぜ撫で斬りせねばならんのじゃ?」

ノブナガはクエストを受けその条件が『殲滅』である以上、このクエストを遂行する事に異論はないし、それが村を襲う可能性があるからという理由も理解はしている。


だが、本当に『殲滅』せねばならないのか?

ある程度の勢力を削り、村に手を出さないよう懲らしめるだけでよいのではないか?

もしくは洞窟から追い払うだけではダメなのか?

ゴブリンも獣と同じで、エサがあればヒトを襲う事もしないだろう。

日の本でも村の近くにクマがいたが、クマが人を襲うのはエサが少ない時期だけだったのだから…


ノブナガは王国が『殲滅』という結果を望む理由が分からなかった。


「さぁ? ゴブリンがヒトを襲うからじゃないの? そんな事、わたしが知るはずないじゃない」

アネッサは興味無さそうに答える。


「ふむ。お主は興味無い事には、全く関心を示さぬのぅ。 まぁ、よい。 のぉ、アネッサ。 ゴブリンとは会話はできるのか? 武器を扱うくらいじゃ。それなりに知識は持っているように思うのじゃが」

ノブナガの質問に、アネッサは少しだけキョトンとすると


「ゴブリンと… 会話? なぜ?」


「ふむ、あやつらを殲滅する事はできるじゃろう。 じゃが、ワシは無用な殺生は好まん。 ゴブリンと会話が出来るなら、あやつらの大将と話しをしてみるのも一興かと思っての」

ノブナガは何かを企んでいるのか、ニヤリと笑う。


「ふーん… 会話ねぇ… まぁ、多少なら出来ると思うわよ。 ただ、あいつら… いや、魔物は力が全てだから話しをするにしても、まずはこちらが強い事を知らしめないと話しはできないと思うわよ」

人間と違い魔物や獣は弱肉強食の世界に生きている。

自分より弱い者は、食われて当たり前なのだ。


「なるほど… よし、次出てきたゴブリンは殺さずに話しが出来るか試してみよう」

ノブナガは指をパキパキと鳴らしながら不敵に笑っていた。


「あ… あんた、ゴブリンを殴るつもり?」

アネッサが呆れた顔でノブナガを見る。


「殺さぬようにするなら、体術のほうがよかろう?  峰打ちでも良かろうが、あやつらは弱過ぎるからの。 峰打ちでも殺しかねん」


「はぁ、それならわたしが恐怖のオーラで戦意喪失させる方が早いでしょ?」

アネッサは頭に手を当てながら、軽くため息を吐く。


「む… なるほど、その手もあったか。 じゃが、ゴブリンにワシの力を見せつけてやらねばならんのじゃろ? ならば、ワシの力、思う存分知らしめてやろうではないか」

ノブナガがクククと笑い、アネッサは「えぇ…」と若干引いていた。


「さぁ、早く出てこい! ゴブリン共よ!」

ノブナガが肩をグルグル回しながら楽しそうに歩いていると、空気を読んだのか3体のゴブリンが正面から現れた。


「よし、きたー!」

ノブナガが嬉しそうな叫びを上げながらゴブリンに突撃する。

アネッサは「はぁ…」と、頭を抱えてながらノブナガを見送っていた。


驚いたのはゴブリンだ。

自分たちの住処が騒がしいと、3体で点検を兼ねて歩いているとヒト種族を見つけた。

その瞬間、ヒト種族は問答無用で突撃していたのだから…

それも、嬉しそうに『素手』で。


ゴブリン達は錆びたショートソードを抜き、ノブナガの突撃に備えようとする。


「遅いっ!」

ノブナガはあっという間にゴブリンとの間合いを詰め、ゴブリンがショートソードを構える前にノブナガの拳が顔面に叩き込まれていた。


「ぶばぁ!」

ゴブリンは鼻血とヨダレを撒き散らしながら、両サイドのゴブリンを巻き添えに吹き飛んだ。


ノブナガは地面に転がったゴブリン1体を蹴り飛ばし、転がっている1体の顔面に拳を叩き込む。


メキメキメキ


ゴブリンの鼻と頬骨が砕ける音が響き、ゴブリンは堪らず顔面を抑えながら転がり逃げる。


残ったゴブリンは腰を抜かし、あわあわと恐れを抱いた目でノブナガを見ていた。


「さぁ、お主。 ワシの力は分かったか?」

腰を抜かしたゴブリンに、ノブナガはニヤリと笑いながら声をかける。

が、ゴブリンは顔に恐怖を浮かべたまま震えて答えなかった。


「む? ワシの言葉が分からんか? それとも、ワシの力をもっと見せる必要があるのか?」

ノブナガは不思議そうにゴブリンを見ながら、拳を握り締める。


「マ… マデ! コトバわかる。 ツヨきヒトの子! オデ、オマエのコトバわかる!」

ゴブリンは慌てて手の平を突き出して、後退りしノブナガとの距離を少しでも広げようとしていた。


「お、お主。 ワシの言葉がわかるのか。 それでは、少しワシと話しをせんか?」


ノブナガはゴブリンの顔に自分の顔を近づけて、ニヤっと笑っていた。

ノブナガはクエストの内容に違和感を感じ、ゴブリン達を取り纏めているモノと話をしてみようと考えていた。

だが、ノブナガの思いはそう簡単に伝わるはずもなく…



次回 話しをしよう


ぜひご覧ください。

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