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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【3話】ノブナガの職業

「次はワシじゃな」

ノブナガはワクワクしながら手の平にカードを乗せる。


元来、ノブナガは新しいモノや珍しいモノが大好きだった。

まだ織田信長と名乗っていた頃、誰もが考えつかないような派手な格好を好み、町で仲間を連れて暴れるなど… 所謂、『傾奇者』と呼ばれていたのだ。

新しいモノ好きとして有名なところでは、信長は戦に鉄砲隊を取り入れ新しい戦の形を作った事だろうか。


そんなノブナガから見た『冒険者カード』は、まるで宝石のように見えていただろう。


「のう、娘。 このカードとやらを手の平に乗せたが、あとはどうすればよいのじゃ?」


「はい、そのまま少しお待ちください。 いまカードがノブナガさまのデータを読み込んでいるところですので…」

受付の女性は笑顔を絶やす事なく説明する。

すると、ノブナガの手の平に置いた冒険者カードがポゥと光り、文字が浮かび上がった。


「おお! ……むぅ、読めん」

ノブナガは頬を膨らませながらカードを見ていた。


「失礼します」

女性がノブナガのカードを手に取り、内容を確認する。


「なんと書いておるのじゃ?」

ノブナガは目をキラキラさせながら、女性を見ていた。


「ノブナガさま。 お名前はノブナガ… だけなのですね」

普通はアネッサ・ルートハイムや、ティア・ウル・ステラリアのように、ファーストネームの後に家名やセカンドネームが続くのだが、ノブナガにはそれが無かった。

平民などで、たまにファーストネームしかない者もいるので珍しくはないのだが、だいたいは孤児が自分に自分の名前を付けたり、仲間から付けてもらったりしたの者がほとんどだった。

この時の女性は、『この子、苦労して生きてきたのね… ルートハイムさまに拾って貰って良かったわね…』と、哀れみの心境だっただろう。

だが、女性はプロだ。

一切、そのような感情を表すことはしなかった。


「では、ノブナガさま。 ノブナガさまに適正な職業は…」

女性はカードの職業欄に目を移す。


「ふむ、職業は? なんじゃ?」

ノブナガはフンフンと鼻から息を吐き、若干興奮気味だった。


「あ、すみません。 少しお待ちください」

女性は軽く頭を下げて、隣の受付の女性に小声で話しかける。


「ねぇ、コレ見て」

「え? どうしたの?」

「コレ、この職業… なんて書いてるの? わたし初めてみるんだけど…」

「どれどれ?  ………ん? なにこれ?」

「ね? そもそもコレ、どこの文字?見た事もない文字なんだけど… 知ってる?」

「ううん。 初めて見るわ。と、言うより、コレは文字なの?」

「わからない…」


受付女性がヒソヒソと話していると、


「早くせんか。 なにを勿体ぶっておる」


「も… 申し訳ありません。 少し見たことが無い職業でしたので…」

ノブナガの声に慌てて女性が答え、カードをノブナガとアネッサに見せる。

文字が読めないノブナガに代わり、アネッサがカードを女性から受け取り職業欄を見る。


「……ん? 見た事もない文字ね…」


「む? どれ見せてみよ」

ノブナガは自分の冒険者カードを受け取り見る。

そこにはノブナガが読めない文字が規則正しく並んでおり、なんとなくこの辺に名前や職業などが書かれているなぁと分かる程度だった。

しかし、一箇所だけノブナガがよく知っている文字が書かれていた。


「織田信長… なんじゃ?ワシの名前が書かれておるが?」


「え? あんた読めるの?」

アネッサが驚いてノブナガを見る。


「む? ココだけじゃが… ワシが読める文字が書かれておるぞ」

ノブナガがカードの一部を指差して説明すると、


「ええ? あんたその文字が読めるんだ!? で、なんて書いてるって?」

アネッサも、受付の女性も驚いてノブナガを見ていた。


「織田信長じゃ。 ワシの名前が書かれておるぞ?」


「ノブナガの… 名前?」

アネッサと受付の女性がお互いに何かを確認するように顔を見合わせる。


「うむ。 コレはワシの名前じゃ」


「あ… あの、ノブナガさま? そこは適正職業が表示される場所なのです。 ですので、ノブナガさまの適正な職業は『織田信長』………と、なります?」

女性も困惑したまま説明をする。


「ワシの適正職業が、ワシじゃと? なんじゃそれは?」


「も…申し訳ありません。 このような事は初めてでして… 私達もどうお答えすればよいのか…」

女性は申し訳なさそうに頭を下げていた。


「むぅ、このカードとやらが壊れているのか?」


「いいえ、それはありません。 そのカードは魔法が付与されており、壊れることはないのです。 ですので、ノブナガさまの適正職業は『織田信長』で間違いありません。 ですが、それがどのような『職業』なのか… 私共にもよくわからないのです」

女性は少し困ったように答えていた。


「むぅ、ワシはてっきり戦士とか、騎士とか… あわよくば魔法使いとか出るのかと思っていたのじゃが…」


「普通はそうですね。 私も初めてですし、その文字も初めて見ました」

ノブナガと女性は不思議そうに冒険者カードを見る。しかし、職業『織田信長』は変わる事もなく表示されていた。


「ふむ。 まぁ、致し方あるまい。 ワシの職業は織田信長… と、いうことじゃな」

はぁ、とため息をつくと、ノブナガは肩を落としてガッカリしていた。


「あんた、職業が自分の名前って… ほんと意味が分からないわね」

アネッサも呆れているのか、不思議がっているのかよく分からない顔でノブナガを見ていた。


「うむ、せめてサムライとか武将とかなら職業として分かるのじゃがのぉ…」

やれやれとノブナガは自分のカードを見て苦笑いし、カードを懐に仕舞う。


「ところで、ノブナガ。 あんたの名前が『織田信長』って事は、名前がオダ? 家名がノブナガ… なの? で、この文字はどこの国の文字なの? あんたの故郷って…?」

アネッサが立て続けに尋ねていると、受付の女性たちも興味津々にノブナガを見ていた。


「ん? ワシの元の名前は織田信長。 家名が織田で、名前が信長じゃ。 この文字は日の本(ヒノモト)の文字で、漢字という。 お主らは……知らんじゃろうな」


「ヒノモト…? 初めて聞く国の名前ね… それにカンジ? 聞いたこともないわ」

アネッサは自分の記憶や知識を総動員するが、ヒノモトもカンジも未知のモノだった。


「ふむ。 ワシは遠い異国、日の本から来たのじゃ。 おそらくこの王国、いや、この世界の者達は知らんじゃろう」

ノブナガは遠い目で、懐かしい日の本の風景や仲間の武将たちを思い出していた。


「……あんた、ほんとナゾよね」

この世界では常識である冒険者という仕事のリスクも、ヒト種族と獣人の関係も知らない。そういえば、ウサギは()()なのに、黒大蜘蛛の囮である『()()ウサギ』を見て飛びかかるなんて非常識なこともしていた。

ノブナガはあまりにもこの国、いや世界について知らな過ぎるのだ。

アネッサはノブナガという人物が、よく分からなくなっていた。


「ねぇ、ノブナガ。 あんたホントに何者なの?」

アネッサは少し怪訝な目でノブナガを見ていた。


(ふむ… ロアの話しをするとややこしいみたいじゃし… これは面倒臭いの…)

ノブナガは少しだけ考えると、場の雰囲気を変えるようにパンっと手を叩く。


「ワシは、ノブナガじゃ。織田の家名を捨てた、ただのノブナガじゃ。 それでよいではないか。 そんな事よりも、早く仕事を受けんか。 このままでは野宿じゃぞ? しかも、メシ抜きじゃ…」

ノブナガは少し悲しそうに『メシ抜き』と言い、肩を落とすフリをする。


「ん… そうね。 ノブナガの過去を詮索しても仕方ないわね。 とりあえずクエストを受注しましょう」

アネッサは気を取り直して、受付の女性の方を向く。



「…くえすと?」

ノブナガがまた初めての単語に頭を捻っているが、アネッサは敢えて無視してクエストの受注を始めていた。



「わたしたちはとにかくお金がいるの。 なにかいいクエストはない?」

アネッサが食い気味になっていると、受付の女性は若干引きながらもプロとして対応する。


「そうですね… ノブナガさまの力がよくわかりませんが、アネッサさまの力でしたらだいたいのクエストは受注可能でしょう。 と、なると…」

女性はクエストのリストを指でなぞりながら見ていく…

ふと、指が止まり、そのクエストである書類を戸棚から取り出してアネッサの前に広げて見せた。


「アネッサさま、このクエストなんてどうでしょうか?」

その書類に書かれたクエストは、王都の近くにある森の中にある洞窟に住み着いた『ゴブリンの調査』だった。


「ゴブリンの調査?」


「はい。 最近、森の中にある洞窟にゴブリンが住み着いたと情報があり、王国よりその『調査』と可能なら『討伐』の依頼が来ております。 依頼者は王国ですので支払いについては問題ありません。 報酬は調査のみなら銀貨3枚。 討伐でしたら討伐数によります。 相場は10体の討伐で金貨1枚というところでしょうか。 あと、『討伐』を行う場合の条件としては『殲滅』する事となっておりますので、ご注意下さい。 これは、殲滅していない場合、結果的に騎士団などで殲滅作戦を決行する必要がある為です。 あくまでも王国の目的はゴブリンの殲滅であり、冒険者さまで殲滅できれば騎士団を動かさなくていい分を報酬として支払う… と、いう意味なのでしょうね」

女性はクエスト内容を見ながら説明する。


「調査だけ… と、いうとどこまでの情報を持って帰ってくる必要があるの?」


「調査だけでしたら、ゴブリンの数や装備、特異な個体の有無など、後日、騎士団等による討伐作戦に必要な情報がいりますね」


「なるほど… では、その洞窟にはどれくらいのゴブリンがいるかは不明ってことね?」


「はい。ですが、ゴブリンが確認されてまだ日は浅く、この辺の森の洞窟のほとんどはそんなに広くありません。 ですので、いても20体くらいではないか? と、王国は考えているようです」

女性はニコニコと笑顔を絶やさず説明を続けていた。


「なるほど… ノブナガ、どう? これでいい?」

アネッサは隣にいるノブナガの顔を見て尋ねる。


「うむ。 ゴブリンとやらがよく分からんが… お主に任せる」


「そう。 じゃ、コレでいきましょう」

アネッサがクエストの受注手続きを済ませて、ゴブリンが住み着いたという洞窟の場所を地図で確認する。


「ところで娘、ゴブリンとやらを討伐するのはいいが、その数はどうやって伝えるのじゃ? 口頭での報告じゃダメじゃろ?」

ノブナガの質問に、受付の女性は少しドヤ顔で説明を始めた。


「ノブナガさま、いい質問です。昔は討伐したモンスターや魔獣の耳などを回収して討伐数を証明していたのですが、今は冒険者カードには、討伐したモンスターや魔獣の種類とその数を自動的に記録する魔法が付与されているのです。 ですので、クエストが終われば冒険者カードを提示して頂くだけで大丈夫なのです。 実はこの機能には別の目的もあるのです。 万が一、冒険者さまが討伐を失敗し命を落とした場合、その冒険者カードを読み取る事で、どんなモンスターに襲われたのか? その数はどれくらいなのか? を、知る事ができるのです。 その記録を基にクエストが発注されたり、王国騎士団へ依頼したりするのです」


「なるほどのぉ… このカードは便利なモノじゃな」

ノブナガはカードを取り出し、クルクル回しながら見ていた。


「はい。 ですので、そのカードは大切にお持ちくださいね」

女性はニコっと微笑んでいた。



「それじゃ、ノブナガ。 さっさと片付けましょうか」


「そうじゃな、ゴブリンとやら20体ほど討伐して金貨2枚を戴くとするか!」


「アネッサさま、ノブナガさま、頑張ってくださいね!」



ちなみに、新人冒険者の6割がクエストを失敗し、大怪我をするか死亡するのだが…

そんな事を知らないノブナガと、『死』を超越した『リッチ』であるアネッサは、金貨2枚をどう使うか話しながら楽しそうに目的地へと旅立っていったのだった。

冒険者となって初めてのクエストはゴブリンの調査、出来るなら討伐(殲滅)を受ける事にしたノブナガとアネッサ。

しかし、クエストを始めると聞いていた内容と違っていたのだった。



次回 はじめてのおつか… じゃなくて、クエスト


ぜひご覧ください。

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