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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【2話】神の使いと悪魔の使い

王都アクロザホルン到着後、20枚もあった金貨はたった数時間で無くなってしまった。


「ど… どうしよ…」

アネッサは少し震えながらノブナガの顔色を伺うように見ていた。


「とにかく追うぞ!」


「う… うん!」

アネッサとノブナガは男の子が逃げた方向に走り出す… が、当然見つかるはずもなく肩を落とす結果となっていた。





「ノブナガ… ごめんなさい…」

アネッサはしおらしく謝り、その小さな肩を震わせていた。


「ふむ… 致し方あるまい」

ふぅ、と息を吐いたノブナガは流れる汗を袖で拭い、笑ってアネッサの頭を撫でていた。


「怒らないの?」

普段のアネッサからは考えられないような、子猫のような目でノブナガを見ていると


「こんな事はよくあることじゃ。 ワシの生まれた町でもよく起きていたからの。 無くなったモノは致し方なかろう。 とりあえず、手っ取り早く金を稼ぐ方法を考えることじゃ。 そうしないと、メルギドにも帰れん」

困ったように笑いながら、ノブナガは頭を掻いていた。


「……そうね。 当面の生活費も必要だし… 王都まできて野宿はイヤだしね」

アネッサも吹っ切れたように苦笑いを浮かべる。


「そうじゃな。 アネッサ、どうすれば手っ取り早く金を稼げるのじゃ?」


「そうね… わたしたちは王都に来たばかりだから商売しようにも、なにも分からないし… まぁ、よくあるのは冒険者ギルドで冒険者として仕事をすることかしら?」

アネッサは人差し指をアゴに当てて、斜め上を見ながら答える。


「冒険者? それは如何ような仕事じゃ?」

ノブナガは初めて聞く単語に、頭の上に大きなハテナマークが浮かびあがっていた。


「え? ノブナガは冒険者じゃないの?」

アネッサは逆に不思議そうにノブナガを見返す。


「ワシか? ワシはノブナガじゃ。 それ以外、何もない」

ノブナガはなぜか少し自慢気に胸を張って答えていた。


(え? ノブナガってなんなの? 確かに、仕事とか聞いたことなかったけど… あんなに強くて、あまり見た事もない立派な武器も持ってるからてっきり…)

アネッサは、ノブナガとミツヒデは戦士系の冒険者だと思っていたのだ。


「まぁ、よい。 とりあえずその冒険者なる仕事をすれば、手っ取り早く金が手に入るのじゃな? ならば、さっさと冒険者とやらの仕事をするぞ」

ノブナガは即決すると、すぐにでも行動しようとしていた。ノブナガの刀の柄の先では、相変わらずマナが止まって長い尾を揺らしている。


ふと、アネッサの目がマナに止まる。

「そうね… ねぇ、ノブナガ。そのキレイな鳥売ればいいんじゃない?」


アネッサはマナを指差しながら、真剣な目でノブナガとマナを交互に見る。


「ん? なるほど…」

ノブナガも存在を忘れかけていたマナに目を移すと


(ちょ… ちょっと? ノブナガさん?)

ノブナガの頭の中にロアの声が響いた。


「ぬお!?」

ノブナガは突然、ロアの声が頭に響いて驚き辺りをキョロキョロと見渡す。しかし、辺りには不思議そうな顔でノブナガを見ているアネッサと、大通りを歩くヒトだけだった。


(ぼくの声はノブナガさんにしか聞こえないよ。それより、ぼくを売らないでよ? 神さまがペットショップで売られるって… ありえないでしょ!)


(ははは  冗談じゃ。 お主は()()売らんぞ)

ノブナガはニヤニヤしながら、マナを見ていた。


(ま… まだって…)


(くくく、お主も売られたくなかったら、ワシの為に働くことじゃ)


「ノ… ノブナガ? どうしたの?」

アネッサが『こいつ頭大丈夫か?』という目で、心配そうにノブナガを見ていた。


「ん? あぁ、何でもない」

ノブナガはニヤリとマナを見る。


「ピッ ピピっ」

マナは言葉がわかるのか、微妙に焦ったように長い尾を振りながら鳴いていいると、


「アネッサよ、この鳥は売れん。 ワシが預かった鳥じゃからな」

ノブナガの言葉に、マナが「ピぃ」と安堵するように鳴いていた。


「そういえば預かっているとか言ってたわね…」


「あぁ、じゃから今から冒険者とかいう仕事をしに行こう。 それで、その仕事はどこに行けばあるのじゃ?」


「冒険者ギルドよ。 どこの町にも冒険者ギルドはあるわ。 まずは冒険者として登録して、そこで仕事を受ければいいのよ。 ここは王都なんだから、きっと仕事もたくさんあると思うわ」


アネッサは大通りを歩く人に冒険者ギルドの場所を教えてもらい、大通りを歩いていく。

しばらく歩くと、周りの歩く人が様変わりしてきた。

これまでは商人や町に住む人、子供などが多かったが、今はガタイがデカい男や、顔にキズがある男、怪しい仮面をした者や、装備がやたら派手な集団など…

一風変わった… と、言うより、あまり知り合いになりたくないタイプの人種の比率が高まっていたのだ。


若干、ノブナガが嬉しそうな表情で派手な集団を見ていたが、アネッサは極力無視するようにしていた。


そんな中、ノブナガ達が目指す冒険者ギルドの建物が建っていた。

それはレンガ作りの建物で、見た目では3階建てくらいの建物だった。

入口は解放されており、中から酒を飲んでいるのか賑やかな声が聞こえてくる。


「ここか…」

ノブナガとアネッサは、少しだけ息を呑むと意を決してギルドに入って行った。


ギルドの入口から奥に入った場所にカウンターがあり、3人の女性がカウンター越しに接客をしていた。


もちもん、接客相手は冒険者だろう。女性達は屈強な戦士風の男や、バトルアックスを背中に背負ったずんぐりむっくりで、おそらく今まで剃った事がないのであろう長いヒゲの男、周りに比べると華奢(普通の人と比べると屈強なのだが)な優男などを相手に話しをしている。


入口からカウンターまでの間にはテーブルやイスがあり、冒険者たちが酒を飲みながら情報交換をしている。その顔は真剣そのもので、酒を飲んでいるにも関わらず誰も酔ってはいないようだった。


壁にはたくさんの紙を貼った掲示板らしきものがあり、掲示板の前にも複数の冒険者だろう人が真剣に貼り紙を吟味しているようだった。


「すごい熱気じゃな」

ノブナガは感心するように部屋をぐるりと見渡していた。


「そうね。 みんな真剣ね。まぁ、自分の命がかかってるんだから当たり前か…」

アネッサはボソッととんでもないことを言い出す。


「え? 命がかかってるじゃと?」

ノブナガが驚いてアネッサを見ると


「ええ、当たり前でしょ? 冒険者なんだから」

きょとんとしてノブナガを見返していた。


「ちょっと待て、命に関わるとはどういう意味じゃ」


「どういう意味もなにも… そのままの意味よ。 依頼内容によっては命の危険もあるし、一見、安全そうでも依頼を受けてみたらヤバいなんて事もあるわよ。 だから、みんな真剣に情報交換して依頼内容を吟味してるんじゃない」

アネッサにとって、いや、この世界にとってそれは常識なのだが、ノブナガにとっては初耳だった。


「ワシはそんな事、初めて聞いたぞ」


「は? 何言ってるの? 常識よ?」


「な… なんじゃと…?」

ノブナガは少しだけ立ち止まり考える。


(命の危険じゃと? 冒険者とは戦に行く者のことなのか? じゃが、そんな頻繁に戦があるとは思えんのじゃが…)


「アネッサよ、この辺りはそんなに戦があるのか?」


「はぁ? 戦って戦争の事でしょ? そんなわけなじゃない。 それに戦争なら兵士や騎士団の仕事だし。冒険者の仕事は、いろいろよ。 まぁ、とにかく登録して依頼を受けましょう。 今晩泊まるどころか、食べる事もできなくなるわよ」

アネッサはそう言って、ツカツカとカウンターに向かって歩き出す。ノブナガもアネッサについてカウンターへ歩いていった。


部屋にいるたくさんの冒険者達がアネッサとノブナガをジロジロと見ていた。

それは当然だろう。

屈強な男や魔法使いなどが集まり、女でも町の男達よりは強いのかハッキリとわかる者しかいないのだ。

そんな中、ブロンドの髪をゆるくカールさせた18才くらいの美しい女と、まだあどけなさが残るような男の子が入ってきたのだから。

美しい女はローブを着て、手にはスタッフを持っており、男の子は黒いアンダーの上に布を巻きつけたような不思議な格好をして、腰には立派な剣(刀なのだが)を携えている。

おそらくは魔法使いの姉と、戦士の弟…

周りの冒険者たちは、そう思いながらアネッサとノブナガを観察していた。


アネッサは周りの視線を無視して、ちょうど空いたカウンターの女性に声をかける。


「すいません。冒険者登録をお願いしたいのですが…」


カウンターの女性は金髪の髪をポニーテールにして、仕事の邪魔にならないようにしており、とても笑顔が可愛い女性だった。


「はい、冒険者登録ですね。 登録するのはおふたりですか?」

ニコニコと笑顔を絶やさない受付の女性。


「はい、わたしとこの子の2人です」


「では、こちらに必要事項をお書き下さい」

受付の女性はテキパキと羊皮紙で出来た書類を取り出して、アネッサに記入する箇所を説明する。

となりでノブナガも見ていたが、ノブナガには字が読めなかった。


「アネッサ、ワシは字が読めん。 その書き物はお主に任せる」


「ええ? あんた字が読めないの?」


「うむ、全く解らん」

ノブナガはそう言うとアネッサの横で、書類ができあがるのを見ていた。


「もう… 仕方ないわね…」

アネッサは2人分の書類を作成し、受付の女性に手渡す。女性は書類の不備がないか確認すると、羊皮紙をクルクルを巻いた。


「はい、確認できました」

女性が丸めた羊皮紙を手の上に乗せ呪文を唱えると、羊皮紙は『ボッ』と燃えて女性の手の中に一枚のカードが現れた。


「はい、こちらが冒険者登録カードとなります。このカードがあればアクロチェア王国内、どこの冒険者ギルドでも使用できますので大切に保管してくださいね」

女性は相変わらず笑顔を絶やす事なく説明を続ける。


「では、おふたりとも手の平の上にカードを置いて下さい。 そうすればカードが冒険者さまの特性を読み込み、ご自身に適した職業が表示されます。 もちろん、表示された職業以外を選択する事も可能ですが、魔法使いだけは素質がないと出来ませんのでご注意下さい。 その情報を基に適正な依頼をさせて頂きますね」

女性はアネッサとノブナガの手の平にカードを乗せる。すると、カードがポワッと光り文字が浮かび上がってきた。


「まずはアネッサさま… え? アネッサさま?」

女性は目を丸くしてアネッサを驚愕の表情で見る。


「なに?」

アネッサがよく分からずに女性を見つめ返していると


「アネッサ・ルートハイムさま… まさか、あのルートハイムさまですか?」

女性はワナワナを震えながらアネッサを見ていた。


「え? あ、そう。わたしはアネッサ・ルートハイム。 あたしの親戚は有名みたいね」


「ええ!!!!  ルートハイムさま!?」

女性が大声で叫んだため、ただてさえ注目されていたアネッサ達は、さらに冒険者達の注目を集めてしまう。


「ちょっ! そんな大声出さないで」

アネッサが慌てて女性を止める。


「あ! す…すいません。 ルートハイムのお方がなぜ冒険者なんて… って、え? プリースト…!?と… ネクロマンサー? え? ネクロマンサー???」

女性は思わず声が大きくなり、ギルド内はザワザワとしてしまう。


女性はカードに浮かんだ職業を見て愕然としていた。

ルートハイム家の者なら教会で人々を治療しているだけで莫大な財産を安全に手に入れる事ができるだろう。

わざわざ冒険者なんてハイリスクな仕事をする必要はないのだが、そこは個人の問題なのでなぜ冒険者を選んだのかを詮索することはしない。

だが、カードに浮かんだ適正する職業が問題だった。

プリーストはルートハイム家だから、まぁ分かる。だが、ネクロマンサー?

言ってみれば神の使いと悪魔の使いが同時にここに居るようなものなのだ。

しかも、ネクロマンサーなんて王国に数える程しかいない。

その数えるほどのネクロマンサーは王国に仕えており、こんな場所にいるはずがないのだ。


「あ… あの、失礼ですが、アネッサさまは神官系の魔法も死霊系の魔法も使えるのでしょうか?」

女性が恐る恐る確認すると、


「え? 使えるわよ?」

アネッサはアッサリと認めてしまった。

アネッサにとって幸運だった事は、カードが『種族』を表示しないことだった。

アクロチェア王国は『ヒト史上主義』であるため、『獣人』は見た目で判断され、冒険者として登録されない。

なお、稀にエルフやドワーフなどが冒険者登録に来るが、彼らはヒト種族と友好な関係である為、ヒト種族と同じように登録されている。


今回、アネッサは『元』ヒトのリッチである為、見た目は『ヒト』として認識されていたのだ。

もし、カードに『種族』が表示されていれば、アネッサは『リッチ』として討伐対象になる可能性もあったのだが、幸い、アネッサも受付の女性も、周りの冒険者たちもそれには気がつかなかったのだった。



「それじゃ、次はワシじゃな」

ノブナガは少しワクワクしながら、手の平にカードを乗せていた。

ノブナガの冒険者カードに浮かぶ職業とは…



次回 ノブナガの職業


ぜひご覧ください。

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