【1話】王都 アクロザホルン
「おい、話しが違うではないか…」
ノブナガとアネッサは緑色でこの世の物とは思えないような醜悪な顔の亜人に囲まれていた。亜人たちは錆びたショートソードや棍棒などを手に、ニヤニヤしながらノブナガたちを見ている。
そこは洞窟の中にある少し開けた部屋のような場所で、入口はノブナガ達が入ってきたひとつしかない。
ただ、その入口から緑色の亜人も入って来たので、入口は亜人たちの向こうにあるという状況なのだ。
その亜人たちの身長はヒト種族の子供くらいで、ちょうとノフナガと同じくらいだった。
「くそ… ゴブリンとやらは20くらいしか居ないんじゃなかったのか? あの小娘… 謀ったか?」
ノブナガはギリっと奥歯を噛みながら刀を構えてゴブリンたちを睨みつける。
「もう! いったいどれだけいるのよ? 軽く100は殺したわよ?」
アネッサもイライラしながらゴブリンたちを睨んでいた。
「くそっ! どうしてこうなった?」
「う…」
ノブナガの呟きに、アネッサは少しバツが悪そうにしていた…
◇◇◇◇
話しはノブナガたちが王都アクロザホルンに到着した頃に戻る。
「着いたぞ。 ここが王都アクロザホルンだ」
辺境防衛騎士団 団長ヤールガは少し自慢気だった。
「おお… ここが…」
「すごい…」
ノブナガとアネッサは目の前に立ちそびえる巨大な城壁を見上げ、感嘆の声を漏らす。
王都アクロザホルン。
王宮を中心に町が広がり、その広さはこれまで見てきた町と比べ物にならない程だ。
町を囲むように城壁があり、高さは3m程あるだろうか。
街道部分に城門があり、兵士達が町に訪れる者をチェックしている。
ノブナガ達はチトナプから5つ程の町を経由し、15日かけて王都に到着したのだ。
通常ならもう少し早く到着する事もできるのだが、騎士団として各町の安全や要望などを確認するので時間がかかってしまっていた。
未だに城壁を呆けて見ているアネッサにノブナガは、フンと鼻から息を吐く。
「お主、ワシよりも長く生きて(?)おるのじゃろ。 いつまで呆けておる」
「し… 仕方ないでしょ? わたしは300年くらい引きこもってだんだし… それに、この王国で行ったことあるのはハーゼ村だけだったんだから」
アネッサは、もにょもにょと口を尖らせながら言い訳する。
「あぁ、そうじゃったな。 お主は引きこもりじゃった」
くくくと、揶揄うように笑う。
「うっさいわね! もう引きこもりじゃなくなったわよ!」
アネッサはプイっと横を向いて、頬を膨らませていた。
「300…?」
見た目は若く美しい女性で、どう見ても300歳以上には見えないアネッサをヤールガは不思議そうに見るが、ネクロマンサーであるアネッサは凄い魔法使いだから、そういうものなんだろう… と、勝手に理解していた。
「さぁ、ノブナガ殿、アネッサ殿。 王都へ入りましょう」
「そうじゃな」
ヤールガと共にノブナガたちは城門へ近づくと、門兵たちは背筋を伸ばして敬礼し進路を開けた。
商人や旅人などなら門兵たちによるチェックがあるが、ヤールガたち騎士団をチェックする必要はなく、当然のように進路を開けたのだ。
それは、門兵たち兵士は『平民』の出であり、騎士団は『貴族』である事も大きな理由ではある。間違ってチェックしようとすればその場で斬り殺されても文句は言えないのだ。
ノブナガは王都までの道中、ヤールガにいろいろ聞いていた。
その中でも特に騎士や兵士、魔法使いなどの話しを詳しく聞いていたのだ。
ヤールガの話しではこうだった。
王都や町を守る『兵士』は平民から集められている。
基本的には志願制であり、王国から給金を貰える『職業兵士』なのだ。
平民は安定した収入を得るために兵士に志願する者が多いが、一部の者は戦争願望から志願する者もいる。
とは言っても、そんな戦争が起こることも少ないため、兵士たちの主な仕事は門兵や治安維持のための巡回、城壁を外側から確認して補修が必要な場合に職人を手配するくらいだ。
対して『騎士』はほとんどが貴族の者だ。
騎士の中でも国王を守る5人の『ロイヤルナイツ』は代々ロイヤルナイツを受け継ぐ由緒正しい大貴族の者が担っている。
国王をお守りするのだから素性がハッキリしている事も必要だが、やはり個人の戦闘力が最も重要な事項である。
この5人のロイヤルナイツには代々受け継がれている専用の武具があり、それは神から授かった伝説の武具であるとまでウワサされている。
次に『王国騎士団』があり、主に王宮を守る事が仕事だ。
王国騎士団は上流から中流の貴族出身の者で構成されており、身分の高い貴族が部隊長になる傾向が強い。
中流の貴族が稀に実力を認められ部隊長となる事があるが、それはほんのひと握りの者の話しである。
貴族の中でも身分が低いものや、田舎出身の貴族、稀に実力が認められた平民は『辺境防衛騎士団』に配属される。
ヤールガもそのひとりだそうで、ヤールガは田舎貴族の出身だと自笑していた。
辺境防衛騎士団とは王国国民を守るのが主な仕事であり、各町や村を巡回し野盗や魔獣、モンスターなどの討伐を行なっている。
また、町や村から要請があれば駆けつけて王国民を守るのも重要な使命なのだ。
そんな中、唯一才能だけで採用されるのが『魔法使い』だ。
魔法使いは誰でもなれるわけではなく、素質が無ければどれだけ勉強し訓練しても魔法は使えないのだ。
そのためアクロチェア王国では、全王国民から魔法の素質有りとされた子供は王都へ集められ、王国による管理と教育が施される。
だが、これはヒト種族に限った話しであり、獣人達が魔法を使えても取り立てられる事はない。
逆に危険分子として殺される可能性もあるため、魔法の素質がある獣人達はそれを必死で隠していた。
「なるほど、魔法使いとは『素質』が必要なのか…」
ノブナガは自分の中の構想を若干修正していた。
―――――――
王都に入ったノブナガたちは、王宮に向かう大通りをヤールガ達と歩いていた。
「ノブナガ殿、アネッサ殿。 わたしはこれから騎士団本部へ向かわなければなりません。 おふたりとは一旦、ここでお別れとなります」
ヤールガは少し寂しそうな笑みを浮かべながら、ノブナガに手を差し出す。
「世話になった」
ノブナガはヤールガの手をとり、握手を交わし微笑んでいた。
「またお会いしましょう」
「うむ。 またすぐに会うじゃろう」
ヤールガたち辺境防衛騎士団は、そのまま大通りを進み騎士団本部へと歩き出す。
ノブナガとアネッサは、ヤールガたちの背中を静かに見送っていた。
「さぁ、ワシらも王都を堪能しようではないか」
ノブナガはニヤリと笑う。
「そうね。資金もたっぷりあるし。 少しくらい羽を伸ばしてもいいよね」
アネッサは懐の財布の重みを感じながら笑っていた。
ノブナガたちはヤールガ達と王都までやってきたので、騎士団の宿舎を利用させてもらい食事もヤールガ達にお世話になっていたのだ。
しかも、ノブナガ、ミツヒデ、ティア、アネッサの4人分の旅費だったが、ミツヒデとティアがハーゼ村に帰ったので旅費に余裕が出来たのだ。
「まずは宿屋を探しましょうか」
アネッサは大通りを歩きながら、宿屋を探して歩き出した。
ヤールガに聞いたところによると、王都での宿屋の料金は個室の一泊二食付きで大体銀貨1枚くらい。
お金がない冒険者などは、大部屋で安い食事がついて銅貨6枚というのもあるそうだ。
金貨1枚は銀貨10枚に相当し、銀貨1枚は銅貨10枚に相当する。
いま手持ちは金貨20枚なので、かなり余裕のある状態なのだ。
「まずはメシじゃ! ワシは腹が減った」
「あんた、朝もわたしの分まで食べてじゃない…」
アネッサはリッチであるため食事が不要なこともあり、こっそりと自分の食事をノブナガに渡していたのだ。
「朝は朝じゃ! 腹は減るもんじゃ。仕方なかろう」
「はいはい。それじゃ、まずは食事ね」
アネッサは少し呆れてながら、食事が出来そうな酒場を探して歩き出した。
「ははは それにしても、ワシがメルギドに着いた時とは違って金があるというのは良いものじゃな」
ノブナガの足は店を探しながら軽やかだった。
「メルギドに着いた時? 何があったの?」
「うむ。あの頃は文無しじゃったからの、腹が減っても食う物が買えなかったんじゃ。 仕方なく川の水を飲んで腹を膨らませたんじゃ」
「そーだったんだ」
「まぁ、おかげでティアやお前達と会えたんじゃがな」
あははは と、ノブナガは朗らかに笑いながら、何を食べようかと楽しそうに歩いていた。
その時、アネッサの背後から小さな男の子の声がした。
「お姉ちゃん!!!」
「え?」
アネッサは驚いて振り向くと、8歳くらいの男の子が3人アネッサに飛び付き、アネッサの腰回りにしがみついて泣き出した。
「お… お姉ちゃん! やっと帰ってきた!」
「え? え?」
「お姉ちゃん… お姉ちゃん…」
男の子達はアネッサにしがみついたまま泣きじゃくっていた。
「アネッサ、知り合いか?」
「い… いや、知らない子達だけど…」
アネッサは男の子達を優しく離し、顔を見る。
(やっぱり、知らない…)
「君達? 誰かと間違ってるのかな? お姉さんはアネッサ。 君達のお姉ちゃんとは違うと思うよ」
アネッサが優しく話しかけると、男の子の中で一番お兄ちゃんらしい子がアネッサの顔を見て
「あ… ごめんなさい… 間違えました…」
男の子は他の2人の肩に手をあて、アネッサから引き離す。
「ううん。いいのよ」
アネッサはニコっと笑い男の子に話しかけた。
「ごめんなさい」
3人の男の子たちは頭を下げて謝ると、走って人混みの中に消えていった。
「あの子たち、大丈夫かな…」
アネッサが男の子達を見送っていると、大通りを歩く60歳くらいの女性に声をかけられた。
「お姉さん、財布大丈夫かい?」
「え?」
「え?」
アネッサとノブナガは驚いて女性を見て、アネッサは自分の懐に手を入れる。
「…………ない」
さっきまで確かにあった財布が無くなっていた。
未だに手に残る、あの財布の重みが全くないのだ。
「………うそじゃろ?」
「ええ!!!!!」
王都アクロザホルン到着の日、ノブナガとアネッサは無一文となっていた。
アクロザホルンに着いた途端に無一文になってしまったアネッサとノブナガ。
とりあえず金を稼ぐために冒険者になることにした2人は、冒険者ギルドに向かい冒険者登録をするのだが…
次回 神の使いと悪魔の使い
ぜひご覧ください。
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