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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【2章】幻の獣王国
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【48話】ソレメルの野望4

後書きを修正しました。

工事が始まって数日経った頃、街道を警備していた自警団から不審な集団がやって来たと第一報が入った。


「急ぎホニード団長と月女族の皆さんに連絡しろ」

ソレメルが小柄な役場職員の男に指示すると、職員は建物を出て大声で叫ぶ。


「月女族さま! 至急、役場までお願いします!」

役場周りにいた人々が驚いたように職員を見ていると、建物を軽く飛び越えるように2人の女が現れた。

その女は黒い上下のアンダーを着て、その上からビキニタイプの革鎧を装備し、背中に三日月をモチーフにしたマークが付いたフード付きのケープを羽織っていた。


「ダドーシさま、どうかしましたか?」

現れた女は金髪の長い髪をポニーテールにした、頭にウサギ耳がついた美しい女性と、まだあどけなさが残る少女だった。


「おお、パルさま! 今日はパルさまが当番でしたか」

ダドーシはニコニコしながら、パルに挨拶をする。


「はい。 今日はパルとヒカムが町をかんこ… んん、巡回する日なのです」

パルは観光と言いかけて慌てて巡回と言い直すと、「てへ」と笑って誤魔化す。


「あはは、構いませんよ。 みなさまが町を歩いてくれているだけで、この町は活気が出てくるのですから」

ダドーシが少しデレデレしながら、パルの失言を許している。ダドーシは月女族の美しさに惹かれてはいるが、『月女族には手を出すな』という暗黙のルールに従い、ただ眺めているだけだったのだ。


(ソレメル町長みたいに、強気にはいけないよなぁ…)

ダドーシだけでなく、ほとんどの町の男はそう思っていることだろう。



「それで、ダドーシさま。 何かありましたか?」

パルの言葉で我を取り戻したダドーシは、慌ててソレメル町長の言葉を伝えた。


「なるほど、不審者ですか。 承知しました。ホニード団長に連絡して現場に向かいます。 ヒカム、あなたはホニード団長のところに行って! パルは先に行くわ!」

パルは真剣な目になると、ヒカムにホニードへの連絡を任せ、不審者が現れたという方向を睨み走りだした。

パルはあっという間に見えなくなり、ヒカムも気がつくとダドーシの前から消えていた。


「さすがパルさまとヒカムさまだ…」

ダドーシはもう見えないパルとヒカムが走り去った方向を見てつぶやくと、ソレメルへ報告する為に建物に戻っていった。



――――――



町の入口にあたる街道には、警備をしていた自警団が見知らぬ男を相手に話しをしていた。

自警団から少し離れた場所にはチカムが立っており、街道の先にいる集団に注意を向けていた。


パルは町の入口から離れた場所で待機し、ホニードの到着を待ちながら、チカムと月女族のスキルである聴力を活かして情報交換をしていた。


そこにホニードが自警団と月女族を数名連れてやって来た。

ホニードとパルはチカムから得た情報を共有し、町の入口へ向かう。


町の入口にいたのは『自称商人のカーテ』だった。

カーテの話しを聞いてみると、実はノブナガの家臣であることが分かった。

だが、そのまま信じてイルージュと会わせる訳にはいかないと、ホニードはカーテたちをソレメルの下に連れて行く。

もちろん武装は解除させてからだ。


どうやら、自称商人のカーテと共にいたのは獣人の傭兵団だったようで、ノブナガに指示されてメルギドにやって来たそうだ。

ソレメルはカーテ達の話しを聞きノブナガの家臣であると確信し、イルージュの下に行く事を許可した。

もちろん自分も一緒に行くつもりだったが、第一秘書であるヘルトエに睨まれ、仕方なくホニードに任せる事にした。



イルージュとの会談を終えたホニードの話しでは、カーテ達はメルギドに住む事になり、自警団の一員として働く事になったそうだ。

ホニードは「魔法使いがいる自警団なんて、うちくらいだぜ!」と大層喜んでいた。


(思わぬところで武力も強化された…)

ソレメルは驚き、あまりにも良い風が吹き過ぎている事に若干の不安を感じていた。


(何も起きなければいいが…)

ソレメルはホニードを見送りながら、ひとり考えていた。


その不安は的中するのだが、それはもう少し先の話し。




―――――――



ホニード率いる自警団は一気に戦力が上昇していた。

ホニード団長の下にはユソルペ副団長と、バハカイ副団長率いる近接戦中心の部隊が2つ。

火の魔法が使え高速で移動も出来る月女族は、近接戦は苦手だが、月女族のスキルである聴力を活かして連携した攻撃は目を見張るモノがあった。

そこに、セミコフ率いる獣人傭兵団と、魔法使い達。

カーテ率いる半獣人達は戦力としては弱いが、商人として活動してきた事もあり情報収集に長けていた。


「オレたちなら、アクロチェア王国の騎士団にも勝てるんじゃねぇか?」

ホニードが上機嫌で酒を飲んでいる姿が、よく見られるようになっていた。



何もかもが順調に進んでいたある日、ソレメルが執務室で執務を続けているとドアを軽くノックする音が執務室内に響いた。


「どうぞ」

執務を続けながら、入室を許可する意思をドアの向こうの人物へ伝える。


(ヘルトエか…)


ソレメルはノックの仕方で、だいたい誰が来たのか分かるという特技があった。

とは言っても、自分に付いている秘書3人に限った話しだが。


「失礼します」


ドアが静かに開くと、そこには黒髪を背中まで伸ばした上下紺色のスーツを着た美しい女性が立っていた。



ソレメルは少しだけ現れた人物に視線を移すと、すぐに手元に視線を戻して執務を続ける。


「何かありましたか? ヘルトエ」


現れたのはやはりヘルトエだった。

ヘルトエは軽くお辞儀すると、静かにドア閉めてソレメルの前まで歩いてきた。


「お忙しい時間に申し訳ありません。 ご報告があり参りました」


「ふむ。 君が来るくらいだ。大切な用事だろう。 どうしましたか?」

ソレメルは手を止めると、背中を背もたれに預けてヘルトエを見る。


ヘルトエは第一秘書である。なので、雑用や緊急性の低い案件などはソレメルのスケジュールを考慮し、自分で処理するかソレメルのスケジュールに合わせて調整する。

そのヘルトエがソレメルのスケジュールを無視して現れるということは、緊急性の高い案件か厄介な案件であるという事なのだ。


「はい、先程、門番をしている自警団から、ミツヒデさまとティアさまが帰って来たと報告が入りました」


「ミツヒデ殿とティア殿が? 2人だけか? ノブナガ殿とアネッサさまはどうした?」

ソレメルの中で、ノブナガとミツヒデ、ティアは人間である為、敬称は『殿』だが、アネッサは巫女であり神に使える者なので『さま』なのだ。


「はい、ノブナガさまとアネッサさまは確認しておりません。 が、ミツヒデさまは狐の獣人の女性を連れていたとのことです」


「狐の獣人…? ノブナガ殿はたしか王都へ行くと言っていたな… 王都に行くには片道で2週間はかかる。行って戻ってくるには早すぎるな… しかも、ミツヒデ殿とティア殿だけで狐の獣人を連れて…か」


「ソレメル町長からお聞きしていたノブナガ様達の行動から考えると、あまりにも違和感がありましたのでご報告に参りました」

ヘルトエが第一秘書である理由はコレだ。

数多の情報からソレメルにとってそして、メルギドの町にとってその情報を重要性と緊急性で的確に判断し、的確な行動をする。

まさに第一秘書の鏡のような存在だった。


「ふむ… たしかに違和感がある。ミツヒデ殿がノブナガ殿と別行動をするということは、なんらか指示があっての事だろうが… 見知らぬ狐獣人か…」


(何か、胸騒ぎがするな…)

ソレメルは腕を組んで背もたれに全体重を預ける。

椅子はギシ…と音を立ててソレメルを支えていた。


「ミツヒデさま達は、そのままハーゼ村へ向かったそうです。 ご挨拶を兼ねて、一度、訪問しては如何でしょうか?」

ヘルトエの申し出に、ソレメルは喜色満面の笑顔を向ける。


「ソレメルさま? ミツヒデさまにご挨拶… ですよ?」

ヘルトエがチクリと釘を刺す。


「わ… わかっているとも! ごほん。ヘルトエ、君は何を誤解しているのかな? わたしはミツヒデ殿に用事があるのだとも!」

ソレメルが慌てて答えていると、「はぁ…」と小さくため息をついてからヘルトエは


「では、スケジュールを調整して使者を送る準備をして参ります」

ヘルトエがお辞儀していると、またドアがノックされる音が執務室に響いた。


「ん? サリアか。入れ」

ソレメルは3人の秘書に限ってだが、ノックの音で誰が来たか分かる。

静かにドアが開くと、赤髪を肩辺りで切り揃えたヘトルアと同様に紺色の上下のスーツを着た女性が立っていた。

女性は少しそばかすがあり、美しいというより可愛らしいというタイプの女性だった。


「サリア、どうした?」


サリアと呼ばれた女性はソレメルの第3秘書であり、ヘルトアほど優秀ではないが、いつも一生懸命にがんばっている女性だ。

「お取り込み中、申し訳ありません。 先程、ミツヒデさまがいらっしゃいまして。 ソレメル町長にお話ししたい事があるので、都合のいい日に伺いたいととの事でしたので、明後日の午後ならスケジュールが空いているとお伝えしています」


「え?ミツヒデ殿が?」

ソレメルとヘルトアが少し驚いてサリアを見る。


「それで、ミツヒデ殿は?」


「はい、承知したと言って、お帰りになりました」

ソレメルはイルージュに会いに行く理由がなくなり、ガッカリと肩を落とす。


「ソレメル町長、お聞きの通りです」

ヘルトアの冷たい声が執務室に響き、サリアは『なにか失敗した?』とオロオロするが「あなたは何も問題ないわ」とヘルトアが微笑み、サリアはホッと胸を撫で下ろしていた。



「わ… わかっているとも!」

虚勢を張るソレメルに、ヘルトアの冷たい視線が突き刺さっていた。



そして約束の日、ミツヒデとティアが見知らぬ狐獣人の女を連れて役場にやって来た。


この日、ミツヒデから聞かされる話しはソレメルの運命を左右する話しだった。

第二章 幻の獣王国編は終わりです。

次回より、第三章 ノブナガと王国騎士団です。



王都アクロザホルンに到着したノブナガとアネッサ。

目の前に広がる都市に心を奪われてしまい、失敗をしてしまう。


次回 王都 アクロザホルン


ぜひ、ご覧ください。

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