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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【2章】幻の獣王国
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【47話】ソレメルの野望3

『ヒトも獣人も、半獣人もみんな同じ人間だ』

ソレメル町長の言葉はあっという間にメルギドの町に広がり、町の人々のみならず月女族にも好感を得ていた。

一部、反感を持つ者も当然いるのだが、それはごく少数派であり町全体がソレメルの考えを支持すると口を閉ざしてしまっていた。


それからしばらく時が流れると、メルギドの町に獣人や半獣人が少しずつ訪れるようになっていた。

猫系の獣人を助けた事や、ソレメル町長の言葉をウワサで聞きつけてやって来たのだ。


ソレメルはそれを受け入れ、メルギドの町の人々も快く獣人達を受けいれていた。

いつの間にか町ではヒトと獣人、半獣人が仲良く暮らしており、少数ではあるがエルフやドワーフなどの亜人種と呼ばれる者たちも見かけるようになっていた。



―――――――



「臨時会議を行う」

ソレメルは町の役員たちを会議室に集めていた。

定例会議までまだしばらくあったのだが、町の現状を考えるとそこまで待てないと判断したのだ。


「諸君らも知っての通り、いまメルギドではたくさんの獣人や少しだが亜人種の方々が住むようになっている。 前回の会議で話したように、これは大変良い傾向であると、わたしは考えている。 だが、思惑よりも少しばかり早く進んでしまっているため、町の準備が遅れている状態でもある」

ソレメルの『木を隠すなら森』作戦は順調なのだが、町の準備が追いついていないため住居が足りなくなってきたり、獣人たちの仕事が足りなかったりしていた。


「今はまだ、誤魔化しが効いていますが… それも限界に近づいています。 一部の獣人やヒトから仕事が無くて困っていると相談が来ております」

町にある職業ギルド(この世界では、冒険者ギルドだけでなく、物流を管理するギルドや食料品の売買、鍛冶屋、土木作業等を管理するギルドなど、各職種ごとにギルドが存在し、お互いに連携しているのだ)から役場の職員に相談がきており、全体を取りまとめている役場が各職種の隙間を埋めるように仕事を斡旋していた。


「ふむ… 早急に対策が必要だな…」

ソレメルは腕を組んで思案する。


「ところで、諸君。 前回の会議でお願いしていた案は何かあるだろうか?」

ソレメルの言葉に役員たちが顔を見合わせ、お互いの動きを見ていた。

そんな中、ひとりの役員が手を挙げる。

ソレメルが「ニラウスくん。どうぞ」と声をかけると、ニラウスは立ち上がって話しだした。


「この町は以前、盗賊団に襲われ大きな被害を出しました。 町長のお力により、いざという時はハーゼ村へ避難する事で住人達の安全を確保できるようになりましたが、町の物理的な被害は防ぎきれないでしょう」

役員の言葉をソレメルや他の役員たちは「うんうん」と頷き肯定する。


「そこで、この町もハーゼ村のように壁で囲ってはどうでしょうか? 街道に門を作り自警団を常駐させる事で、より効率的に防衛任務を行う事ができます。 それに町を囲むほどの壁ですので、住民たちの仕事も確保できます。 壁が出来れば補修などの維持管理も必要となりますので、継続的な仕事の供給も可能となるでしょう」

役員はそう言って、ソレメル町長をそして他の役員達の顔を見渡す。


「なるほど! 治安と仕事、どちらも確保できる! 素晴らしい案だ!」

ベテラン役員が賛同すると、他の役員達も同様に賛同する。


(やはり、良い風が吹いている…)

ソレメルは表情に出す事なく、ほくそ笑んでいた。


ソレメルは前回の会議でもっもらしい言葉で、役員たちを口車に乗せ『ヒト至上主義』を自分の都合のいいように利用していた。それは、屁理屈だとソレメル自身が一番理解しており、王国の役人には通用しないだろうと考えていた。

とは言っても、役人を言い負かせる自信はあるのだが、それは下手すると王国にケンカを売る事にもなる…


ソレメルの考え方は『最悪を見て、最善を尽くす』なのだ。

この場合の『最悪』は王国との戦争… となる。

なので、なんとか理由をつけて町を囲む城壁を構築したいと考えていた。


(わたしが黙っていても、話しがいい方向に進んでいる。 やはり、わたしには良い風が吹いている)

ソレメルがそう考えるのも当然の事だろう。


「ニラウス君の案は、素晴らしい案だ。 さっそく特別予算を立てようじゃないか」

ソレメルの言葉に、役員は満面の笑みを浮かべ「はいっ!」と答えていた。


「では、メルギドを囲む壁の工事を最優先で進めよう。 さあ!さっそく仕事を進めよう!」

ソレメルの決定に、役員達は立ち上がり会議室を忙しそうに出ていった。


「いいぞ… 全てがいい方向に向かっている…」

ソレメルは「くくく」と声を殺して笑うと、ふと真顔になる。


(あとは、武力か…)



――――――


数日後、イルージュとノブナガの銅像がある広場には大勢のヒトや獣人、半獣人たちが集まっていた。

中央にはソレメル町長が一段高い場所に立っており、集まった人々を満足そうに見ている。


「みなさん、わたしがこの町の町長ソレメルです。 知っている人も初めてわたしを見る人も、よろしくお願いします。 今回、みなさんにお願いするお仕事はかなり大規模な工事となります。 みなさんはこの町の大切な仲間たちです。 ひとりのケガ人も出さずに工事が完了する事を願っております。みなさんお互いに協力して、無事故で完遂致しましょう。」

ソレメルはにこやかに挨拶すると、工事担当に抜擢した今回の工事を発案した役員に場所を譲る。


「ソレメル町長、ありがとうございました。 さて、みなさん。 今回の工事担当となったニラウスです。 実際の現場は土木ギルドからの職員の指示に従って頂くことになります。 今回の工事はメルギドで初めての大規模な工事となります。 工事中、何かあればギルド職員を通して対応させて頂きます。 ソレメル町長が仰ったように無事故で完遂しましょう! それでは、無事故でよろしくお願いします!」

ニラウスが元気に挨拶すると、土木ギルドの職員が作業員達を案内して町の外に移動を始めた。



「ニラウス君、工事が始まったね。 さぁ、これから忙しくなるぞ」

ソレメルがポンっとニラウスの肩を叩いて微笑むと、ニラウスも「はい! がんばります!」と、元気に答えていた。


こうしてメルギドを囲む城壁の工事が始まった。


「それじゃ、ハーゼ村の方々へも工事について説明が必要だから、わたしはこのままハーゼ村へ行ってくる。 ニラウスくん、あとは頼むよ」

ソレメルはニコニコしながら広場を後にした。


「町長… ほんと重症だよな…」

ニラウスは苦笑いを浮かべながら、広場から嬉しそうに去っていくソレメルの背中をみてつぶやいていた。

全てが順調過ぎて不安になるソレメル。

ついにその不安の予兆が始まる。



次回 ソレメルの野望4


ぜひご覧ください。

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