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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【2章】幻の獣王国
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【45話】ソレメルの野望

ソレメルの朝は早い。

日が登る頃、ベッドからモゾモゾと抜け出すとランニングを始める。

前からランニングしていたのか?と聞くと、ソレメルは「違う」と答える。

では、なぜランニングをするのか?と聞くと、ソレメルは「健康の為さ。 健康な体には健全な心が宿ると言うじゃないか。 それは町を治める町長に必要なモノだからね」と、朗らかに答える。


確かに、以前のソレメルはふくよかだった… いや、ハッキリ言うと非常に太っていた。

息をすればぷひー ぷひー と音が鳴り、少し歩くだけて汗だくになるほど太っていた。


だが、今のソレメルはランニングの効果があったのか、見るからに健康そのものであり、以前蓄えていた余分な肉もすっかり無くなっていた。


体が変われば心も変わる。

ソレメルは非常に明るく、誰とでも仲良く話せる『理想の町長』となっていた。

正に、健康な体には健全な心が宿るを地でいっているようなものだった。


ソレメルは背中越しに手を振って挨拶しながら走り去っていった。




町の女達はこう噂していた。

「恋はヒトをあそこまで変えるのね…」

と。



ソレメルはランニングから戻ると軽くシャワーで汗を流し、メイドが用意していた朝食を美味そうに食べる。

前までは好き嫌いが多く、濃い味付けでないと機嫌が悪くなる事が多かったが、最近は少しくらい味付けに失敗していても笑って許し、美味そうに食べるようになっていた。


メイド達はこう噂していた。

「恋って、人格すら変えてしまうのね…」

と。



そう、すべてはイルージュと出会ってからの変化だった。

おそらくソレメルにとって、初めての一目惚れだったのだろう。

今でも何かしらの用事を作っては、3日と空けずにイルージュに会いに行っている。


町の役人達はこう噂し、呆れていた。

「重症だな…」

と。



そんなソレメルは過去から優秀な町長であった。今では人柄も良くなった事で、さらに『親しみやすい』優秀な町長となっている。

だから、多少のワガママ(すべてイルージュ絡みだが)を言っても役人も町のヒトも笑って許していた。





ある日、町役場で定例会議が行われていた。

会議室にはロの字型に机が並べられ、各机には2人ずつ町の役員が座っている。

全ての議事が終わり、役員達が凝り固まった体をほぐそうとした時、ソレメルが声をあげた。


普段ならそのまま役員達は自分の仕事に戻るところだが、ソレメルの一言で延長戦が始まってしまうのだ。

役員達は、今も溜まり続けているであろう仕事をさっさと片付けてランチに行きたいところだが、町長に逆らう事は出来ず延長戦に突入する事になる。



「会議でお疲れのところ申し訳ないが、あと少し君達の時間を頂きたい」

ソレメルは丁寧に頭を下げてから、役員達の顔を見る。

拒否する役員なんて居ない事は承知しているが、忙しくしている役員達の時間を貰うのだから、これは必要な挨拶なのだ。


ソレメルは返事を待つ事なく、続けて話し始める。


「わたしはこの町を、ヒトも獣人もエルフにドワーフなど人種に関係なく、全ての人が住みやすい町にしたいと考えている」

ソレメルはそこまで言うと役員達の反応を見る。


するとひとりの役員が軽く手を上げて発言する。

「町長、おっしゃる事は素晴らしい事だと思います。 が、それはアクロチェア王国 国王がお決めになった『ヒト至上主義』に反する事では?」


ソレメルは役員に向き直り、「ふむ…」とつぶやいてから話し出した。

「当然そのように考える者が多いことは分かっていた。 ところで諸君、『ヒト至上主義』の真意は知っているだろうか?」


ソレメルの質問に誰も答えられず、お互いの顔を見合わせているだけだった。


「そもそも、ヒト至上主義とは全てにおいて『ヒト種族』を優先すると思い込んでいる者が多い。 確かにわたしも過去はそのように思い込んでいた。 だが、国王さまがそのような事をおっしゃるだろうか? 『ヒト』とは『ヒト種族』ではなく『人間(ひと)』ではないだろうか? つまりヒト至上主義とは全ての人間を優先する… と、いう意味なのだと、わたしは考えたのだよ」

ソレメルが熱く語ると、役員達はザワザワとし始める。


「町長、それは何と比べて人間を優先するというのでしょうか?」


「人間以外、全てだよ。 例えば魔獣やモンスター、動物など人間以外のもの全てだ」

ソレメルが答えると、さらに役員達がざわめきだす。


「あの… それは『普通』な事ではないでしょうか? わざわざ国王さまが言う程の内容ではないと思うのですが… それに、国王さまがヒト至上主義を掲げてられて何百年か経ちますが、これまで私達の考えが間違っていると、国王さまからも、国の役人の皆さまからも言われた事がありません。 やはり、『ヒト』とは『ヒト種族』の事だと思われますが…」

役員の中でも一番年配のベテラン役員が反論する。


「ふむ、ならば、我が町の現状は国王さまのご意志に反している状態だと… 君は言うのかね?」

ソレメルが最近見せなかった、昔のような鋭い目でベテラン役員を射抜くように睨む。


「い… いえ、決してそのような事では…」

ベテラン役員は鋭い視線に怯えるように口籠る。


「だが、君の言う事も理解している。 町の者達も同じように考える者がいるだろうしね」


「で… では、いったい?」

ベテラン役員をはじめ、役員達はソレメル町長の意図が分からなくなっていた。


「わたしはね、この町の未来を考えている。 この町は月女族の皆さまに助けられたから、今も町として活動できている。 それはこの町に住む者全てが理解しているはずだ」


「たしかに、町長のおっしゃる通りだと思います」

ベテラン役員が代表して答えると、ソレメルは満足そうにうんうんとうなずく。


「さて、現状、月女族の皆さまには町を守護していただく為、町を巡回してもらっている。 それは町にくる商人や旅人、冒険者たちにより近隣の町や村などに知れ渡っているということは、みなも知っていることだろう。 そこでだ。 ひとつの問題が出てくるのだ」

ソレメルは机に両手を置いて身を乗り出すと、役員達の顔をぐるっと見渡す。


役員達は無意識に息を飲み、ソレメル町長の言葉を待っていた。


「それが、君たちが先程から気にしている『ヒト至上主義』なのだ。 すでに我が町は獣人である月女族の皆さまと共存している。 しかし、月女族以外の獣人はこの町に居ない。 それでは、王国から役人が来た時、どう説明する? 月女族は特別だと言ったとして役人が納得するだろうか? まず納得しないだろう。 かといって、月女族の皆さまを町から追い出すのか? それはあり得ない。 わたし達はその月女族の皆さまに守って頂いているのだから。 ならば、どうする?」

ソレメルは役員達の言葉を待つように、ぐるりと役員達の顔を見渡す。


「たしかに… 難しい問題ですね…」

一番初めに質問した役員が呟きながら考える。


しばらくしてベテラン役員が、ハッと顔を上げた。

「なるほど、だからこの町を、『全ての人、ヒトも獣人もエルフにドワーフなども、全ての人が暮らしやすい町』にするわけですか!」

ベテラン役員が、ポンっと手を叩いてソレメルを見る。


「そうだ。 木を隠すなら森… と、言うだろ?」

ソレメルはニヤリと笑い、ベテラン役員を見ていた。


「おお! なるほど!」

役員達がソレメルの意図を理解し、相槌をうつ。


「近隣の町では獣人は奴隷として町に住んでいる。幸い、メルギドにはそのような獣人はいない。 だから、新しく獣人達が町に住むようになっても、町のヒト達はそんなに抵抗感なく受け入れてくれるだろう」

ソレメルは椅子に座り直しながら、言葉を続ける。


「ただし、町の者にはこの話しはしないほうがいい。 先程の君たちのように反発する者が必ずいるだろうからな…」


ソレメルの言葉に苦笑いを浮かべる役員達は、この話しは今、この場にいる役員だけとする事を約束した。


「貴重な時間を頂きありがとうございました。 この件については極秘としつつも、どうすれば『全ての人が住みやすい町』になるのか検討し、次回の定例会議で話し合おうではないか」

ソレメルはにこやかにそう言って、会議を終了した。


役員達は「なるほどなぁ」「さて、これからまた忙しくなるな…」と話し合いながら会議室を出ていく。


会議室に最後まで残っていたソレメルは、ふぅと息を吐き、椅子の背もたれに体重を預ける。


「さて… これからだ…」

ソレメルはニヤニヤしながら天井を見つめていた。


何度も言うが、ソレメルは『優秀な町長』だ。

特に自分の欲望のためなら、その『優秀な頭』がよく働く、とても『優秀な町長』なのだ………

ソレメル町長の優秀な頭脳は、己の欲望の為に働く。

しかし目の前に悩ましい問題があった。


次回 ソレメルの野望2


ぜひご覧ください。

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