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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【2章】幻の獣王国
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【40話】怯える女

うちはアクロチェア王国の北にそびえるロードサン山脈の麓にある小さな村で生まれた。


その村はヒトの町から離れていた事もあり、貧しいながらもみんな幸せに暮らしていた。


うちの胸が少し膨らみ始めた頃、そいつらは突然現れた。


そいつらは馬に跨り、チェインシャツや革鎧などの軽鎧を着て、手にはブロードソードやメイス、肩にはクロスボウ等、みなが思い思いの武器を持っていた。

その姿に統一感はなく、どこかで奪ってきた武器や鎧を勝手に装備している…

そんな集団だった。


うちらは逃げ惑うしか出来なかった。村の男達の何人かは戦おうと抵抗したが、元来戦う事に慣れていない村人が勝てる訳もなく、あっさりと殺されてしまう。


父さまも、母さまも殺され、うちと同じくらいの年頃の少女が何人か捕まり……… 犯された。


その後、うちらは町に連れて行かれて奴隷として売られた。買うのは当然、ヒト種族だった。

うちは比較的裕福なヒト種族の中年の男に買われ、性奴隷として過ごす事になる。

他の子達がどうなったのか分からない。 

客を取らされているのか…

それとも、うちと同じように性奴隷として飼われているのか…

唯一、良かった事は、毎日ごはんを食べる事が出来たことと、綺麗な服を着る事ができた事だろうか。

男はガリガリな女や、汚れた女はキライだったそうだ。


うちの胸が大きくなった頃、突然、捨てられた。

うちを飼っていた男は実は少女が好みらしく、大人になったうちには興味が無くなったらしい。


突然、放り出されたうちが生きる術は、不本意ながらも手に入れた『男を悦ばせるテクニック』だけだった。だから、うちは生きる為に裕福な男、強い男に抱かれ続けた。


奴隷として売られていろいろな男に遊ばれるより、裕福な男に遊ばれる方が食べる物や着る物を充てがわれる可能性が高いからだ。


そう、結果が同じなら少しでもマシな方を選ぶ。

それがうちが出した答えだったのだから。


そうやって、うちは生きてきた…

これからも、きっとそうやって生きていくのだろう…


ぼんやりとそう考えていた。

そんな時チトナプの事件が起きて、なぜかうちは巻き込まれていた。


正気に戻ったうちは、とにかく逃げた。

うちにはひとりで生きる力が無い。

離れた町に行きたかったけど、そんな余力も装備も何も無い。

とりあえずチトナプの町に逃げる事にした。

いくらアクロチェア王国がヒト至上主義だとしても、町にもいくらから獣人は住んでいるのだ。

ほとんどは奴隷だけど…


町に着いたうちは、町の様子を見て愕然とする結果となる。


うちには、もうどこにも逃げる場所は無い…


それでも行き場のないうちは町の中に隠れていた。

ヒトの目に触れないように…

少しでも、獣人とバレないように…


そんな時、戦士達が話しながら歩いていた。

うちは慌てて物陰に隠れると、戦士達の話しが聞こえてきた。


「あのフルーク戦っていた時、獣人もヒトも協力して戦ったけど、ノブナガとか言う子供が居なかったら協力して戦うなんて無かっただろうな」


「ああ。 ノブナガが居なかったら今頃どうなっていたか…」


「そうだな、あいつはヒトも獣人も分け隔てなく接しているように見える。 まぁ、それが正しいのかどうかは分からないがな」


「たしかに。 だが、今回は正しかった。 だからオレ達は生きていられるのだからな」


「まったくだ」

戦士達は笑いながら歩いて行ってしまった。



たしか、戦場に乱入してきた子供がいた。

ザスサールがうちに戦えと迫ってきた時に見た子供だ。

あれがノブナガ…

うちが助かるには、もうノブナガに頼るしかないのかもしれない…


うちは、必死に探した。

ノブナガなら、きっと…

また遊ばれるかもしれない…

それでも構わない。

だって、今までもそうやって生きてきたんだから…



今のうちはノブナガに助けてもらうしか…

もう、生きる道が見つからない…


そして、うちはノブナガを見つけた。



――――――――――――




キシュリと名乗る女は、周りの目に酷く怯えていた。

ノブナガと話しをしている時も、辺りを気にしておどおどしており、近くを町のヒトが通るだけでビクッと身を小さくしていた。


「とりあえず、ここじゃゆっくり話しもできん。 ワシらが泊まっている宿屋へ参ろう」

ノブナガは常におどおどしているキシュリに優しく声をかけ、キシュリの左右にノブナガとミツヒデ、背後にティアが付くことでキシュリを少しでも安心させようとした。


ノブナガ達は、チトナプの町長であるオメニードが用意した高級な宿屋に滞在していた。

慰労会が行われた迎賓館にも泊まれる部屋はあるのだが、国の要人などが突然やって来る可能性があるのでノブナガ達には町の宿屋を用意したのだ。


さすがにオメニード町長が『町の恩人』の為に用意した宿屋だけあって、町の中でも一位、二位を競うような立派な宿屋だった。

外観は落ち着いたモダンな建物と、森の中の泉をイメージした美しい庭園。

そこに勤める従業員達はよく教育されており、まるで貴族に使える執事やメイド達のような洗練された『おもてなし』でお客さまを迎えている。


ノブナガが玄関に姿を現せると、「おかえりなさいませ」と宿の女将が頭を下げ、女将の背後には数人のメイドが同じように頭を下げて迎えていた。

女将は落ち着いた色合いのワンピースを着ており、背後に並ぶメイド達は白を基調としたメイド服を着ている。

女将は長い髪を頭の上にまとめており、品の良い薄化粧をしている。少しふっくらとした頬にピンクに入れる事で顔色を明るくしていた。


ノブナガは「うむ」と答えると、キシュリを連れて部屋に向かう。

女将やメイド達は口を挟む事も、詮索する事しない。

ただ、黙ってノブナガ達の背中を見送るだけだ。



部屋は広めのリビングと寝室が人数分あり、部屋の窓からは宿の庭園を上から眺める事ができる作りとなっている。

リビングには立派な木製のテーブルがあり、テーブルを挟むように3人掛けのソファーが置いてある。

部屋の奥には簡単な炊事場もあり、お茶を入れたり軽食くらいなら自分で作る事もできる。


1人にひとつずつ用意された寝室には、キングサイズのベッドが用意されており、綺麗にベッドメイキングされていた。そこに飛び込めばふわふわで寝心地のいい世界が全てを受け入れてくれる… そんな最高なベッドだった。



「さて、キシュリ。 ここなら安心だ。ワシら以外は誰もいない」

ノブナガはリビングにあるソファーにドカッと座って、キシュリを見上げる。


キシュリはミツヒデに勧められ、ノブナガの対面のソファーに腰掛け部屋の中に誰も居ないことを確認するようにキョロキョロしていた。


ティアは部屋にある炊事場でお茶を淹れると

「どうぞ」

と、微笑んでキシュリの前にお茶を置く。

続いてノブナガとミツヒデ、そして自分のお茶をテーブルに置くとノブナガの横に座った。

ミツヒデはノブナガの少し後ろに立っており、部屋の外にまで意識を張っていた。


「さて、キシュリ。 『助けて』とは、いったい何があったのじゃ?」

ノブナガは少しお茶を口に含んで、口を湿らせてからキシュリに話しかけた。


キシュリは上目遣いでノブナガを見ると、そっとフードを外した。

キシュリは黄色みがかった長い髪で、頭にはキツネの耳が付いていた。


「うちは獣人のキシュリ。 ザスサールに騙されてノグロイの下にいたの。 そちらの…」

キシュリは名前が分からないティアを見ながら言葉に詰まっていると


「あたしは、ティア。 ティア・ウル・ステラリア。 月女族よ。 あたしはノブナガ達と旅をしていたんだけど、ザスサールに捕まってしまって… 少しだけザスサールの下にいた事があるの…」

ティアは苦々しいものを思い出したように、眉を顰める。


「そう… あなたも… うちも、気がついたらザスサールの言いなりになってて…」

キシュリも眉を顰めながら、ティアと同意していた。


キシュリはノブナガを真っ直ぐに見ると

「ノブナガさま、うちに出来る事は夜伽くらいだけど… きっと満足させる事ができると思うの! だから、お願いします。 うちを助けて」


キシュリの目は潤んでいた。


「よ…… 夜伽…って」

ティアは顔を真っ赤にして、オロオロしていた。


ノブナガは少しだけ、間を空けてキシュリを見て口を開いた。


「キシュリよ。 ワシ()は、まだ幼いゆえ役に立たんじゃろうから、夜伽はいらん。 じゃが、ワシは助けを求める民を放り出すような事はせん。 キシュリ、お主を何から助ければよいのじゃ? お主は何に怯えておる?」


ノブナガの言葉にキシュリは安心したのか、強張っていた顔が少しだけ緩み話し出した。

「うちは、ザスサールから逃げてこの町に来たんだけど…」


だが、恐怖を思い出したのか、キシュリは手をキュっと握ると小さく震えていた。

キシュリは自分が見てきた事をノブナガに話した。

それを聞いたノブナガは、ある決意をする。


次回  決意


ぜひご覧ください。

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