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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【1章】呪われた者達
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【8話】焼き魚

「ヒト様… ごはん食べてないの?」

ティアが不思議そうにノブナガ達を見ると


「ワシらは金を持っておらん。 だからこうして川の水で腹を満たそうとやってきたのだ…」

ノブナガはしゅんとしてつぶやいていた。


「左様でござますなぁ… ん?」

ミツヒデは川で跳ねる魚を見つけた。


「ノブナガさま! 魚がいます!この川に魚がおりますぞ!」


「ん? おぉ!そりゃそうか! 川なんじゃから魚くらいおるじゃろ! ミツヒデ!魚を捕まえるぞ!」

ノブナガは刀を置くと、バシャバシャと川へ入って行く。ミツヒデも後を追い川へ入って行った。


ノブナガは静かに魚がいる辺りに近づくと

「ふーむ、この魚は鮎じゃろうか?」


「大きさは鮎くらいでございますね… しかし、上から見ただけではなんとも…」


「まぁ、魚には変わりあるまい。とりあえず魚を捕まえるぞ」


「しかし、ノブナガさま。如何様にして魚を獲りましょうか? 釣竿もありませんし…」


「クマはこうして魚を獲ると聞いた事がある。試してみるか」

そう言うとノブナガは体を曲げ右腕を上にあげる。

そーっと魚に近づくと、シュっと右腕を振り魚を川岸にいるティアの足下に投げ飛ばした。


「おぉ! お見事です!」

ミツヒデはノブナガの見事な魚獲りの技に感嘆していた。


「ミツヒデ、ここの魚は『うつけ』のようじゃ。簡単に獲れるぞ」

ノブナガは次々と魚をティアの足下に飛ばしていく。


「では、わたくしめも!」

ミツヒデも魚を飛ばしていくと、あっという間にティアの足下には50匹くらいの魚が飛ばされていた。


川から上がるとティアは魚が逃げないように川から遠ざけ、一箇所に集めていた。


「おぉ、ティア。助かった!」

ノブナガはニコニコしながらティアの肩をポンポンと叩く。


「いえいえ、ヒト様。このくらいさせて頂きます…」

ティアは膝をつき、深く頭を下げていた。


「…ティアよ。 それはやめろ。お主はワシの家臣でもなんでもない商売人じゃ。 それにワシは『ヒト様』ではない。ノブナガじゃ」


「ヒト様に、そのような事… できません…」


「ワシらは同じ川の水を飲んだ仲ではないか。もうワシとお主は竹馬の友と言っても過言ではないぞ」


「…それを言うなら『同じ釜のメシを食った仲』でしょう。それに『竹馬の友』は過言でございますな…」

ボソッとミツヒデはツッコミを入れる。


「うるさい!ミツヒデ! ワシはティアと友達になりたいのじゃ!」


「分かっておりますよ。ノブナガさま」

くくくっと笑いながら、ミツヒデは頭を下げる。


「ちっ。ミツヒデのやつ、相変わらず面白くないヤツじゃ」

そう言いながら、ノブナガはニヤニヤと嬉しそうな顔をしていた。


「ヒト様… あたしは…」

『友達になりたい』と聞いていたティアは、『驚き』と『不思議』と『信じられない』という感情が入り混じった顔でノブナガを見ていた。


「まぁ、よい。とりあえず腹が減った。魚を食おう。 …しかし、このまま生というわけにもいかんのぉ」

ノブナガが魚の山を見ながら「うーむ」と考えていると


「ヒト様、よろしければこの薪をお使いください」

ティアはノブナガが持ってきた薪と、自分が背負っていた薪を全て差し出した。


「ティア、さっきも言ったがワシらは金を持っておらん。ソレをワシらは買ってやれんのじゃ…」


「いいえ、ヒト様。 この薪はヒト様が持って来てくださったものです。 それに、あたしが獣人だとバレてしまいましたので、誰もあたしから薪を買ってはくれません。 ですから、何も気にせずお使い下さい」

ティアは苦笑いを浮かべると、薪をノブナガの前にズイっと押し出した。


「そうなのか… なれば、ありがたく使わせて貰おう」

ノブナガが薪を受け取ると


「あ、ノブナガさま。 どうやって火を着けましょうか…」


「お、火打石も持っておらんかったな…」

またまた「うーむ」とノブナガとミツヒデが頭を抱えていると


「お着けしましょうか?」

ティアが声をかけてきた。


「できるのか?」


「もちろんでございます。では、少々お待ちください」

ティアは腰から短刀を取り出し薪の細い部分をいくつか切り取ると、器用にフェザースティックを作り一箇所にまとめた。

ティアは一本だけフェザースティックを左手で待つと、右手の人差し指の先に小さな炎を出現させた。


「なっ!! ティア!それは一体!?」

ノブナガとミツヒデが指先の炎に驚いていると


「え? 火の魔法でございます。あたしのご先祖様達はもっと凄い火の魔法を使えていたそうですが、今はこれくらいしか出来ません。 まぁ、生活で使う分には便利なので助かってますけどね」

ティアは、へへへと笑いながら左手のフェザースティックに火を着け、一箇所に集めたフェザースティックの下の方に、そっと差し込むと瞬く間に火が広がった。そこに薪をくべると焚き火が出来上がった。


「どうぞ、お使いください」

ティアはそう言って焚き火から離れ、ノブナガ達より川下の方へ移動した。


「おお、ありがたい!」

ミツヒデは近くの小枝を手際良く魚に刺し、焚き火で焼き魚を料理していく。


「さぁ、魚が焼けましたぞ」

ミツヒデが焼き魚をノブナガに手渡すと


「おお、美味そうじゃ! さぁ、ミツヒデ、ティア、お主らも食べよ」

ノブナガは美味そう焼き魚にかぶりつく。


「これは美味い!」

ミツヒデも焼き魚にかぶりついていると、ティアは離れた場所でそれを見ているだけだった。


「ティア、どうした? 魚はキライか?」

ノブナガがティアに声をかけると


「いえ… ヒト様と同じモノを食べるなんて… 恐れおおくて…」

ティアはヨダレを堪え、腹の虫が鳴かないように胃の辺りを押さえていた。


「………食え。 これはお主の薪で焼いた魚じゃ。ワシらだけではこんなに魚を食えんしの。お主も腹一杯食え!」

ノブナガは焼き魚をティアの手に無理矢理持たせると、焚き火の近くに引っ張ってきて隣に座らせた。


「……いいのですか?」

ティアは堪え切れないヨダレを垂らしながらノブナガを見る。


「無論じゃ。 食え」

ノブナガがニコっと笑うと、ティアは夢中で焼き魚にかぶりついた。


「あぁ… 美味い… 魚とはこんなにも美味いモノだったのね…」

ティアは泣きながら焼き魚を食べていた。


「ティア殿。まだまだ魚はあります。たらふく食べてくださいね」

ミツヒデは焼き魚を次々と焼き、ティアの前に並べていた。


「あ… ありがとうございます… ありがとうございます… あぁ、村のみんなにも食べさせてあげたい…」

ティアは、ずっと泣きながら夢中で焼き魚を食べ続けていた。

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