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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【2章】幻の獣王国
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【31話】争いの後

争いが起きれば片方が勝利し、片方が敗北する。だが争いはそこでは終わらない。

敗北した者はなんらかの制裁や賠償を強いられるのだ。それが終わってはじめて『争い』は終わる。



今回の勝者は辺境防衛騎士団だ。

ノブナガ達は言わば『乱入者』であり、目的は『ティアの救出』だった。

なので、今回の『争い』にノブナガ達は無関係だといえる。

とは言うものの、フルークに寄生されたザスサールを討伐できたのは紛れもなくノブナガ達の功績と言えた。

だから、ヤールガは子供であるノブナガを戦友と認めていたのだった。


ノブナガに引っ張られるように歩くヤールガは、どこか楽しげな様子でノブナガに付いて行っていた。

ノブナガは少し歩き、アネッサ達と離れると立ち止まる。



「ヤールガ殿、失礼した」


「いやいや、構いませんよ。わたしはノブナガ殿の背中に勇気を貰わなければ、あのまま半獣人達や、あのフルークに殺されていたかもしれなかったのです。 改めて、感謝を…」

ヤールガはノブナガに向き合い頭を下げた。


「ふむ。さっきもお主はそう言っていたが… ワシにはなんの事やら、さっぱりわからんのじゃ」

ノブナガは腕を組みながら、ふーむ…と考えていた。


「まぁ、良いではないですか。 わたしが勝手に勇気を頂いただけのこと…」

ははははと朗らかに笑うと、ヤールガは真剣な顔になり問いかけた。


「ところで、こんな場所でいったい何の御用ですか?」


「ふむ。 ワシはこの国の事をあまり… いや、全くしらん。 じゃから、この戦をどう終わらせるのかを聞きたいのじゃ」

ノブナガは戦には苛烈であり、情け容赦無く敵を討ち滅ぼす。

だが一度(ひとたび)、戦が終われば生き残った者達はもう殺したくはないのだ。


「そうですね。 チトナプの町の者たちは獣人達を… おそらく獣人の血を引く半獣人達も許さないでしょう。 彼らが町に入ればどうなるか… 目に見えています」

ヤールガとしても、戦いは終わり、しかもフルークを倒す為に手を取り合った獣人や半獣人達を見殺すような事は避けたいのが本音だった。

だが、騎士団の勝利を町に伝え、脅威は去ったと町の者を安心させる必要がある。


「この度の争いに関しては、指導者であるノグロイの首で終わらせましょう。 ですが、先ほども申したように獣人はもちろん、半獣人達も町には入れません。 おそらくは、この先も町に近づく事すら難しくなるでしょうね」

ヤールガはそう言って、離れた場所にいる獣人たちを見ていた。


「まぁ、そうじゃろうな。 此度の戦、獣人たちが町を襲撃した事から始まったのじゃからな…」

ノブナガも獣人たちを見て、溜め息を吐いていた。


「そうですね。彼らが町を襲う事はもうないでしょう。 しかし、そう思えるのは私たちだからであり、町の人達から見ればまたいつ暴れ出すのか不安でありませんし、被害も出ていますので復讐や虐殺も起こるでしょうね…」

ヤールガの目は、過去に何度も見てきた光景が見えているようだった。


「そうじゃな…」

ノブナガも同じモノを見てきた。敗れた者達は『落武者狩り』と称して、身包みを剥がされ打ち捨てられるのだ。それが『敗者』の定めと自分に言い聞かせ、明日は我が身… と、覚悟を決めて戦に臨んだものだった。


その時、魔牛の半獣人で小さなツノを隠しもしていない美丈夫カーテと虎の獣人が1人やって来た。

虎の獣人は分厚い胸と逞しい腕をしており、上半身は虎柄の美しい毛並みに覆われていた。上半身は裸で膝下までのパンツしか履いていないにも関わらず、ほとんど無傷の体をしており、その高い身体能力と、その毛皮の高い防御力を物語っていた。


「ヤールガ殿、ノブナガ殿。 オレはセミコフ。獣人解放軍で副官をしていた者です」

セミコフと名乗る虎の獣人はヤールガの前で膝をつき、無抵抗であることを示す。

となりにはカーテが同じように膝をつき、頭を下げていた。


ヤールガとノブナガがセミコフを見ていると、セミコフは頭を深く下げ言葉を続ける。


「ヤールガ殿、ノブナガ殿。 ノグロイ亡き後、獣人解放軍は副官であるわたしセミコフの指揮下に入ります。 我らは騎士団に敗北した以上、なんらかの制裁もしくは賠償が必要なのは理解しております。 ですが、ひとつだけお願いがありここに参ったしだいです」

セミコフとカーテは下げた頭を上げる事なく、ヤールガの言葉を待っていた。


「願い… ですか」

ヤールガはポソっと呟くように言葉を漏らす。


「ははっ! 今回の件、どのような理由があろうと町を襲撃したのは我ら獣人解放軍であり、ザスサール率いる半獣人達です。 そして、指導者亡き後、あいつらを率いるのはオレ、セミコフと、隣のカーテです」

セミコフは声を大きくし、まるで自分を鼓舞するように話しを続けた。隣で頭を下げ続けているカーテは少し震えているようだった。


「願わくば、オレとこのカーテ… ふたりの命で許して頂きたい。 あいつらはノグロイやオレ、ザスサールに利用されていただけなのだ。 まぁ、カーテら半獣人共は操られていたそうだが…」

セミコフは苦笑いしながら、震えるカーテを見る。


「オ… オレはたしかに操られていたのだと思う。 普段のオレなら考えられないような事をしていたと… 今ならそう思う。 だが、ザスサールはオレたちの大事な家族なのは間違いないんだ。 ただ… いろいろと不幸が重なってしまっただけなんだ…」

カーテは声を震わせていた。


「カーテ…」

セミコフが声をかけようとするが、カーテは「わかっている」と片手を向けてセミコフを制止する。


「ノブナガ。 悪かったな。もう少し違う出会い方をしてたら、仲良くなれたかもしれなかったのにな…」

カーテは苦笑を浮かべてノブナガを見ると、ヤールガに向き直った。


「ヤールガ殿。半獣人代表としてお願いする。 オレの命で勘弁してくれ!」

カーテは鬼気迫る表情でヤールガを見ていた。


「セミコフ殿、カーテ殿。 お立ち下さい」

ヤールガは優しく微笑むと、手を差し出して2人を立たせた。


「ちょうどノブナガ殿とその話しをしていたところなのですよ。 国同士の争い… 所謂、戦争であれば賠償や、立場ある方達の処分など戦争責任を取る必要があるでしょう。 当然、今回の『争い』に関しても責任を取る必要はありますが…」

ヤールガは敢えて、『襲撃』ではなく『争い』と表現していた。


「今回の争い… 過去からの諍いや、偏見、差別など根深い問題があると、わたしは感じています。 それに加えて今回はさまざまな不幸が重なりました」

ヤールガはセミコフとカーテに語りかけるように言葉を繋ぐ。


「今回の争いに関しては、獣人解放軍の指導者ノグロイの首で終わりにしようと考えています」

ヤールガの言葉にセミコフとカーテは、驚いたように顔を上げた。


「チトナプの町へはノグロイを首を持って、危機は去ったと説明します。 ただ…」

ヤールガは少しだけ言いにくそうにしていると


「わかっている。オレたち獣人や半獣人達は二度とチトナプの町に近付かない」

セミコフの言葉にヤールガも


「それが賢明だと、わたしも思います」

と、答えていた。


「カーテ、セミコフ。 お主等はこれからどうするのじゃ?」

ノブナガは腕を組んでふたりを見る。刀の柄の先には相変わらず美しい鳥『マナ』が長い尾羽を振りながら止まっていた。


「そうだな… オレたちは集落に戻り、なるべくヒトに見つからないように生きていくしかないだろうな…」

カーテは自嘲しながら答え、セミコフも頷いていた。


「ふむ… ならばメルギドへ行ってみてはどうじゃ? メルギドには月女族 族長イルージュがおる。お主らが心を入れ替え種族に拘らず生きると言うなら、イルージュはお主らを受け入れてくれるはずじゃ。 それに、お主らずっと隠れて生きるのも限界があるじゃろう? ならば、拾った命を人々の為に使う事を考えてみてもいいじゃろ」

ノフナガはニカッと笑い、カーテとセミコフを見てからヤールガを見た。


「そうですね。ここはノブナガ殿に従ってみては如何ですか?」

ヤールガも頷き、ノブナガに同意する。


「……わかった。 これからオレたちはノブナガ殿… いや、ノブナガ様に忠誠を誓う事とする。 いいな?カーテ。」

セミコフはノブナガの前で膝をつき忠誠を誓い、カーテもそれに同意し膝をついて忠誠を誓った。



(む? なぜそんな流れになったのじゃ?)

ノブナガは混乱しながらふたりを見ていた。


ノブナガはティアに『戦』と『戦い』の違いを話す。

戦とは…

戦いとは…


戦に恐れを抱くティアをノブナガは…


次回 覚悟


ぜひご覧ください。

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