【30話】弔い
ティアは目を覚ました。
いつの間にか眠っていたようで、頭がボンヤリしている。
「どうして寝てたのかしら…」
ティアは頭を軽く振りながら考えていた。
ふと、見るとノブナガとミツヒデが戦死者を弔っていた。
たくさんの遺体が並び、一番手前にザスサールの遺体と、ノグロイの首があった。
ノブナガとミツヒデは手を合わせ、神妙な面持ちで戦死者たちを見つめていた。
「ノブナガ…」
ティアはそっとノブナガの隣に立ち、戦死者達に手を合わせる。
「ティアか、やっと起きたか…」
「うん…。 ノブナガとミツヒデがみんなを集めてくれたの?」
「いや、こやつらは自分でここに居たのじゃ」
ノブナガの答えにティアはキョトンとしていると
「この者たちは、アネッサ殿の魔法によって自分で歩き、ここに集まっていたのです。 アネッサ殿が眠ってしまうと、糸が切れた操り人形のようにバタバタと倒れてしまいました」
ミツヒデの丁寧な説明で、やっとティアは理解できたようだった。
ティアはこそこそとミツヒデの横に来て、
「ノブナガって、いつも言葉が足りないよね…」
ティアがミツヒデに耳打ちすると
「左様ですな」
ミツヒデはクスクスと笑っていた。
ノブナガはそんなふたりを気にしていないのか、ただザスサールとノグロイの首を見つめている。
「ザスサール… 幸せにな…」
ノブナガは誰にも聞こえない小さな声で呟いていた。
「ノブナガ… どうしたの?」
ティアが声をかけると、ノブナガは『ふっ』と笑い
「なんでもない…」
と、ひとこと残してヤールガ達を起こしに行ってしまった。
「どうしたんだろ?」
ティアにはノブナガの背中が、少し寂しそうに見えていた。
「大丈夫でございますよ。 ノブナガさま戦に対しては苛烈なお方ですが、心根はお優しいのです。 きっと、この者たちの冥福を祈っているのでしょう」
ミツヒデはニコッと笑うと、ノブナガを追いかけて走っていってしまった。
「あ、まってー」
ティアもミツヒデに続きノブナガを追って走っていた。
―――――――
ノブナガやミツヒデ達がヤーガル達を起こしていると、アネッサが目を覚ましていた。
「んん… わたし…?」
アネッサは体を起こして、ぼんやりと周りを見ていた。
周りにはたくさんの騎士や獣人たちが寝ており、ノブナガたちが起こして廻っている。
「巫女さま、目が覚めましたか?」
ティアはアネッサのとなりに座ると、微笑んで声をかけた。
「ティアさん… わたし、寝てたの?」
「はい。 まぁ、あたしもさっき起きたとこですけどね」
クスクスと笑うティア。
「こんな所で…? あれ? ザスサールは? たしか、悪魔の本のバケモノを倒したらザスサールが倒れてて… そうだ! ノブナガにザスサールを助けてられるか聞かれてムリだと答えたら、何かすごい事が起きた… ような…?」
アネッサは記憶の糸を手繰り、自分が寝る前の事を思い出そうとする。 が、ロアが現れる瞬間からの記憶が思い出せないでいた。
「そうですね… あたしもそこまでは思い出せるのですけど… 」
ティアも同じ状態で、ロアに関する記憶が綺麗に消えていた。
「「うーん…」」
アネッサとティアはなんとか思い出そうと、考えていた。
「アネッサ殿、目が覚めましたか?」
ミツヒデは頭を抱えるふたりに声をかけ、微笑んでいた。
「ミツヒデ… わたし、どうしてこんな場所で… それにあの騎士や獣人達も寝てたの?」
アネッサは思い出せない記憶をミツヒデに託す。
「…さぁ? わたしもさっき起きましたので…」
ミツヒデは微笑みながら答えていた。
「そうかぁ…」
「それより、アネッサ殿にお願いがあるのです」
「お願い?」
「はい、此度の戦の死者を弔ってやって頂きたい。 みな、あちらに安置しておりますので」
ミツヒデは戦死者達が安置されている方向を指差しながら説明する。
「そうね… いいわよ」
アネッサは神妙な面持ちでミツヒデの依頼を請け負うと、戦死者達が安置させてれている場所に移動した。
そこにはノブナガとヤールガ、カーテを先頭にして、今回の戦いに関わり生き残った者達が集まっていた。
アネッサはそのまま戦死者の前に向かう。
「アネッサ… 頼む」
ノブナガは短く声をかけると、アネッサは黙って頷き戦死者達の前に立った。
戦死者たちに花が手向けられており、一番手前にザスサールの遺体とノグロイの首。 その後ろにアネッサがゾンビとして利用した死者達が安置されていた。
アネッサは深く頭を下げ死者に敬意を払うと、ゆっくりと舞いだした。
それはとても優しく、慈悲と慈愛溢れる舞だった。
手を合わせていた騎士や獣人達から、自然と涙が溢れて鼻を啜る音が聞こえていた。
ノブナガの頬にも一筋の涙が流れていたが、それは誰にも気付かれること無く拭き取られてしまった。
「終わったわよ」
舞終わったアネッサは振り向き、ノブナガにそう声をかける。
「うむ…」
ノブナガはゆっくりと立ち上がり、いつものように刀に腕を乗せていた。
ただいつもと違うのは、その刀の柄の先に背中が美しいエメラルドグリーンで腹が赤い文鳥サイズの小鳥がとまっている事だった。
小鳥の尾羽は背中と同じように美しいエメラルドグリーンで、胴体の3倍くらい長かった。
小鳥はその長い尾羽を上下に揺らしながら、ノブナガの刀の柄の先に当たり前のように止まっているのだ。
「ノブナガ? なに?その綺麗な鳥?」
アネッサは小鳥に気が付き驚きながらも、あまりの美しさに心を奪われ手を伸ばしていた。
「あぁ、これは『マナ』じゃ。 知り合いから預かっておる」
実はこの鳥は、ロア・マナフの分身体の黒い小鳥なのだ。
ティア達が目覚める前、ノブナガはマナに話しかけていた。
「お主の見た目はそのままなのか? 黒い鳥はあまり良い印象が持てないのじゃが…」
「そう? 黒は女を際立たせる色だと、ボクは思うのだけどなぁ」
ロアの個人的な趣味を主張する。
「確かに、黒い鳥… カラスなどはあまりよい印象ではありませんな」
ミツヒデもノブナガに同意する。
「そうじゃな。 その赤い三つ目がダメなんじゃないか? 黒くて赤い三つ目の鳥… モノノケか?」
ノブナガが笑うと、ミツヒデも「たしかに…」と言いながら笑っていた。
「ええ? そこまで言われるのは心外だなぁ。 まぁ、ずっとノブナガさん達に付いて行くし、少しは協力しとくよ」
マナはそう言うと、額の目を閉じる。すると、そこには何も無かったかのように『三つ目』から普通の『二つ目』になった。
そして、マナは少しだけ体を震わせると鮮やかな色彩の綺麗な小鳥に変貌した。
「これでどう?」
少しドヤ顔(小鳥なので、表情はよくわからないが)のマナ。
「おお、これは美しい」
ミツヒデは感嘆の声をあげ、ノブナガも唸り美しくなったマナを見ていたのだった。
「知り合い? え?いつの間に知り合いから?」
激しい戦いを繰り広げていたノブナガ達。いつの間に知り合いと合い小鳥を預かったのか?
アネッサが混乱していると
「あれ? ノブナガ! なに?その鳥! すごく綺麗ね!」
ティアも今頃気がついたようで、『マナ』に手を伸ばそうとしていた。
「むぅ… さっき捕まえてきたのじゃ!」
ノブナガは急にめんどくさくなり、適当に言い訳を始めた。
「え? さっき知り合いから…」
アネッサが突っ込むと
「知り合いから捕まえたのじゃっ!」
「はぁ? 意味がわからないんですけど?」
「煩い! これは『マナ』じゃ。なぜかワシから離れん鳥じゃ! それでよかろう!」
ノブナガは逆ギレすると、ヤールガを連れて歩いて行ってしまった。
「なに? 意味が分からないんだけど?」
アネッサが不貞腐れていると
「まぁ、ノブナガに懐いている小鳥なんですよ。 巫女さま」
ティアはクスクスと笑いノブナガの背中を見ていた。
「ティアさん… あなた、男に騙されるタイプね…」
アネッサは少し哀れみの目でティアを見ていた。
「ええ!? あ… あたし… ええ?」
「はははは まぁ、よいではないですか。 あの小鳥はノブナガさまに懐いてしまったのです。ただそれだけの事ですよ」
ミツヒデは笑いながらノブナガの背中を見ていた。
ノブナガとヤールガは、今回の争いの事後処理について考えていた。
そこにカーテと、獣人解放軍の副官と名乗る獣人がやってきて『願い』を聞いて欲しいとやってきた。
次回 争いの後
ぜひご覧ください。
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