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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【2章】幻の獣王国
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【25話】チトナプの奇跡

その昔、刀を『人斬り包丁』と呼ぶ者がいた。その言葉通り、刀は『斬る』事を主目的とした武器だ。

『斬る』事に特化した刀には美しい刃紋が浮かび、それは人の心を魅了してきた。


対して剣の主目的は『叩く、殴る』だ。その補助として『斬る』が付いている。


そして、『メイス』と言う武器。

それは鉄製の棍棒の先に、凶悪な棘が付いた鉄球を鎖で繋いだ武器だ。

メイスはウォーハンマーと同様に『殴る』が主目的で作られた武器であり、その先にある凶悪な鉄球で殴られると殆どの人間の頭はザクロのように打ち砕かれる事になるだろう。



元ザスサール… いはまバケモノと呼ぶべきかもしれない。

そのバケモノはどこから取り出したのか、凶悪なメイスを持っていた。しかも、その体に合わせた巨大なメイスだった。





「ミツヒデ、あやつの持っている武器… さすがに我らの刀も折れそうじゃな…」

ノブナガは苦笑いしながら感想を述べる。


「左様でございますな。 アレはまともに受けてはなりませんな。 いや、しかしこの世界には見たこともない武器がまだまだありそうでございますな…」

ミツヒデは感心したようにメイスを見ていた。


「あ… あんた達ねぇ…」

この2人の感覚はやっぱり変だわ… アネッサはため息を吐いて、あの巨大なメイスにどう立ち向かうのか考えていた。


(いや、でも待って。 確かノブナガは『紫色の球』を持っていたと言ってた。 それにティアさんが着けていた紫色のカケラ… アレはまるで水晶のカケラだった…)

アネッサの思考は、自分の過去に遡っていく。


(まさか… ザスサールも…?)

あまり考えたくないが、その状況はあまりにも自分の過去とよく似ている。


最愛の人の死。

我を忘れるほどの絶望感。

やり場のない怒り。

恐らくはザスサールも聞いただろう『甘い言葉』。


そして… 『紫色の水晶』。


(たぶん、間違いない。アレは悪魔の本… と、言うことは、わたしはリヌをあんな姿にしようとしていた…?  わたしはリヌを魔獣にしようとしていた… と、いうの?)

アネッサを激しい後悔が襲った。それと同時にノブナガ達に阻止された事を感謝していた。


(ザスサール… 哀れな男。あなたの気持ちはよく理解できるわ。 安心しなさい。わたしがあなたを止めてあげる)

アネッサのザスサールを見る目が穏やかになり、その奥に強い意志を宿していた。



「ノブナガ、ザスサールを止めるわよ」

アネッサが叫ぶ。


「無論!」

ノブナガは短く応えていた。


アネッサはオオカミゾンビを2体呼び出すと、ノブナガとミツヒデの下に向かわせ、

「あなた達、オオカミがいた方がいいでしょ?」

アネッサは『仕方ないわね… 』という顔で2人に声をかけた。


「うむ。 分かっておるではないか」

ノブナガは、さも当たり前のようにオオカミに跨りながら応える。


(あれ? これじゃ、わたしが2人のために気を遣ってるみたいじゃない…)

アネッサは、ノブナガの上から目線に少しモヤモヤしながらも


(そんな事より、今はザスサールね!)

気を取り直して、オオカミゾンビの横でザスサールに向き直った。


『パンっ!!』

その時、突然、乾いた音が響いた。

それは俯きしゃがみ込んでいたティアが、自分の頬を思い切り叩いた音だった。

アネッサが驚きティアを見ると


「巫女さま… ありがと。 あたしはもう大丈夫」

吹っ切れた表情になったティアは、両頬を真っ赤にしながらザスサールだったバケモノを哀れむように見つめていた。


ノブナガは『ふっ』と笑うと


「ミツヒデ、ティア!  参るぞ!」

ノブナガは抜刀し、オオカミゾンビを走らせた。


「はっ!」

ミツヒデも抜刀すると短く応えノブナガに追従し、ティアは腰に装備している短剣を確認して走り出した。




ノブナガ達が走り出した頃、俯いていた騎士や戦士達が顔を上げ始めていた。


そんな中、上質な装備を身につけた騎士が立ち上がりノブナガの背中を見ていた。

(アレは、オレが子供の頃に憧れた騎士の背中… あの子供はいったい?)


騎士の目にはノブナガの背中が、大人の… まるで自分が子供の頃に憧れた騎士の背中に見えていたのだ。


「ふっ オレもまだまだ未熟者だな…」

騎士は自笑すると、馬に乗り騎士剣をスラリと抜いて天を突くように掲げ叫んだ。


「騎士達よ! お前達は何のためにここに来た!? 町を! 人を守る為ではなかったのか!? 

まだ戦いは終わっていない!

オレたちはまだ守るべきモノを守りきれていない! 

命ある限り戦い、人を守る事がオレ達の誇りだったはずだ!」

騎士は一気に叫ぶと、辺りを見渡す。

辺りの騎士や戦士、獣人、半獣人たちが騎士を見ていた。


それを確認すると、騎士はさらに叫ぶ。

「立て! 顔を上げろ! 武器を持て!

オレは辺境防衛騎士団 団長ヤールガ・イルナック! オレ達は王国の剣だ! オレ達が倒すべき敵は、あの丘の上にいるバケモノだ!」

ヤールガの鎧は血で汚れ、所々が損傷しており激しい戦闘があった事を物語っていた。

だが、その目は力に満ちており、その騎士剣はヤールガの魂を表すように光り輝いていた。


いままで伏していた騎士や戦士達は、ゆっくりと武器を取り、力強い足で立ち上がる。


「獣人、半獣人達よ! お前たちの指導者は死んだ。 お前たちのと戦いは我らの勝利で終わったのだ。 ならば、お前たちは我らと共に戦え! 敵は1人! あのバケモノだけだ!」

ヤールガの叫びに、これまで戸惑っていた獣人や半獣人たちも武器を取り、丘の上にいるバケモノを睨む。


これまで争っていた人間達を纏めるには『共通の敵』を持つことが効果的である。 と、誰かが言っていた。

ヤールガは狙ったのか、それとも無意識にか()()を実行したのだ。

そして今、ヒトと獣人、半獣人が『丘の上のバケモノを倒す』と言う『共通の敵』に向けて、手を取り合い、共に戦うという奇跡を起こした。


「オレは辺境防衛騎士団 団長 ヤールガ・イルナック! 丘の上にいるバケモノを討ち滅ぼす者だ! 皆のもの!我に続け!! 突撃だ!!」

ヤールガは騎士剣でバケモノを指すと、馬を走らせ突撃を開始する。


「「うぉぉぉおおお!!!」」

ヤールガに続きヒト、獣人、半獣人の混成部隊が突撃を始めたのだった。



後に、人々はこの日の出来事を『チトナプの奇跡』と呼ぶようになる。

騎士や戦士達はノブナガと共に、元ザスサールへ突撃を開始していた。

だが、アネッサの魔法により騎士や戦士たちは怯えてしまう。


次回 戦慄


ぜひご覧ください。

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