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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【2章】幻の獣王国
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【24話】哀れな男

「ティア、後悔は後にするのじゃ。 どうやらザスサールのやつ、本気になったようじゃ」


ノブナガとミツヒデは丘の上にいるザスサールを睨み、警戒していた。


「さぁ、ティアさん。 まだ戦いは終わってないわ。わたし達も、まだやるべき事があるはずよ」

アネッサが優しくティアを諭すと、コクっとティアが頷く。

それを確認してから、アネッサはノブナガ達が警戒している丘の上を見た。


「えぇぇぇ!? なに!? あのバケモノは!?」

アネッサの視線の先には、身長が3mほどの赤黒いバケモノが立っていた。

そのバケモノは円周1mくらいありそうな太い腕を背中から2本生やし、首は無く頭から肩にかけてなだらかな線を描いている。

その頭らしき場所には巨大な目がひとつと、人間でいう首辺りに巨大な口がひとつ。その口からはサメのような小さめの歯が無数に見えていた。



「アレはザスサールじゃ。 先程、なにやら紫色の球を天に掲げたかと思ったら、あんな姿に変貌したのじゃ。 それにしても、魔法とはなんでもアリじゃな… まさか、あんなバケモノに変身するとは…」

ノブナガは溜め息を吐きながら、ゆるゆると首を振る。


「左様でございますな… まさに、人は見かけによらないとはこの事でごさいます」

ミツヒデは、よく分からない事を言い出していた。


「バカ! アレは変身というより魔獣化よ! ザスサールのやつ、ただの脳筋じゃなかったの?」


「魔獣化… ザスサールは人では無くなった… と、言うことか?」

ノブナガが聞くと、アネッサは少しだけ間を置いて


「そうね。 もう、アレは人間じゃない。 元に戻ることも出来ないでしょうね」

アネッサは哀れみを浮かべた目でザスサールを見ていた。


「そうか… 哀れな男じゃ」

ノブナガも哀れみを浮かべた目でザスサールを見る。


「ん? ノブナガ、さっき紫色の球って言った?」

アネッサは先程のノブナガの言葉に何か違和感を覚えていた。


――――――――――――




ノブナガがティアの腕を切り飛ばしたを見ていたザスサールは、ワナワナと震えながら考えていた。


「なぜだ? どこで間違えた?」

ザスサールは丘の上で口に手を当ててつぶやいていた。


カーテ等、半獣人の仲間たちは子供一人に敗北し、しかも水晶のカケラを取り付けたネックレスを外されてしまった。


更に最強の戦闘部族である月女族も敗北し、他の半獣人達と同じように水晶のカケラを外されてしまう。


(あの子供、確実に水晶のカケラの力を理解している。 それにあの力… いったい何者なのだ?)

ザスサールに恐怖心が湧き出てきた。


(逃げるか…?)


元来、ザスサールは戦いは得意ではなかったのだ。


もともとザスサールは恋人のカニアと町から逃げ出し、森の奥で見つけた泉の近くに隠れ住んでいた。


そこは彼等にとっては最高の場所だった。

なぜなら、森にはたくさんのヘビや獣が生息しており、容易にヒトや獣人が入って来れない。

しかも、泉は新鮮な水がこんこんと湧き出ており、なぜか泉の周りは木々が少なく、太陽の恵みもある住みやすい場所だったのだ。


まるでこの世の唯一神ロア・マナフさまが、自分たちの為に用意してくれていたのではないか? と、思えてしまうような場所だったのだ。


ザスサールはカニアと共に、ロア・マナフさまが用意してくれた場所でひっそりと幸せに暮らしていた。

ある日、カニアは森の中で死にかけている半獣人を見つけた。

ザスサールとカニアは、かつての自分達と同じような境遇であっただろう半獣人を助ける為、自分達の隠れ家に連れて帰った。


命を取り留めた半獣人は家族を連れてきていいか?と、ザスサールとカニアに尋ねた。


ザスサールが快諾すると、半獣人は喜んで町に帰って行った。

しばらくして家族と戻ってきた半獣人は、泉の周りに家を建て住むようになった。


その頃、半獣人達の中で『森の中に半獣人の隠れ里がある』とウワサになっていた。


そうして何年か過ぎた頃、泉の周りには小さな集落が出来ていた。そして、当然のようにザスサールは集落のリーダーとして慕われるようになっていた。



しかし、そんな幸せな日々は長く続かなかった。


カニアが殺されたのだ。


村の娘が出産すると聞いたカニアは、お祝いの木の実を取りに森へ入っていった。そこで獣人ノグロイに犯され… 殺された。


ザスサールは発狂するほど怒り狂った。

だがノグロイには勝てない… と、冷静な自分もいた。

自宅に戻り、やり場のない怒りをぶつけて部屋をめちゃめちゃにする。そんな日が何日か続いた頃、見覚えの無いバンダナを見つけた。

そのバンダナには不思議な模様があり、特に気になったのが中央にある『閉じた目』のような模様だった。


ザスサールはバンダナを手に取ると、バンダナで自分の目を塞いだ。

なぜそんな行動をしたのかザスサールも分からなかった。だが、そうすると自然と心が穏やかになるような気がした。


気がつくと手に紫色の水晶を持っていた。


―――復讐したいなら、この水晶に生命力を集めろ―――


そんな声が頭の中で響いた。


(あぁ、これが天啓か…)


ザスサールはバンダナを外すと、集落に住む者達に宣言する。


「オレはヒトも獣人も居ない、オレたち半獣人だけの王国を作る! みんな! オレに付いて来い!」

ザスサールは紫水晶を剣の柄で叩くと、割れたカケラをチェーンに取り付けて集落の者たちの首に掛けた。


すると不思議な事に、集落の半獣人たちはザスサールに忠誠を誓ったのだ。


紫水晶を手に入れてからのザスサールは、頭の中にさまざまな戦略が浮かび上がるようになった。

その戦略は『どうすればたくさんの人間を効率よく殺せるのか』に特化していた。


そうしてザスサールの獣人vs騎士団の作戦が決行されたのだ。





一瞬、『逃げる』を選択しそうになったザスサールだったが、すぐにその選択は消えてしまった。


(これだけの人間が死んだ。 十分だろう…)

ザスサールは懐からバンダナを取り出すと、自分の目を塞ぐようにキツく縛った。バンダナに描かれた『閉じた目』のような模様が、ちょうどザスサールの目の位置にきていた。

ザスサールはバンダナで目を隠したまま、紫水晶を両手で持って頭上高く掲げる。


すると戦場で倒れている死体から、淡い光が現れた。淡い光は紫水晶に吸い込まれるよう集まってくる。


無数の淡い光が紫水晶に吸い込まれていくと、だんだん水晶の色が紫からドス黒い赤に変貌していった。


(よし、十分だ…)

ザスサールの目を塞いでいるバンダナの『閉じた目』の模様がギョロリと開き紫水晶の色を確認すると、目はいやらしく笑う。


ザスサールは赤黒くなった水晶を、自分の胸に押し当てる。

すると水晶は半分ほど胸に沈み、水晶を取り込むように血管が浮かび上がり体と水晶の境を無くしていく。


ザスサールはビクッビクッと痙攣しながら水晶を自ら取り込むように、胸に手を当てていた。


次第にザスサールの体は赤黒くなり、180cm程度だった身長はみるみる大きくなり、約3mほどにまで巨大化した。やがて背中から太い腕が生え、ザスサールの面影は消えて、頭であろう場所に巨大な目がひとつと、口が現れた。


その巨大な口は歪にゆがみ、サメのような小さな歯を無数に覗かせながら言葉を発していた。


「上手くいった…」

ザスサールの変貌。

アネッサの想いと、ノブナガの行動。

それを見ていた騎士がとった行動は…


次回  チトナプの奇跡


ぜひご覧ください。

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