【22話】ティアvsノブナガ
(無駄だとは思うが、とりあえず殴ってみよう)
ノブナガは以前、アネッサから聞いた『人を操る魔法の解除方法』のひとつを試すことにした。
ただ、その時の話しでは殴るだけで魔法が解除されてしまうのは一番効果が弱い魔法らしく、ティアにかけられた魔法は、ソレではなくアイテムという物を使った魔法だろう…
と、アネッサは説明していた。
ノブナガは無駄だろうとは思いつつも、もしこれでティアにかけられた魔法が解けるなら儲けモノだと、軽く考えていた。
とりあえず殴られるティアには迷惑な話しだが、これは仕方ないと諦めてもらうしかない。
ノブナガは刀を構える。それは威力よりも速さを意識した抜刀術の構えだった。
(ティアの速さは尋常ではないからの…)
ノブナガは刀に手を掛けると腰を落として、大地を踏み締めティアの隙を窺う。
ノブナガを中心に威圧感が広がる。ノブナガがまだ織田信長であった頃、その範囲は刀の長さに腕の長さ、それにノブナガの踏み込みの距離が足された範囲で、だいたい3m〜4mといったところだろうか。
ちなみにミツヒデが明智光秀だった頃は、これの1.3倍くらい広かった。(光秀の剣速と踏み込みの距離が影響していたのだ)
それが今は、倍近く範囲が広がっていた。ノブナガは異様な広さに驚きつつも、心を鎮め刀に集中する。
ノブナガの威圧感は更に研ぎ澄まされ、その範囲内に居るだけで斬り殺されてしまう… そんな感覚に陥ってしまう。そう、これはノブナガの絶対領域なのだ。
「っ!!」
ティアは敏感に反応しノブナガの絶対領域から離れ、ギリギリの位置で止まるとノブナガの様子を窺っている。
「やはり、素直には殴らせてくれんか…」
ノブナガは苦笑いを浮かべながら呟くと、ジリっと半歩踏み出す。
それに合わせるようにティアも半歩下がる。
「ほほぅ。 さすがティアじゃ。この半歩に気がつくとは… じゃが、甘いっ!」
ノブナガは力強く大地を蹴り、一気にティアとの距離を詰めるとキィィンと高音を発しながら抜刀した。
しかし、ティアはギリギリの距離で刀が届かない位置にいるのだ。ノブナガの刀は空を斬りティアの寸前を通り過ぎていく。
「子供、焦り過ぎたな…」
ティアがニヤリと笑い反撃に出ようとした瞬間、無数の石飛礫がティアを襲った。
「くっ!!」
ティアは両手で防御するが、全身に石飛礫を浴びてしまった。
「どうじゃ? これならお主も躱しきれまい」
ノブナガの狙いは、切先で小石を弾いて石飛礫による物理的なダメージを与える事だったのだ。
刀による打撃(峰打ち)だと容易に躱されてしまう可能性が高いと考えたノブナガは、絶対に躱しきれない方法でダメージを与え、あわよくば魔法を解除しようとしたのだった。
…が、案の定、それは失敗に終わる。
「子供… 舐めたマネをっ!」
ティアは石飛礫を浴び全身に細かい切り傷を負ったが、魔法が解除される事はなかった。
刀を振り抜いて無防備となったノブナガに、ティアの短剣が襲いかかる。
「ちっ やはりダメじゃったか」
ノブナガは猫化の動物のような、しなやかな筋肉で後ろへ飛びティアとの距離をとった。
「やはりその首に掛かっているカケラを奪うしかないのか」
ため息を吐くノブナガと、舌打ちをして構え直すティア。
ノブナガは刀を正中に構えティアを正面に見る。
ティアは軽快なステップを踏みながら左拳は正面、右拳は顎の横で構えていた。
逆手に持った短剣から、さっき斬った獣人の血が滴り落ちる。
「ティア、もう一度聞くが、ワシが分からんのか?」
「………」
ノブナガの問いにティアは無言で返していた。
「そうか… 致し方あるまい…」
ノブナガはそう呟くと、鬼神のような目でティアを威圧した。
「……っ!!」
ティアは身を竦ませ、短剣を握る手に力が入る。
「…参るっ!」
先程まで刀が届かない位置にいたノブナガは、気がつくとティアを射程圏内に捉えていた。
「しまっ…!」
ノブナガにとって、ティアの反応は遅かった。
それはティアの反応が遅れたのではない。ノブナガが速過ぎるのだ。
刀は上段から襲いかかり、返す刀で振り上げ、さらに袈裟斬りと一瞬で3連撃をティアに叩き込むノブナガ。
ティアはなんとか短剣で防御しながら回避すると、一気に後ろへ飛びノブナガとの距離を大きく取った。
「ふむ、コレを躱すか…」
ティアの頬に切先が掠ったようで、ツゥと流れる赤い血を拳で拭うと短剣を納刀し、右手の平を広げて上に突き上げて呪文を唱える。
すると手の平の上に拳大の火の玉が現れた。
「ファイヤーボール!」
ティアはノブナガに向けてファイヤーボールを射出した。ファイヤーボールは勢いよく射出されると、あっという間にノブナガの目の前まで飛んできた。
ノブナガは少し身を屈めると、刀を左下へ構えファイヤーボールを見極めるように凝視すると
「ふんっ!」
左下から右上に抜刀術のように刀を振り抜きファイヤーボールを斬る。
斬られたファイヤーボールは真っ二つに分かれ、ノブナガを避けるように左右に飛び背後で爆ぜた。
爆炎を背にノブナガは不敵な笑みを浮かべてティアを見ていると
「ば… バカな。 魔法を… 斬るだと?」
ティアはその余りにも現実離れした状況に慄いていた。
「ならば、次はワシの番じゃな」
ノブナガは一気にティアとの距離を詰め、猛然と斬りかかる。
ティアも短剣を装備し直し、短剣で刀を受けながらギリギリで攻撃を回避し反撃する。
当人たちはとても長い時間、攻防戦を続けていた感覚だろうが、実際には数分で終わることになる。
ノブナガの刀がティアの首を狙い横に振り抜かれた。
ティアは大きく身体を逸らして刀を回避すると、そのままバク転するようにノブナガのアゴに蹴りを入れる。
ノブナガは咄嗟に左手で爪先を受け止めるが、ティアの蹴りの勢いで背後に蹴り飛ばれてしまった。
「くそっ! 体が軽すぎる…」
ノブナガが大人の体ならば、蹴りを受け止め反撃する事も出来ていただろう。
だが、子供の体になった今ではティアの蹴りを受け止める事が出来なかったのだ。
「子供… 大人しく死ね!」
ティアは短剣を納刀し、両手からファイヤーボールを連続で射出する。
「ちっ!」
ノブナガはティアから距離を取ると、近くに転がっていた戦士の死体を盾にファイヤーボールから身を守った。
戦士の死体は鎧を装備していた為、辛うじて原形を留めているが、焼け焦げ見るも無惨な姿となってしまった。
「くそ! 魔法とやらは味方だと頼もしいが、敵になると厄介なモノじゃな…」
ノブナガは戦士の死体を横に置くと、切先をティアに向けて叫んだ。
「ティア!! 今から本気でお主を斬る! 真正面からの斬撃じゃ! 死ぬ気で避けろ!」
ノブナガはゆっくりと腰を落とすと、刀を肩に乗せてティアを正面に見た。
「剛剣 龍牙斬!」
ノブナガが放った斬撃はその名の通り、まるで巨大な龍のように襲いかかり、その巨大な牙でティアを噛み砕こうとしたのだった。
ノブナガは剛剣 龍牙斬を放った。
だが、それはノブナガも予想外の結果を齎すのだった。
次回 剛剣 龍牙斬
ぜひご覧ください。
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