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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【2章】幻の獣王国
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【21話】ティアの戦場

ティアが熊獣人と向かい合う時の、拳の左右を間違えてましたので修正しました。

(あなた! いったい何をしているの? やめなさい!)

あたしの頭の中で、あたしの声によく似た女の声が叫んでいる。


「うるさい! あなたは誰なの? ザスサールさまの邪魔をしないで!」

あたしは頭を振り、戦場を見渡した。


獣人たちは狂ったように武器を振りかざし、ヒトは獣人の攻撃を躱して反撃している。

そこらじゅうに獣人やヒトの死体が転がり、お互いに引くこともせず、ただ目の前の敵を殺す事だけを考えているように見えた。

戦闘員の3割も失えば降伏するか、撤退するのが通常であるが、ここは相手を殲滅するまで戦いを止めない『殲滅戦』となっているようだ。


(どうして… 獣人もヒトも分かり合えるはずなのに… あたし達もいろいろあったけど… でも分かり合えたのに…)

あたしの頭の中の声は、今にも泣き出しそうな声でそう言っていた。


「獣人もヒトも相入れない。それがこの王国の意思、ヒト種族の主張、獣人の感情でしょ。それを全て壊して、半獣人の王国を作る。それがザスサールさまが決めた事。あたしはザスサールさまの手足となり、敵を討ち滅ぼせばいい。 ただ、それだけの事よ!」


あたしの耳に、背後から剣を振り翳して向かってくるヒト種族の戦士の音が聞こえた。 戦士の剣が背後から振り下ろされる。

あたしは振り向きもせず紙一重で躱してみせ、裏拳で戦士の鼻を潰す。

蹲った戦士の頭を持ち上げ、首に短剣を当てようとした時、また頭の中の声が叫んだ。


(それは違うわ! 確かにあたしはヒトを恐れていたし、嫌っていた。ヒトもあたし達、獣人を嫌っていると思ってた。 でも、あたしはノブナガと出会い、それが間違いだったと分かった。ヒトも獣人も… きっも半獣人だって、みんな分かり合える。お互いに歩み寄れば仲良くなれるのよ。 あたしはそれをメルギドで見てきたじゃない! 感じてきたじゃない! どうして、それを忘れてしまったの? あなたはあたしでしょ!?)


「あたしが? 何を言っているの? あたしはあたし。あなたじゃない!」

あたしは叫びながら、戦士の首に当てた短剣を引いた。

戦士の首から噴水のように血が吹き出し、さっきまで温度を持っていた戦士の体が冷たくなり力が抜けていった。


(な… なんてことを!!)


「ここじゃ、殺さなきゃ殺されるよの!」

あたしは次の獲物を探す。 ここは戦場。しかも全員が敵。 獲物は腐るほどいる。

ちょうどヒトの戦士を殴り殺した熊獣人の男が立っているのが見えた。

その熊獣人の男は手についた血と、倒れた戦士を交互に見てニヤリと笑みを浮かべていた。

熊獣人の男の目は、完全に正気を失っているようだった。


あたしは熊獣人に狙いを定めると、大地を蹴り一気に距離を縮める。


(やめて! もう誰も殺さないで!)


「黙れっ」

あたしに気がついた熊獣人の男は、振り向きざまにその大きな爪であたしを切り裂こうとする。

その手は大きく、鋭い爪がその凶悪さを際立たせていた。


あたしは体を沈めて爪を躱し、低い体勢から顎を狙って、真上に全体重を乗せた拳を打ち上げる。

男は咄嗟に上体を逸らして拳を避けるが、手に持った短剣は男の頬を切り裂いた。


男は逸らした上体を戻すと体勢を整えて、今しがた殺したヒトの戦士から剣を奪い構える。


あたしは着地と同時に背後に飛び、男との距離をとった。


(ねぇ! やめよう? どうしてザスサールの為に戦うのよ?)

まだ頭の中の声は叫んでいる。しかし、いまそんな事に気を取られている場合ではない。

目の前の熊獣人の男を殺さないと、あたしが死ぬのだ。


ゆっくりと息を吐き、右拳は頬の横。左拳は目の前に構える。右手に持った短剣は血に濡れ、左手に持った短剣は太陽の光を反射していた。


右手の血に濡れた短剣は、まるで今のあたし。

左手の太陽の光を反射する短剣は、頭の中のあたしに似た女。


「もう、あたしは戻れないの…」

自然と言葉が出ていた。


その時だった。


「ティア!! ワシじゃ! ノブナガじゃ! 戦いを止めるのじゃ!」

戦場をオオカミに乗った子供が、あたしを目掛けて突進してきていた。


(ノブナガよ! あたしの友、ノブナガよ!)

すごく嬉しそうに頭の中の女が叫んでいた。


「ちっ うるさい!」

あたしは熊獣人の男を見据えると、一気に勝負に出る。熊獣人は戦士から奪った剣を上段に振り上げ、あたしの頭を叩き割ろうと勢いよく振り下ろした。

あたしは振り下ろされた剣を躱し、熊獣人の懐深くに入ると脇腹に右拳をめり込ませる。


体をくの字にしたところを、左拳に持った短剣で首を斬り裂く。

熊獣人の首から大量の血が吹き出し、あたしは返り血で顔を汚していた。


あたしは()()()左に持つ短剣で首を斬った。

それは頭の中の女、おそらくは誰も殺した事がない綺麗事ばかり叫ぶ女を消す為だった。


すると頭の中の女は急に弱々しくなり、声が小さくなっていった。

それと同時に頭の中にモヤが広がり、だんだん自分がわからなくなる…


(ティア! もうお前だけだ! さぁ!殺せ! 獣人もヒトも… そして、その子供も殺すのだ!)

頭の中でザスサールの声が響いていた。


「子供…」

向こうから何か叫びながら突進してくる、オオカミに乗った子供がいた。


「子供… 殺す…」

熊獣人の返り血を浴びたあたしは、オオカミに乗った子供を次の標的にした。


子供は戦闘中の獣人やヒトを撥ね飛ばしてこちらに向かってるくと、そのままあたしを撥ね飛ばそうとする。

あたしは軽く躱すとオオカミの足を斬る。

オオカミは足を失い勢いを殺せずに転倒し、子供を投げ飛ばした。

子供はうまく体勢を整えていたが、あたしの方が速い。子供の死角から思い切り蹴り飛ばしてやった。


(なぜ、いま蹴ったのだろう? 斬り殺せば終わっていたのに…)

あたしはなぜ自分が『蹴り』を選択したのか分からなかった。

だが、今はそれよりも子供を殺す。考えるのは後だ。


すると子供がまた叫び出した。

「ティアよ、ワシじゃ! ノブナガじゃ! 分からんのか?」


ノブナガと言う名… どこか懐かしい、心が癒されるような不思議な感覚になる。

(わからない… でも、ザスサールさまはこの子供を殺せとご命令した。それなら、あたしはこの子供を殺す。 ただそれだけ…)


「……」

あたしはただノブナガと名乗る子供を殺す事だけを考えるようにした。



「ティア。 今、目を覚まさせてやる…」

ノブナガは腰を落とし、刀を右斜め下に構えていた。

ティアは知らなかったが、それは威力よりも速度を重視した抜刀術の構えに近いものだった。

ティアを助ける為に戦うノブナガだったが、その戦いは激しさを増していく。


次回 ティアvsノブナガ


ぜひご覧ください。

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