【18話】参戦
「ノブナガさま、如何なさいますか?」
ミツヒデはノブナガと並走しながら問うた。この『如何なさいますか?』は『皆殺しするか?』の意であり、ノブナガが『ソレ』を望むなら獣人もヒトも半獣人も全て斬り殺すことに躊躇いは無かった。
それにティアが含まれていても… だ。
「なるべく殺すな。 まずはティアの奪還を試みる。お主らは邪魔者を退けよ」
ノブナガは、キッとティアを睨み抜刀した。
「ちょっと! ノブナガ! ティアさんを傷つけたら許さないわよ!」
抜刀するノブナガに驚いたアネッサが叫ぶと、
「多少のケガは許せ。 あやつは無傷で抑えられるほど弱くない。ワシもある程度は本気で向かわねばなるまい」
ノブナガは刀を振り、調子を確かめていた。
「…… わかった… わかったから、絶対ティアさんを助けるのよ!」
アネッサは少し逡巡したが、ノブナガに任せるしかない事は理解していた。
「アネッサ殿。大丈夫ですよ。ティア殿はノブナガさまの家臣であり、友でもあるのですから」
ミツヒデはニコっと笑う。その笑みにはどこかホッとしたような雰囲気が混じっていた。ミツヒデはノブナガが求めるならティアを殺す事に躊躇いはない。ないのだが、やはりミツヒデもティアは殺したくないのだ。
ノブナガの命により『邪魔者を退ける』事を考えたミツヒデが狙うは半獣人達だった。
獣人も騎士団も前日からの戦闘で疲弊し、半獣人達に翻弄されている。
ならば、半獣人達を抑え込めばノブナガの邪魔をする輩は居なくなるだろうと考えたのだ。
ミツヒデはカーテら半獣人を睨むと、オオカミゾンビごと突入した。
アネッサは突撃する事はせず少し手前でオオカミゾンビを停止させ、万が一、ティアが致命傷を受けるような事があれば、すぐに治療できるように準備していた。
その頃、ノブナガはティアに目掛けてオオカミゾンビの速度を上げ叫ぶ。
「ティア!! ワシじゃ! ノブナガじゃ! 戦いを止めるのじゃ!」
ティアは目の前にいる獣人の首を斬り、返り血を浴びながらノブナガを睨みつけていた。
自らの顔を返り血で汚し、両手に持った短剣から血が滴り落ちる。その姿はまるで血に飢えた悪鬼のようだった。
(チッ やはりダメか… 致し方あるまい。まずは一発殴るか)
ノブナガは馬のように大きなオオカミゾンビを走らせ、そのまま獣人達の戦いの中に突入する。
オオカミゾンビを避け損なった者達は弾き飛ばされ、辛うじてオオカミゾンビを避けた者達も地面に転がり戦闘どころではなくなっていく。
ノブナガは獣人達には目もくれず、そのままティアを撥ね飛ばそうと突撃する。
しかし、ティアがそんな単純な突撃に対応出来ないわけがなく、ヒラリと躱しオオカミゾンビの足を斬り飛ばしてしまった。
「なに!?」
足を一本無くしたオオカミゾンビはスピードを殺す事も出来ず体勢を崩して転倒し、ノブナガは落馬? いや、落狼し地面に投げ出されてしまうが、左手を着いて地面に転がる事だけは避けることができた。
ノブナガはすぐに体勢を整えティアを見る。が、ティアは見当たらない。
「むっ あやつ何処に…」
その瞬間、ノブナガの脇腹に衝撃が走った。ティアはノブナガの少し斜め後ろから脇腹に蹴りを入れていたのだ。完全に死角からの攻撃にノブナガは防御する事も叶わず、蹴り飛ばされてしまった。
「ちっ」
蹴り飛ばされながらも、今度はティアを視界から外す事なく体勢を整えて起き上がるノブナガ。
「……」
ティアはただ黙ってノブナガを睨んでいた。
「ティアよ、ワシじゃ! ノブナガじゃ! 分からんのか?」
「……」
「ティア。 今、目を覚まさせてやる…」
ノブナガは腰を落とし、刀を右斜め下に構える。それは威力よりも速度を重視した抜刀術の構えに近かった。
――――――――――
その頃、ミツヒデは半獣人達を相手に大立ち回りを繰り広げていた。
(こやつら、確かあの泉の周りにいた…)
以前、ノブナガ達がカーテを追い集落の様子を伺っていた時、泉の周りでおしゃべりし笑っていた女や、その周りではしゃいでいた子供らも戦士としてここに居たのだ。
(こんな者まで戦わねばならぬのか? それとも戦わされているのか?)
ミツヒデは少しだけ逡巡するが
(どちらでも関係ない。戦場に来た以上、男も女も、子供も関係ない。気を抜けば死ぬ… ただそれだけ…)
ミツヒデは目の前にいる女や子供も、敵として油断なく睨む。
半獣人達は突然現れた異質な男を警戒し、少し距離を空けると様子を伺うようにミツヒデを取り囲んでいた。
戦国の世の武将は1対1で戦う事はほとんどなかった。大勢の足軽などを相手に1対多で戦うのが常だったのだ。そんな戦国の武将達は各々が得意な剣術を身につけている。
戦国武将の1人であるミツヒデも例外ではなく、『雷の剣』を得意としていた。ミツヒデはその稲妻のようなスピードで多くの敵を討ち滅ぼしてきたのだ。
ミツヒデはオオカミゾンビから降りる。
本来、戦で使用する馬には鞍や鎧が装着されており、刀を片手に馬を操りながら戦う事ができる。しかし、オオカミゾンビにはそのようなモノ装着されておらず、剥き出しになった骨や腐らずに残った毛などを掴み、両腿でオオカミゾンビを挟み込んで操っているのだ。
乗り慣れないオオカミゾンビの上で戦うより、ミツヒデは自分の足で、自分の剣術で戦う方が本来の力を発揮できる。
そう判断して、ミツヒデはオオカミゾンビから降りたのだった。
「お主ら、ノブナガさまの命により命だけは助けてやろう。 だが、我らに刀を向けた事、死ぬほど後悔させてやる」
ミツヒデは刀に手を掛けると、腰を低く落とし半獣人達を睨みつけていた。
ノブナガの戦いを邪魔させないように、ひとり半獣人達に立ち向かうミツヒデ。
次回 元凶
ぜひご覧ください。
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