【17話】乱戦
狂戦士となったノグロイ達は、その変貌ぶりと攻撃に特化したことで騎士団を押していた。
「ははは! 騎士団も大した事ねぇな!」
獣人達は防御を捨て攻撃に特化する事で、個々の攻撃力が大幅に上昇していたのだ。だが、それは諸刃の剣であるのだが、力が増した獣人達は気がついていなかった。
獣人達の勢いは更に増すばかりだった。
騎士は馬から引きずり落とされ、なぶり殺しにされる。
戦士達も異常な力で振り回す武器に弾かれ、体勢を崩したところを複数の獣人に押さえつけられ滅多刺しされていた。
それを町から見ていたノブナガにアネッサが声をかけていた。
「ねぇ、ノブナガ。 あなたは戦わないの?」
ノブナガは以前、メルギドの町を守るために戦っていた。しかし、今回のノブナガは見ているだけで、チトナプの町を守るために戦う素振りを見せないのだ。アネッサはなぜ戦わないのか? ヒトを、町を守る事はしないのか?と考えていた。
とは、言いながらアネッサも戦うつもりはないのだ。アネッサはティアさえ無事なら、あとの獣人や町のヒトがどうなろうと興味も無いのだから。
「なぜ、ワシが戦わなければならんのだ? これはワシのケンカじゃない。獣人解放軍と騎士団、チトナプの町のヒトのケンカじゃ。 ワシには関係ない」
ノブナガは、ふんっと鼻から息を吐いてこの戦いを見続ける。
「え? メルギドの時は率先して戦ってたじゃない」
アネッサが不思議そうにノブナガを見ていると
「アレはティア達、月女族に恩義があったから助太刀しただけじゃ。 ティアがメルギドを助けると言わなければ、ワシは戦うつもりも、メルギドのヒトを助けるつもりも無かった」
「左様でございますね。 我々もメルギドの町のヒトには良い印象ありませんでしたし… 助ける義理もありませんでしたから」
ミツヒデも、うんうんと頷いてノブナガの言葉に同意していた。
「そ… そうだったんだ。てっきり町のヒトたちの為かと思ってたわ」
アネッサはノブナガを『ヒトを守る英雄』と思っていた。しかし、真実を知りノブナガはヒトではなく『義理を守る英雄』なんだと考えを改めていた。
だが、アネッサのその考えも若干間違っているのだが…
今は、それを正す必要はないだろう。
獣人達は破竹の勢いで騎士団を攻めていた。
しかし、時間が経つにつれて騎士団の統制の取れた戦術と、訓練された動きにより獣人解放軍は劣勢となっていた。
まず獣人解放軍の魔法使いが、自軍の補助をせずに攻撃に転じてしまったのが失敗だった。
魔法の補助が無く、しかも防御を捨てた獣人達は騎士や戦士たちの攻撃が当たれば致命傷に近い傷を負っていたのだ。
腕を飛ばされ、足を斬られた獣人達は武器を振る事も出なくなり、その場に崩れ落ちていく。
魔法使い達も魔法を乱発した事で、魔力が無くなったのだ。魔法を使えない魔法使い… それはただの人なのだ。ただの人が戦士たちに勝てるわけもなくあっさりと殺されてしまった。
次々と仲間が倒れていく状況にノグロイも焦りを感じていた。
やがて騎士団の倍くらい居た獣人解放軍の人数は騎士団の半分程となり、強化魔法で補助するはずたった魔法使いも全滅してしまった。
(クソっ こんなはずじゃ…)
ノグロイの目から狂気の色は消え、焦りの色に変わっていた。同じように獣人解放軍の生き残り達の目も、焦りの色に変化している。
(このままじゃ、オレたちは全滅だ…)
ノグロイの思考はネガティブな感情に支配され始めていた。
対するヤールガ率いる騎士団の士気は上がる一方で、全員が勝利を確信していた。
騎士団の勢いに押され、獣人解放軍はジリジリと後退していく。
その時、獣人解放軍の後方の丘の上から20人ほどだが半獣人達が雄叫びをあげながら突進してきた。
「あ… あいつら…」
ノグロイはキシュリが半獣人達を連れて応援に来た… と、思っていた。
「ザスサール! 遅ぇぞ!」
ノグロイは丘の上にいるザスサールに悪態をつくと
「野郎ども! 気合を入れろ! 半端者共に遅れをとるんじゃねえぞ!」
ノグロイは心が折れかけていた獣人解放軍に檄を飛ばし、騎士団を正面に見る。
勝利を確信していた騎士団達は、思わぬ援軍に驚き迎え撃つ体勢を整えようとしていた。
満面の笑みを浮かべたノグロイは、キシュリを見ようと振り返る。すると、目の前にはカーテが振り抜こうしている両手剣の刃があった。カーテの向こうでは、キシュリがザスサールの腕を恋人のように抱きしめていた。
「……え?」
ノグロイの最後の言葉は、それだけだった。
驚いたような顔のノグロイの首は、一瞬で斬り飛ばされ地面に転がっていたのだ。
「……っ!」
獣人解放軍だけでなく、ヤーガルたち騎士団も何が起きたか理解が出来ず硬直してしまった。
そこに次々と半獣人達が雪崩込み、獣人もヒトも見境なく切り殺されていく。
戦場から少し離れた場所でザスサールとキシュリは立ち止まり、ティアや半獣人達によって次々と殺されていく獣人やヒトを満足そうに眺めていた。
その頃、町から見ていたノブナガたちも、思わぬ展開に驚いていた。
「アレはティア達か… ザスサールとやらは、とんだクワセモノじゃな」
ノブナガは、ギリっと奥歯を噛んで戦況を見ていた。
「左様でございますな… よく言えば策士ですが、あまり誉められた策ではありませんな」
ミツヒデも、ザスサールの戦い方が気に入らないようだった。
「ノブナガ、どうするの?」
アネッサはやっと目の前に現れたティアを助けたい。でも、ティアを操っている魔法を解くにはティアに物理的なダメージを与えるか、おそらくティアを操っているであろうアイテム、ティアの首にかかっている紫色の結晶を奪う必要があるのだ。
だが、今の状況ではティアを殺さないようにダメージを与える事も、首にかかっている紫色の結晶を奪う事も難しいとアネッサは考えていた。
「ミツヒデ、アネッサ! ワシらも出るぞ!」
ノブナガ達は、アネッサが召喚したオオカミゾンビに跨り走りだした。
獣人解放軍と辺境防衛騎士団の戦いにザスサール率いる半獣人達が突撃し乱戦状態となった。
目の前に現れたティアを取り戻すため、戦いに出ることを決意したノブナガ。
次回 参戦
ぜひご覧ください。
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