【13話】チトナプ殲滅作戦
キシュリの見た目を追加しました。
ティアがノブナガの捕縛に失敗し、ザスサールに蹴り飛ばされていた頃、ノグロイは自室にある大きなベットで寝ていた。
ノグロイの身体は虎の獣人の中でもかなり大きく、その逞しい胸には狐の獣人の女が抱きつくようにして眠っている。
ここは半獣人の集落がある森の中でも、チトナプの町に近い獣人の隠れ里。
この里にはさまざまな獣人達が暮らしているが、その殆どが獣人解放軍の兵士だった。ここに住む兵士たちは元々違う村で隠れるように生きていた者や、住む場所をヒトに奪われ彷徨っていた者達だ。それをノグロイが集め、獣人解放軍として育てたのだ。
里には半獣人の集落にあるログハウスのような建物の他に、町で見かけるような家や大きな倉庫などがあった。
里の一番奥には一際大きな家がある。そこが獣人解放軍のリーダー ノグロイの家だ。
ノグロイの胸には頭から狐の耳が生え、太くふわふわの黄色みがかった尻尾があり、尻尾の先は白い女が寝ていた。女は少しつり上がった目をしており、妖艶な雰囲気を纏っていた。この女に流し目で見られると殆どの男は虜になってしまうだろう。女は眠い目を擦りながら起き上がった。
女の胸では紫水晶のカケラがキラキラと光を反射している。女はその黄色みがかった長い髪を雑にかきあげると、そっとカケラを握り目を閉じた。
「はい… はい… 承知しました」
少し寝ぼけたような声で、誰かと話しをすると紫水晶のカケラから手を離し、ノグロイの胸に覆い被さるように抱きつき、耳元で囁くように声をかける。
「ノグロイさま… 起きてくださいな」
「んん… んー…」
ノグロイはぼんやりと目を開けると
「キシュリ… まだ足りないのか?」
ニヤニヤしながら狐獣人の女キシュリの頭を撫でていた。
「もう、まだ足りないのはノグロイさまでしょ?」
クスクスと笑いながらキシュリはノグロイの胸に顔を埋める。
「はははは よしよし」
ノグロイがキシュリを抱き寄せると
「ぅん。 それもいいけど… ザスサールから連絡があったわ。何か失敗したらしくて、すぐに作戦を実行したいって…」
「ザスサール… あぁ、あの半端者か。半端者は何をしても半端だな。まぁ、いい。兵達も早く戦いたいと滾っていた頃だしな。 オレも滾った体を持て余していたところだ」
ノグロイはベットから立ち上がる。その全身には無数のキズがあり、激しい歴戦を物語っていた。
キシュリはシーツで体を隠すと、
「ウチは、滾ったノグロイさまのままでもいいんだけどなぁ」
と、体をクネらせていた。
「くくく、キシュリの相手はあのヒト共をぶっ殺してから、いくらでもしてやる。 キシュリ! 兵を集めろ! 我ら獣人解放軍の初陣だ! 派手にやってやるぞ!」
「はい!」
――――――――――
ノグロイは鉄の胸当てとバトルアックスを装備し、自宅のベランダに立っていた。
眼下には装備を整えた獣人解放軍の兵士達が集まっている。
その数はおよそ500。
虎の獣人のほか、犬、ネコ、クマなどなどさまざまな獣人達が、今か今かとノグロイの言葉を待っていた。兵達の士気は最高潮に達し、熱気が立ち上っていた。
「お前ら!! 遂にこの日が来た!過去、何百年に渡りヒト種族は我ら獣人を虐げてきた。 我らは歯を食いしばり、泥水を啜り、その日食うものを必死に探して生きてきた。
だが!! それは終わりだ! 我ら獣人解放軍によってこの国の獣人達はヒト種族から解放されるのだ!
そして!我らを虐げてきたヒト種族は、我らと同じ苦しみを味わう事になるだろう!!
今日はその記念すべき日の始まりとなるのだ!
さぁ!獣人解放軍よ、我らの魂の叫びでヒト種族共を震撼させるのだ!」
ノグロイがバトルアックスを掲げ雄叫びをあげると、集まった獣人解放軍の兵達も呼応するように雄叫びをあげる。
その雄叫びは森中に響き、鳥たちが森から逃げ出す程だった。
ノグロイを先頭に獣人解放軍は進軍を始める。目的地はチトナプの町だ。
ノグロイはまずチトナプの町を攻め落とし、アクロチェア王国へ獣人解放軍として宣戦布告を行う。
アクロチェア王国が慌てふためいている隙に首都へ進軍し、途中の町や森にいる獣人を取り込んで獣人解放軍の数を増やし、首都に着く頃には大規模な軍隊とする計画だった。
このチトナプ殲滅作戦の結果が、途中で引き込む獣人達の数や士気に大きな影響があるのだ。
よって、その足掛かりともなるチトナプ殲滅作戦は派手に、そして速やかに行う必要がある。
ノグロイの気合いは最高潮に達していた。
自然と進軍のスピードは上がり、昼前に出発した解放軍は夕方前にチトナプの町を見下ろせる丘の上に到着していた。
「ノグロイさま、このまま攻め込みますか?」
ノグロイの隣にいるクマの獣人が声をかけてきた。
「我らは盗賊団ではない。 まずはチトナプのヒト共に宣戦布告を行う。そうすれば町で奴隷として使われている獣人達も暴れ出すだろう。 そうなれば、いくらかのヒト種族は町を捨て逃げ出すはずだ」
「町を捨て… ? ヒトを全て殺さなくても良いのですか?」
「あぁ、構わん。むしろ、いくらか逃げ出した方が良いのだ。 逃げ出したヒトは近くの町へ逃げ込む。そこで我ら獣人解放軍の脅威を吹聴する。
ヒトは話し好きだからな。勝手にオレ達の存在を広めてくれるのさ。しかも、誇張して…な」
ノグロイはニヤニヤしながらチトナプの町を見ていた。
「さすが、ノグロイさま! そこまでお考えとは!!」
クマの獣人も、クククと笑いがらチトナプの町を見ている。
ノグロイは振り返り獣人達を見渡し叫ぶ。
「お前ら! オレ達の力、ヒト共に見せてやるぞ! 進軍開始だ!!」
「「おおぉ!!!」」
獣人解放軍はチトナプの町へと進軍を開始し、チトナプの町の入口付近で隊列を止める。
チトナプでは獣人達に気が付いたヒト達が、右に左にと走り回りパニックを起こしていた。
「くくく、慌ててやがる」
ノグロイは、そんなヒト種族を見て笑いが止まらない。それもそうだ。これまで偉そうにしていたヒト種族が、自分たちを見て恐れ慄き、悲壮な顔で逃げだそうとしているのだから。
「おい、派手にやってやれ」
ノグロイの言葉に、クマの獣人が頷き叫ぶ。
「撃てっ!!」
クマの獣人の号令で、隊列の後ろに並んでいるサルの獣人達が一斉に呪文を唱えると、スイカ程の大きさの岩が射出された。
たくさんの岩は放物線を描くように、チトナプの町の入口付近に落下し『ドーーーン!』という轟音と共に土煙りをあげた。
ノグロイは一歩前に出て叫んだ。
「ヒト共、よく聞け!! オレは獣人解放軍リーダー ノグロイだ!!
これより1時間後、攻撃を開始する! 今すぐ戦って死ぬか、我らの隷属となるか決めるのだ!隷属となる者は地面に伏して震えているがいい!」
ノグロイは高笑いしながら踵を返すと、獣人解放軍の先頭に戻る。
チトナプの町は更に混乱に陥っていた。
派手に宣戦布告をした獣人解放軍。それを待ち受けていたのは…
次回 タレコミ
ぜひご覧ください。
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