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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【2章】幻の獣王国
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【12話】ザスサールの作戦

ティアはカーテの案内でチトナプへ向かって走っていた。ただ、その姿はティアは自分の足で走り、カーテは馬を走らせる事でやっと並走できていたのだ。

側から見れば、主人であるカーテに追走する従者の図だが、実はティアの方が上位であるという、ややこしい状態だった。

まぁ、2人にとってそれで何か問題があるのか?と言うと、何もないのだが…



「カーテ、作戦とはいったいどんな作戦なんだ?」

ティアは並走するカーテに声をかけた。


「そうですね。ティアさまは仲間になったばかりでしたから、説明する時間がありませんでしたね… 不承ながら、オレからご説明させて頂きます」

カーテは馬を走らせながら、器用にも舌を噛まずに作戦について説明を始めた。


「作戦とは、獣人の王ノグロイさま率いる『獣人解放軍』によるヒト種族への一斉攻撃なのです。オレ達、半獣人は商人を装いヒトの町を出入りし、武器や情報を集めていたのです」


『獣人とヒトの架け橋になる商人になりたい』と言っていたカーテは武器商人(死の商人)となっていたのだ。ティアの心の奥で何かがチクっと動いたが、すぐにかき消えてしまった。



「本来なら作戦決行は1ヶ月後でした。しかし、オレ達の隠れ家がヒトにバレてしまっては、どこで作戦が漏れるか分かりません。 幸いにも武器は揃い、ノグロイさま率いる獣人解放軍も準備は終わっていましたので、ザスサールさまは作戦の実行をご決断されたのです」

カーテは首から下げている紫色の結晶を握りしめていた。


「しかし、カーテ。そのノグロイさまへはどうやって連絡したのだ? あそこには半獣人しかいなかっただろう?」

森の中の集落には半獣人しか見当たらず、獣人と連絡を取り合っている様子も無かった。


「はい、ノグロイさまの側近にキシュリという狐獣人の女がいます。キシュリは獣人ですが我らの仲間で、仲間の証であるこの『紫水晶のカケラ』を持っているのです。このカケラを使えば、紫水晶本体を持つザスサールさまと()()遠くにいても会話ができるのです」


「なるほど、ザスサールさまはキシュリを通じてノグロイさまに連絡を取っていたのか…」

ティアはまた何かが心に引っかかるが、ソレが何か分からずにいた。


「それで、あたし達は獣人の戦況を伝えろとの事だが… あたし達は戦わないのか?」

ザスサールの命令は『戦況を知らせろ』だけなのだ。

ティアには戦う力がある。ヒトを殲滅する自信だってある。ザスサールがソレを望むなら先陣を切って戦うのだが、どうやらザスサールはソレを望んでいないようだった。


「ティアさま。実はこの作戦には、本当の目的があるのです。 ティアさまはオレ達、半獣人がどのように生きてきたのかご存知ですか?」

カーテは鋭い目つきで、街道の先にあるであろうチトナプの町を睨んでいた。

ティアは黙ったままカーテの言葉を待っていた。


「この前、少しお話ししたようにオレは、ある町の商人の家で生まれました。ヒトである父と、魔牛の獣人である母はとても仲が良く、生まれたオレを大切に育ててくれました。 町の有力者でもあった父のもと、オレは商人として勉強していました。町のヒト達も協力的でオレにいろいろと商売を教えてくれていました。 ですがある日、その父が事故で亡くなったのです。すると、これまで優しかった使用人達や町のヒト達は態度が一変しました。 魔牛の獣人である母はその美貌から娼婦として売られ、オレは奴隷として売られたのです」

カーテが握る手綱に力が入り、馬が少し戸惑うと「すまんすまん」と言いながら首の辺りを軽く叩き落ち着かせる。


「………」

ティアは言葉が出なかった。ティア達、月女族もヒトに虐げられ、意味もなく殺されてきたのだ。カーテの怒りはよくわかる。判るのだが… なぜか寂しさに似た気持ちが込み上げてくる。


(なんだろう? あたしもヒトが憎いはずなのに… そうじゃない、カーテにも分かって欲しい…って気持ちもある? でも、何を分かって欲しいのか… それが分からない…)


カーテは話しを続けた。

「奴隷として働き続けて何年か過ぎた頃、オレは大怪我をしてしまいました。オレを飼っていたヒトは、使い物にならなくなったオレを持て余したのです。 自分の手でオレを殺す事には躊躇いがあり、かといってこのままオレを飼っても何の役にも立たない。 数日後、オレは森に捨てられた。魔獣にでも食われてしまえ…と言わんばかりにな」

カーテはだんだんと言葉が荒くなり、ティアに対する言葉使いに気がいかなくなっているようだった。


「オレは動かない体を無理矢理動かして、森の中を移動した。 なんとか魔獣から身を隠せる場所がないか探していたんだ。その時、あの集落に住む女に助けられた。後で知ったのだが、その女はザスサールさまの恋人のカニアさまだった。命拾いしたオレはザスサールさまの仲間にしてもらい、集落に住む者たちに商売を教えた。 幸いにも半獣人は見た目がヒトに近いから、オレみたいにこの小さなツノを隠せばバレずにヒトの町で商売が出来たんだ。 そうやって数年程、穏やかに過ごすことができた。 出来ていたんだ…」


カーテは唇を噛み、悲しい目をして少し俯いていた。


「ある時、カニアさまは森で木の実を探していたんだ。 いつもは数人で行くのだが、その日は集落の女に子供が生まれそうでバタバタしていたんだ。お祝いをしたいカニアさまは、森の奥には行かないと約束してひとりで森に入って行った。 そこで獣人に見つかり、乱暴され殺された…」


「獣人に? ヒトではなく?」

ティアは驚いた。なぜ獣人が、半獣人とはいえ同じ境遇の者を襲い、殺すのか?と。


「あぁ、カニアさまを心配して森に入った女が見たんだ。カニアさまが虎の獣人に犯されているところをな… 女は獣人に見つからないようにその場を離れ、ザスサールさまに助けを求めた。オレたちは急いでカニアさまの下に走ったが、その虎の獣人は立ち去った後で、すでにカニアさまはお亡くなりになっていたんだ… 辺りには虎の獣人の体毛が散らばっており、女が見た事は間違いないと証明されたんだ」


カーテはしばらくの沈黙の後、続けた。


「その虎の獣人が… ノグロイだ。オレたちの本当の目的は、ノグロイ達、獣人をヒトにぶつけて戦力を削り、ヒトも獣人も殲滅した後、オレたち半獣人の国を作る事なのだ」

カーテは強く拳を握り締めていた。


「だから、オレ達は『戦況を伝えるだけ』でいいんだ。 オレ達が戦うのは、その後なんだから」

カーテの目は復讐の色に染まっていた。

虎の獣人ノグロイは獣人解放軍と共に進軍を開始した。目的地はチトナプの町。

ノグロイは兵達と共に雄叫びをあげていた。ザスサールの企みも知らずに…


次回 チトナプ殲滅作戦


ぜひご覧ください。

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