【10話】タネ
肉とビールで腹を満たしたノブナガ達は、ティアについて話していた。
「ティア殿のあの変わりよう… やはり魔法をかけられているのでしょうか?」
ミツヒデはビールを飲みながら話していた。
「うむ、この世界では魔法なる摩訶不思議な力があるからのぅ。 アネッサよ、そんな魔法はあるのか?」
ノブナガはビールのおかわりを注文しながら、アネッサの意見を聞く。
そんな2人をアネッサはイライラしながら見ていた。
「あんた達ねぇ、ティアさんが大変な時に、なんでそんな普通にビール飲んでるのよ」
「む? アネッサも飲むか?」
ノブナガがビールをアネッサに向けると
「要らないわよ! そんな事よりティアさんを助ける方法を考えなさいよ!」
アネッサはバンっとテーブルを叩いて立ち上がり、大声で文句を言う。一瞬、店の中はシンっと静まり返り、アネッサは店の中いる客達の注目を浴びていた。
「まぁ、座れ。 冗談じゃ。ティアを助けるにも情報が無さ過ぎる。 お主はこの世界で何百年も生きておるのじゃろ? お主の知恵を借りたい。何か知らんか?」
ノブナガは真剣な表情でアネッサを見つめていた。
アネッサは静かにイスに座りなおし紅茶を一口飲んでから、ふぅと息を吐き出して落ち着きを取り戻していた。
「ティアさんのあの変わりよう。 ティアさんは魔法をかけられたと考えて、ほぼ間違いないわ」
アネッサは肘をつくと、両手の指を組み合わせて話し出した。
「ふむ、やはりそうか… それはどのような魔法じゃ? 魔法は解くことが出来るのか?」
「あなた達、人の心を支配する魔法がいくつかあるのは知ってる?」
アネッサの問いに、ノブナガもミツヒデも首を横に振るだけだった。
「まず、一般的なのはチャームね。これは比較的低レベルな魔法だから、少し魔法が使えるようになれば習得する事ができる反面、簡単にレジストできるわ。それに、少し物理的なダメージを与えればチャームは解かれしまう。
今回、足止めに放ったゾンビ達はティアさんに攻撃はしない。だから、もしチャームにかかっていたとしたら、今もチャームにかかったままの可能性が高いわね。
次に考えられるのは、可能性は低いけどあそこにマリオネットマスターがいるって事ね。
わたしはネクロマンサーだから死体を操ることができるでしょ? マリオネットマスターは死体じゃなくて、生きた人間を操る事ができるのよ。
まぁ、ネクロマンサーもマリオネットマスターもかなり高度な魔術師だから、普通は王宮や高度な魔術学院くらいにしかいないでしょうね。
あの集落にいた半獣人達の中にはそんな魔力を持ったヤツも居なさそうだったし、あのリーダー格のザスサール…だっけ? アイツは明らかに脳筋タイプだから、初歩の魔法も使えないはずよ。
となると、あとはアイテムだけど…」
アネッサが自分の考察を話している途中でノブナガとミツヒデを見ると、2人とも唖然としてアネッサを見ているだけだった。
「聞いてる?」
アネッサは少しイラっとしながら、ノブナガ達に声をかけると
「アネッサ… お主が言っている事が、さっぱり分からんのじゃ…」
ノブナガもミツヒデも、全く理解が出来ていなかった。
「はぁ…」
アネッサは頭を抱えてため息を吐いていた。
「い… 致し方あるまい! ワシらは魔法もこの国の事も知らんのじゃ」
「そうだったわね… ホント、なんにも知らないんだから。 って言うか、なんで知らないのよ? …って、いいわ。そんな事聞いても仕方ないし、知らない事を知ってるフリされるよりマシだし…」
アネッサはフルフルと頭を振ると、ノブナガ達に何も知らない子供に教えるように噛み砕いて説明した。
「…なるほど。なんとなくわかった。つまり、ティアは魔法で操られておるのじゃな?」
ノブナガは少しドヤ顔になっていると
「ノブナガさま、話しが最初に戻ってしまってます… 今は、どんな魔法で操られているのか?と言う話しでございます」
「わ… 分かっておるわ! ワシも今そう言おうとしていたところじゃ!」
ノブナガは顔を赤くして、大声でミツヒデに反論していた。
「はぁ、もういいから。 で、どうするの?」
アネッサは諦め顔でノブナガ達を見ていた。
「ふむ。 そのチャームとやらじゃったら、一発殴れば済む事なんじゃろ? それなら簡単じゃが、そのマリ… マ…」
「マリオネットマスター」
アネッサが冷たく補足する。
「そのマリオネットマスターじゃったら、どうすればよい? あとはアイテムじゃったか?」
「そうね。マリオネットマスターの線は低いと思うわ。さっきも言ったけど、マリオネットマスターはそれだけで強力な戦力にもなるわ。だから、ほとんどは王国が抱えているばすよ。 それにあの集落にそれほどの魔力を持っているヤツは居なかった。
だから、たぶんアイテムを使っている可能性が高いわね」
「なるほど。そのアイテムはどんな物か分かるか?」
ノブナガの問いにアネッサは「うーん…」と考えて、ハッとした顔でノブナガ達を見た。
「そういえば、ティアさんネックレスしてなかった?紫色の結晶が付いたネックレス」
アネッサの言葉でノブナガとミツヒデは、あの時の状況を思い出していた。
「そういえば、付けてましたな! ティア殿の胸の辺りでキラキラしておりました」
ミツヒデはティアのネックレスを思い出し、ポンっと手を叩く。
「うむ、確かに何か首から下げておったわ。 ん?そういえば、カーテや他の者たちも首から同じモノを下げていなかったか?」
「そういえば、確かに…」
アネッサはゾンビ達を放つ時、ゾンビ達の標的として集落の人間達を確認していたのだ。
その時は気にしていなかったが、あの集落の住人達は男も女も子供達までも紫色の結晶が付いたネックレスをしていたのだ。
「そういえば、カーテ殿も同じ首飾りを着けておりましたぞ。 確か誰かと話すときに結晶を握っておりました」
「なるほど、タネは分かったな。では、その首飾りを外せばティアは元に戻るのじゃな?」
ノブナガはニヤリとアネッサを見る。
「そうね、ネックレスさえ外す事が出来ればティアさんは元に戻ると思うわ。 でも、どうやるの?」
「簡単じゃ。 アイツらを叩き伏せればよいのじゃ。動けなくして首飾りを取ればよい。生きてさえおればケガはアネッサが治癒できるのじゃろ?」
ノブナガは、ふふふと怖い顔で笑っていた。
「あ… あんた… 何か怖い事言ってるわね…」
アネッサがノブナガの考えに引いていると
『ドーーーーーン!!』
突然、店の外から大きな音が響いてきた。
「な! なんじゃ!?」
慌てて店を飛び出したノブナが達の目に飛び込んできたのは、町の入口付近で立ち登る土煙だった。
ティアはザスサールの役に立つためだけに戦う。そんなティアに語りかけてくる女がいた。
次回 ティアとティア
ぜひご覧ください。
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