【9話】腹が減っては…
「さぁ、話しを始めるとするか」
ノブナガは出された水を少し含むと、喉を潤していた。
「ノブナガさま、ティア殿の様子は明らかに異常でした。 まるでわたし達を忘れてしまったかのような… そんな雰囲気でございましたな」
ミツヒデは先程のティアを思い出し、自分が感じた事を口に出していた。
「ティアさん… どうしたのかしら。いくらなんでもあの変わりようはおかしいわ」
アネッサはティアが心配でたまらないようで、ソワソワと自分の体を触っていた。
「ところで、アネッサよ。 お主が呼び出したあのゾンビや骸骨共はなんじゃ? この前の黒大蜘蛛の時は数体しか出てこなかったではないか」
ノブナガの指示でティア達の足止めとして呼び出されたゾンビやスケルトン、グールなどは百体以上だった。黒大蜘蛛の時もそれくらい呼び出していれば、ノブナガ達はあんなに苦戦しなかったのでないのか? と、ノブナガは不満に感じていたのだ。
「アレは場所が良かったのよ。 森の中で死んだ動物やゴブリン、オークやヒトなどたくさんの素材があったからね。 黒大蜘蛛の時は街道で素材が無かったから、数体のゾンビが限界だったのよ。それでも数体のゾンビを出した事に感謝しなさい」
ノブナガ達は分からなかったが、素材が無い状態でゾンビを呼び出すには、かなりの魔力が必要なのだ。もともとリッチとはアンデットの最高位に位置するモンスターである。アネッサは月女族への執着心が高く、月女族に関わらない事にはあまり興味を示さない事と、アネッサの元来の性格が影響して気が付きにくいが、リッチとしてのアネッサを敵にする事ほど恐ろしいことは無いだろう。
「素材… ということは、もし墓場だったらもっと呼び出せる… と、いうことでしょうか?」
「ミツヒデはよく頭が回るわね。 その通りよ。森の中だったから動物や鳥など弱いゾンビが多かったけど、もし歴戦の戦士が眠っているような墓場だったら、とても強いゾンビを呼び出す事も出来るわ」
アネッサはフンっと鼻から息を吐き、胸を張っていた。
「そうじゃったか… ん? アネッサ。 あれ程の数のゾンビ達に襲われたティア達は大丈夫なのか?」
アネッサがティアに危害を加えるとは思えないが、普通、あれだけの数のゾンビ達に襲われると、ただでは済まないだろう。
「もちろん、大丈夫よ。ゾンビ達はティアさんに危害を加えないように命令しているわ。 まぁ、ティアさん以外は多少殴られたり、噛まれたりしてるだろうけど… 死ぬことは無いと思うわよ。 ………たぶん」
「たぶん…って…」
ミツヒデが苦笑いしていると
「はい! お待ちどうさま!!」
恰幅のいいオカミが料理と酒を運んできた。
テーブルの上にドンっと肉料理が並べられた。その料理は食べやすいようにカットされた肉を焼き、塩胡椒で味付けされたものだった。続いて店員であろう若い女が酒を運んできた。この国では酒を飲む年齢制限はないようで、見た目が12歳くらいのノブナガ達の前にも普通に酒を並べている。
「はい、お母さんはお茶ですね」
オカミはアネッサの前に香り高い紅茶を、ソッと置いた。
「お… お母さん? わたしはコイツらの母親じゃありません! ただの旅の仲間です」
「え? 違うのかい? まぁ、あまり似てない親子だなとは思ってたけど… 旅の仲間だったのかい。こりゃ失礼したねぇ」
オカミは、あははははと笑いながらアネッサの背中をバンバンと叩いていた。
「わたしの愛する息子はリヌだけ。 娘はたくさんいるけど…」
ぶちぶちと文句を言いながらアネッサはお茶を口に運ぶ。
「あ、美味しい…」
「そうだろ? この店自慢のこだわりのお茶さ!」
オカミは嬉しそうにニコニコしながら、店の奥に帰っていった。
「おお、コレがこの国の酒か…」
ノブナガは目の前に置かれた酒を珍しそうに見ていた。
その酒は琥珀色した液体で、その液体の上にきめの細かい泡がたっぶりと浮いている。そう、ビールだ。
ノブナガはビールをひと口飲む…
「うまい!! なんじゃこの酒は! ワシはこんなうまい酒を飲んだのは初めてじゃ!」
「そ… そんなにでございますか? では、わたしも…」
ミツヒデも、そうっとビールに口をつける。
「おお! なんと美味い酒だ! この喉を通る爽快感! これはいくらでも飲めますな!」
ミツヒデも興奮し、ゴクゴクと喉を鳴らしながらビールを飲んでいた。
「とにかく腹が減ってはなんとやらじゃ。 先にメシを食おう!」
ノブナガはカットされた肉に齧り付き、ビールで流し込む。
「くはぁ! この酒と肉は最高じゃな!」
ノブナガとミツヒデは無我夢中で肉を喰らい、ビールを飲む。ふと、ノブナガはアネッサが何も食べない事に気がついた。
「お主は食わんのか?」
「わたしはリッチよ。 本当ならこのお茶も要らないくらいだけど、まぁ、お茶を飲むのはわたしの趣味よ」
アネッサはお茶の香りを楽しみながら、ノブナガ達とは別次元のゆっくりとした時間を過ごしていた。
「そうか。 お主にも茶の良さがわかるのじゃな」
ノブナガは、まだ『織田信長』だった頃に嗜んだお茶を思い出していた。
「あの茶も、うまかったのぉ」
そう言いながらも、肉を喰らう手が止まることはなかった。
ティアのあまりの変貌に困惑していたノブナガ達。
アネッサの知恵と経験を基に推理していく。
次回 タネ
ぜひご覧ください。
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