【5話】アクロチェア王国の闇
「いやぁ すまんすまん。勘違い、勘違い。まさか、お前らがウワサの英雄だったとはなぁ」
カーテは、ばはははははと膝をを叩きながら笑っていた。
焚き火を挟んでアネッサは不機嫌そうにカーテを見ていた。
「まぁ、そう怒るなって。 誰にでも勘違いはあるもんだ」
カーテは全く反省してないようで、アネッサに笑いかけていた。
「あんた、もし… もしよ? わたし達が本当に人身売買してたらどうするつもりだったのよ?」
「人身売買してるようなヤツらだったら? そりゃあ、たんまり金持ってるだろ? なんとか上手く金を騙し取れないかな?って考えてたさ。 その後、当然ティアさんは逃すつもりだったぜ」
カーテはアッケラカンと答えていた。
「それに、相手は女子供だ。最悪、ワシらを殺せばいいしな」
ノブナガが付け加えると
「いやぁ、さすがに殺すまでは考えてなかったさ。ちょっとブッ飛ばして痛い目に合わそうかとは考えたけどな」
「あ… あんた。 勘違いでブッ飛ばされる身にもなりなさいよ!」
アネッサは呆れたように反論していた。
「まぁまぁ、アネッサ殿。 結果的にカーテ殿の誤解も解けたし、ブッ飛ばされてもいないじゃないですか」
ミツヒデはニコニコしながらアネッサに話しかけると
「ミツヒデ… あんたちょっと寛大過ぎじゃない?」
「左様ですか?」
ミツヒデはキョトンとアネッサを見つめ返す。
「はぁ… コイツらと旅に出たの失敗かも…」
アネッサは頭を抱えてため息を吐いていた。
「ところでカーテよ。 お主はどうしてそこまで人身売買を嫌うのじゃ? 何かあったのか?」
ノブナガはソテの実のパンを頬張りながら、カーテに質問していた。
「商売とは相手が欲しがっている商品を、より高く売ることである。ヒトや獣人は商品ではなく、商売相手でなければならない」
カーテは真剣な顔で、焚き火を見ながらつぶやくように話した。
「ん?」
ノブナガ達は急に雰囲気がかわったカーテを見ていると、カーテは元に戻り
「って、オヤジの受売りなんだけどな。 オレのオヤジも商人でな、オレはそんなオヤジに『商人の心得』を叩き込まれた。 たぶんオヤジは商人としては損をしていると思う。けどな、オレはそんなオヤジを… 商人としてのオヤジを尊敬している。 だから、オレはオヤジのような商人になりたいんだ」
カーテは焚き火の火に誓うように話していた。
「そうか… お主のオヤジ殿は、素晴らしい人なんじゃな」
「ああ、オレのオヤジは最高の商人だぜ」
カーテは白い歯を輝かせて笑っていた。
「ところでカーテ殿。 この王国ではそんなに人身売買が行われているのですか?」
ミツヒデが質問すると、ティアはメルギドでチカムが襲われていた時の事を思い出し、キュっと唇を噛み締めていた。
カーテは少しだけ沈黙し、真顔になると
「あぁ、この王国がヒト至上主義なのは知ってるだろ?」
「うむ。そのせいでティア達も苦労していた」
ノブナガはチラッとティアを見ながら答えていた。
「その政策のせいさ。 王がそう言えば、ヒトはこれまで良き隣人であった獣人達を見下すようになった。 そのうちモノ扱いするようになり、獣人を捕まえて売ろうとするヒトが現れたんだ」
カーテは苦々しい顔で話していた。
「うむ。人間とは住む環境で良くも悪くも変わる生き物じゃからな…」
「あぁ、正にソレだ。オレのオヤジはヒトで、母親は魔牛の獣人だ。 2人はとても仲の良い夫婦だ。一部のヒトが『ヒト至上主義』を叫んでいるだけなんだ。 本来、ヒトも獣人も同じでなければならない… いや、同じなのに… それが分からないヤツが多過ぎる」
カーテは苦々しい顔でそう言いながら、焚き火の火を睨んでいた。
「そうか。 お主もいろいろあったんじゃな…」
ノブナガはそれ以上聞かなかった。いや、聞けなかった …と、言う方が正しいのかもしれない。
カーテは、バッと顔を上げ元の笑顔に戻ると
「だから、オレは獣人とヒトの架け橋になれる商人になるんだ。 獣人は村を作り狩りをしたり、畑を耕して暮らしているが、どうしても町でないと手に入らないモノも必要になる。 ヒトは町でモノに溢れた暮らしをしているが、肉や魚は誰かが森や海で取ってこないと手に入らない。 だからオレは、獣人とヒトとの架け橋になり商売をしているんだ。 獣人もヒトもお互いが、必要な存在であると… そう分かる日が来ると信じてな」
「カーテ殿は、素晴らしい人… 獣人… いや、人間でございますな! わたしは感服致しました」
ミツヒデは満面の笑みでカーテを見ていた。
「なんかカッコいい事言ってるけど、ソレって儲かるからじゃないの?」
アネッサが冷めた目でカーテを見ると
「もちろん! オレは商人だぜ? 儲かる事が1番重要だぜ」
カーテは親指を立てて、キランと白い歯を輝かせていた。
「やっぱり…」
アネッサは苦笑いしながら、どこか楽しそうにしていた。
カーテと和解したノブナガ達は、焚き火を囲んで楽しい時間を過ごしていた。
「明日も朝から移動だ。 そろそろ休むか」
カーテのその一言でノブナガ達は順番に寝る事にした。
街道沿いとはいえ、夜間は野盗や魔物などに襲われる危険があるからだ。
「それじゃ、二人組で夜番でいいか?」
旅慣れたカーテの提案に従い、夜番を決める。
初めはアネッサとティア
次にノブナガとミツヒデ
最後は、少ししたら朝になるからという理由でカーテ1人とした。
夜番中は焚き火の火を絶やさないようにと、カーテの注意を聞きノブナガ達は順番に体を休める。
そして、朝。
アネッサが目を覚ますと焚き火の火は消えていた。
「あれ? 焚き火の人が消えているじゃないの。自分で言っておきながら焚き火の火を絶やすなんて… カーテはいったい何をしているの?」
アネッサは文句を言いながら辺りを見る。
「…なに? どういう事?」
寝る前に見た状況との違いにアネッサは理解が追いついていなかった。
ノブナガ達は焚き火を囲んで、各々体を休めていた。
少し離れた場所にカーテの馬車を置いて、馬車の横では馬が寝ていたはずだったのだ。
しかし朝起きると、馬車はいない。
そして、ミツヒデとティア、カーテの姿が消えていた。
焚き火の跡の近くでノブナガがひとり座っているだけだったのだ。
「ノブナガ!! ティアさんは? ミツヒデも、カーテさんも! どこに行ったの?」
アネッサが慌ててノブナガに駆け寄り、座っているノブナガを激しく揺らしながら叫ぶ。
ノブナガはゆっくりと目を開け
「ワシらはカーテに騙されたようじゃ…」
ぼつりと呟いただけだった。
消えたカーテとティア、ミツヒデ。
『騙された』とつぶやくノブナガが語った出来事とは
次回 カーテの裏切り
ぜひご覧ください。
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