【42話】旅立ち
イルージュの忠誠を受け取って数日後、ハーゼ村の中央広場(と、言う名の村の入口前の広場)にはノブナガとミツヒデ、ハーゼ村人達と、アネッサ、ソレメル町長にホニードと大勢の人が集まっていた。
月女族は全員がソレメルに貰った革鎧を装備し、腰に短剣を携えて整列し、先頭にはイルージュが立っていた。
イルージュの横にソレメルが立ち、ソレメルの後ろにホニードとアネッサが立っている。
「ノブナガ殿、あなたのおかげでメルギドは救われました。改めてお礼申し上げます」
ソレメルは右手を差し出し、ノブナガに握手を求めると、
「うむ、それはこの月女族の力じゃ。ワシは少し手を貸しただけに過ぎん」
ノブナガはソレメルと握手を交わしながら応える。
「はい、そうですね。メルギドの町を救ってくれたのは月女族の皆さまと、ノブナガ殿、ミツヒデ殿です。実はメルギドの中央広場に月女族のみなさまと、ノブナガ殿、ミツヒデ殿の銅像を建てる事に決まったのです。 わたし達を救ってくれた皆さまの事は、メルギドで後世に語り継がれるでしょう」
ソレメルはノブナガの手を握り締めると、ノブナガ達を見て嬉しそうに報告していた。
「ソ… ソレメル町長! 銅像って… わたし達は当たり前の事をしただけですのに…」
イルージュが驚いて声を上げると
「いえ、メルギドのヒトが犯してきた愚かな行為と、それでも命をかけて救ってくれた皆さまの勇姿を忘れてはいけないのです。 わたし達は同じ誤ちを繰り返さない為、そして皆さまへの感謝を忘れない為に銅像を建てる事にしたのです」
ソレメルはキリっとした顔でイルージュを、そして月女族達を見ていた。
「イルージュよ。 お主たちの行いがメルギドの民達の心を動かしたのじゃ。それは誇るべき事じゃ」
ノブナガもウンウンと頷きながらイルージュ達を見ていた。
「…ありがとうございます」
イルージュは少し戸惑っていたが、ノブナガの言葉を聞き自信を持った顔で笑っていた。
「ところで、ノブナガ。お前、その格好で旅をするのか?」
ホニードに指摘され、ノブナカは両手を広げ自分の格好を確認する。ノブナガもミツヒデもこの世界に来てから変わらず着流しとワラジを履き、腰には刀と脇差を差すスタイルのままだった。
「ん? そのつもりじゃが?」
ノブナガは何かおかしい所があるのか分からず、首を傾げていると
「そんなペラペラな布と、よくわからん履き物で長距離歩くのか? お前、目的地に着く前に裸になって死ぬぞ」
ホニードはそう言いながら、ノブナガとミツヒデに箱を渡した。
「これは?」
「オレからの餞別だ。 月女族のアンダーと同じ素材でできたシャツとパンツ。 それとブーツだ」
箱の中にはティア達が着ている物と同じ、黒大蜘蛛の糸で編まれた長袖のシャツと、膝下までのスパッツ。 それに底が厚く、長時間歩いても大丈夫そうな冒険者用のブーツが入っていた。
「おお! これはありがたい」
ノブナガとミツヒデは喜んで箱を受け取り、その場で着替えようと着流しを脱ぎだした。
「ちょっ! ノブナガ! ミツヒデ! もう!ほら、こっちで着替えてきて!」
ティアは慌ててノブナガ達を制止し、ノブナガとミツヒデを近くの家に案内し、中で着替えるように言って部屋を出て行ってしまった。
「うーむ、何か不味かったかの?」
これまで、甲冑を着る時は大勢の部下達の前で着替え、普段も女達の前で着替えてきたノブナガにとって、ティア達の前で着替える事になんの抵抗も… と、言うよりそれが当たり前だと思っていた。
「さぁ? ティア殿は何を慌ててたのでしょう?」
またミツヒデも同じく、皆の前で着替えるのが当たり前の感覚であり、2人はなぜ近くの家に連れてこられてのかが分からないでいたが、とりあえずティアに言われた通り部屋で着替えることにした。
黒大蜘蛛の糸が編み込まれたシャツとパンツは、伸縮性も通気性もよく身体にピッタリとあう快適なものだった。ホニードはどこで知ったのか、ノブナガとミツヒデの足のサイズにピッタリなブーツを用意しており、2人はなんの違和感もなくブーツを履きこなしていた。
「おお、コレは素晴らしいモノでございますな! なんとも動き易く、足元もしっかりと大地を掴む事ができます」
ミツヒデは黒いシャツとスパッツにブーツという、全身タイツのような格好で着心地を確かめていた。
「うむ、コレはよいものじゃ。 じゃが、ミツヒデ。この格好は些か見苦しいものがあるの…」
ノブナガも同じ格好で着心地を確かめていたが、見た目が気に入らないようだった。
「たしかに… このなりで歩くのは…」
「うむ… そうじゃ!」
ノブナガはポンと手を叩き、着替えの続きを始めた。
ティアがノブナガ達を部屋に押し込み、しばらくすると2人が着替えて出てきた。
「どうじゃ? コレなら見栄えもよく長旅もできるじゃろう?」
ノブナガは満面の笑みで、両手を広げてクルリと一回転してみせた。
その姿は、黒大蜘蛛のシャツとスパッツの上から着流しを羽織り、左肩だけ袖を通した格好… 弓を射る時と同じ格好をしていた。腰には刀と脇差を差してブーツを履いていた。
ミツヒデも同じように着流しを羽織っているが、キチンと両袖に手を通し、普段通りの格好で足元がブーツに変わっただけだった。
「2人の性格がよく分かる格好だね…」
ティアが両手を腰にあてて苦笑いしながら、2人を見ていると、イルージュが隣にやって来てティアをひっばりノブナガの前で膝をつき、ティアの頭を無理矢理下げさせた。
「ノブナガさま、旅のお供にティアを連れて行って下さい」
「え? あたし?」
ティアは驚いてイルージュを見つめる。
「ティア、あなたはノブナガさまにお供し、お護りするのです。 これは月女族 族長としての命令です」
イルージュは真剣な目でティアを見つめ返していた。
「……… はい。承知しました」
ティアも真剣な目になると、頭を下げ族長の命令を承諾した。
「ノブナガさま、ティアは必ずノブナガさまのお役にたてると確信しております。どうぞ、お供する事をお許しください」
イルージュはノブナガに向き直り、頭を下げる。
「……うむ。 わかった。ティア、これから頼むぞ」
ノブナガは腕を組み、ティアの同行を承諾した。
「ええ? ティアさんも旅にでるの?」
ことの成り行きを見ていたアネッサは驚いて声を上げると
「はい、月女族はノブナガさまに忠誠を誓いました。 ティアは月女族の中でも優秀な子です。ノブナガさまのお役に立てるようお供させて頂きます」
イルージュが説明すると、アネッサは腕を組んで「うーむ…」と考え事を始めた。
(ハーゼ村の娘達は、もう誰かに虐げられる事もない… ケガをしてもポテカとナープールに言っとけば大丈夫か… だとしたら、危ないのはティアさんよね… 旅先でケガしても、誰も治療できない。いや、わたし以外の治療なんて信じられない)
「決めた! わたしも着いていく! 今のルートハイム家も気になるしね」
アネッサは腕を組んで、フンッと鼻から息を吐いた。
「お… お主も来るのか?」
ノブナガが思わず声を上げると
「なによ? ダメなの?」
「いや、ダメと言うわけじゃ…」
「だったらいいじゃない! あんた達だけじゃ、ティアさんが心配なのよ!」
アネッサは組んでいた腕を解き左手は腰に当て、右人差し指でノブナガの鼻先を指差しながらグイグイと迫ってきた。
「わ… わかった、わかった」
ノブナガはアネッサの勢いに圧され同行を了承してしまった。
「よしっ!」
アネッサはガッツポーズをすると、ティアの両手を取ってニコニコしながら話していた。
「はぁ、女は怖いのぉ…」
「左様でございますな…」
ノブナガとミツヒデが小声で話していると
「何か言った?」
アネッサの地獄耳が発動する。
「い… いや、なにも言ってないぞ。さぁ!出発じゃ!」
こうして、ノブナガの『成すべき事を成す』旅が始まった。
第一章 呪われた者達は完結です。
新たな仲間を連れて世界を見る事にしたノブナガを待っているのもは?
次回より第二章 幻の獣王国 が始まります。
ぜひご覧ください。
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