【40話】ソレメルの春
「ダドーシ、アレを」
ソレメルが指示すると、ダドーシが仰々しく大きめの箱を持ってきた。
どこから持ってきたんだろう?
と、素朴な疑問を持ちながらイルージュやティア達はダドーシを見ていたが、ソレメル達は気にもせずにニコニコしていた。
「みなさまには町を巡回してもらうのですが… 恐れながらそのお召し物では、町の者からの目線が気になるかと思いまして…」
イルージュ達、月女族はこれまでヒトに虐げられていたため、全員が自分の体のサイズに合わない大きめのシャツとズボンを履いていた。それは何年も着回していた事もあり、かなり見窄らしい格好だった。
ソレメルは、そそっと箱をイルージュの前に押し出すと
「とりあえず一着だけですが、みなさまの革鎧装備をご用意させて頂きました。 試着用のサイズがひとつしかありませんので…」
ソレメルはぐるりと村人達を見渡すとティアを指名し
「そちらの、お嬢さまにご試着頂けたらと思います」
ソレメルの顔には笑顔が張り付いてしまったかのように、常にニコニコしている。
「え? あたし?」
ティアは自分を指差して、キョロキョロしていると
「はい。 試着用のサイズが合いそうなのがお嬢さまだけのようですので…」
ソレメルのニコニコ顔が、若干テカッているような気がしてきた。
「ティア、せっかくですから試着してみては?」
イルージュが声をかけると、ティアは頷き箱を持って部屋から出て行った。
「ソレメル町長、なにからなにまでありがとうございます」
イルージュは頭を下げて礼をする。
「いえいえ、皆さまがそのような格好になってしまったのも、元はと言えばわたし達のせいですので… これくらい当たり前です」
ソレメルは苦笑いを浮かべながら、恐縮していた。
(オレ達は何も貰った事ないんだが…)
ホニードが少しむくれながら、ブツブツと小声で文句を言っていた。
その時、部屋の扉が開きティアが恥ずかしそうに入ってきた。
「あ… あの、コレであってますか?」
ソレは縁を金で装飾した赤い革鎧で、胸の前を紐で縛るタイプのビスチェと、丈が短めのホットパンツがセットアップしたビキニタイプの革鎧だった。
ティアのふくよかに育った胸はビスチェから弾けそうになり、くびれたウェストと形のいいおしりがホットパンツを際立たせていた。
ティアを見た反応はソレメル達『男』と、パル達『女』でハッキリと分かれる。
ソレメルやホニード、ノブナガは「おぉ!」と感嘆の声をあげ、
パルやチカム、ヒカム達は「えぇ!?」と、若干引き気味の反応と、一部「ティアさまカワイイ」派も混ざっていた。
「あ… あの、ソレメルさま。コレはちょっと恥ずかしいのですが…」
ティアはビキニアーマーを着たものの、恥ずかしくてモジモジして置き場のない手がウロウロしていた。
「おぉ、ティア。お主、今まで気が付かなかったが、良い体をしておるではないか」
ノブナガはウンウンと頷きながら、ティアを上から下までじっくりと見ている。
「ノ… ノブナガ! 子供がそんな事言うもんじゃありません!」
ティアは恥ずかしさから真っ赤になり、ノブナガを叱っていた。
「ワ… ワシは大人じゃ!」
いつものようにノブナガとティアが口喧嘩をしていると
「ソレメル町長、さすがにコレはちょっと…」
イルージュが苦笑いを浮かべていると
「おぉ、申し訳ありません。アンダーをお渡しするのを忘れてました。ダドーシ! ちゃんとせんか!」
「はっ、申し訳ありませんでした。 こちらを着けてから、その革鎧を装備するようになっております」
ダドーシがまたどこからか箱を出してきて、ついっとイルージュの前に箱を押し出した。
「イルージュ殿、ティアさま、失礼しました。 どうぞこちらもお試しください」
ソレメルはニコニコしながらティアに試着を勧めていた。
(絶対、ワザとだわ…)
そう思うとソレメルのニコニコ顔が、エロじじぃに見えてくるのが不思議だ。
ティアは箱を持つと、もう一度部屋から出てアンダーの上から革鎧を装備して帰ってきた。
アンダーは黒い七分袖のシャツと、ヒザ上のスパッツで、チラッとおへそが見える程度だった。アンダーの上から先程の革鎧を装備し、その上からフード付きのケープを羽織っていた。
ケープの背中には三日月をモチーフにしたデザインが刺繍されていた。
「そのアンダーは黒大蜘蛛の糸を使用しており、耐刃性、耐火性に優れております。さらに柔軟性と通気性も抜群ですので着心地も最高! 多少の体型の差なんて気にせず着ることができます。まさに最高の防具と言えましょう! 実はコレ、メルギドの職人が開発したモノなんです。『メルギドのカケラ』と共に、これからメルギドの目玉商品として売っていこうとしているのですよ」
ソレメルは目を輝かせながら熱く語っていた。
「母さま!コレはいいわ! 動きやすいし、わたし達の火の魔法にも耐えられそう。それにカワイイ」
ティアはすっかり気に入ったようで、クルクル回りながら喜んでいた。
「そうね。とても似合っているわ」
イルージュも嬉しそうな顔でティアを眺め、村人達も羨ましそうに見ていた。
「ソレメル町長、この背中のマークは?」
イルージュは三日月のマークを見て、不思議そうにソレメルを見る。
「はい、月女族さまですので『月』、その中でも一番美しい『三日月』をモチーフにしてみました。お気に召しましたでしょうか?」
「まぁ、ありがとうございます。 月女族は強く、優しく、そして美しい。それがわたし達の誇り、わたし達にピッタリなマークだと感じました」
イルージュの嬉しそうな顔に、ソレメルはハッとした顔を一瞬して、とろけるような幸せそうな顔に変わると、急にキリっとした顔になり
「喜んで頂けたようで、なによりです」
と、少し渋い声でキメ顔を作って微笑んでいた。
イルージュ達は平和な日々を過ごしていた。そんな時、ノブナガは村を出るとイルージュに伝えにきていた。それを聞いたイルージュは、ある決断をする。
次回 別れと決断
ぜひご覧ください。
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