【4話】オクリビ
少し短くなってしまいました。
「光秀殿… お館様を頼みましたぞ」
羽柴秀吉は小さくつぶやいていた。
「キミたち武将という生き物は、みんな信長さんや光秀さんと同じ感じなのかい? だとしたら本当にスゴイ人達だよ。 狂気を感じる程にね…」
ロアは羽柴秀吉の横に立ち、信長と明智光秀の亡き骸を見ていた。
「ロア殿、これで二人はお主の言うイセカイとやらへ行ったのか?」
「大丈夫。 安心して。ボクが責任持って二人を連れて行くから」
そう言いながらロアは信長と明智光秀の間に歩いて行った。
「それじゃ、みなさん。ボクは二人を連れて帰るとするよ。 えーと、こういう時はなんて言うのかな? サヨナラ? ごきげんよう? んー わかんないな… ま、いいか。 みんな、バイバイっ」
ロアが二人の体に手を当てると、ロアと信長、明智光秀の体が光り出した。
光はやがて直視出来ないほどの光量となり、フッと消えてしまった。そこには明智光秀の首だけが残っていた。
「お館様… お達者で」
羽柴秀吉はそうつぶやき、明智光秀の首を拾い上げ大切に抱きかかえていた。
今、目の前で起きた事が全て嘘か幻だったかのように本殿は静まり返っていた。
ふと、羽柴秀吉は武将達に向き
「皆、お館様の文はお持ちか?」
と、胸元から信長からの文を取り出し見せた。
「もちろんじゃ」
武将達は全員、胸元から文を取り出し羽柴秀吉に見せる。
「では、こちらへ」
羽柴秀吉は全員の文を集め、信長が座っていた場所に置くと火を着けた。
文に火が着いたのを確認した武将達は庭に出て、篝火から火を取り本殿に火をつけ始めた。
やがて火は炎となり、本能寺は炎に包まれてしまった。
「お館様、このような小さな送り火で申し訳ござらん…」
羽柴秀吉は燃え盛る本能寺を見ながらつぶやいていた。
時は天正10年6月2日早朝、本能寺を燃やす炎は京の空を赤く染めていた。
その後、羽柴秀吉の完璧な情報操作により、『逆賊』明智光秀の謀反にあった織田信長は本能寺で自害。
それを知った羽柴秀吉が山崎の戦いにおいて明智光秀を討ち、織田信長の後を継ぐ事となったと誰もが信じるようになった。
◇◇◇◇
羽柴秀吉は大坂城を築城し、やがて朝廷から豊臣の姓を受け豊臣秀吉と名乗るようになっていた。
「お館様、ワシはお館様の思う日の本を作れたのでしょうか? これがお館様の考える『泰平の世』だったのでしょうか? きっと光秀殿ならお館様の考える泰平の世がどのようなものか分かっていたのやも知れませぬが… ワシはバカだからのぉ…」
豊臣秀吉は自笑しながら、大坂城の天守閣から城下町を眺めていた。
「光秀殿… 本当にこれでよかったのか? 光秀殿ほど、お館様に忠義を尽くした人物はいないというのに… 今や、日の本では全ての人が光秀殿は逆賊であると信じて疑わないようになってしまった。 それが光秀殿の策であるとしても… ワシは… それが寂しい…」
秀吉は城下町を見ながらポツリとつぶやくと、天守閣に戻って行った。
本能寺で起こった事は誰にも語られる事なく、真実を知る者は1人減り、2人減り、やがて誰も居なくなってしまった。