【25話】糾弾
「昨日も出たんですよ! 気がついたら朝で、なぜかイルージュさまの家で寝てたんです…」
「ええ!? なぜイルージュさまの家で?」
「さぁ、それが分からないのよねぇ…」
村人達は昨夜のおばけの話しをしながら、朝のお祈りのため『寺』に集まってきていた。
「おはようございます。 巫女さま、イルージュさま」
すでに祈りの部屋にいる巫女やイルージュ達にあいさつをしながら、村人達が部屋に入ってきた。
「おはよう」
イルージュは少し疲れた顔をしていたが、柔かな表情で村人達を迎え入れていた。
イルージュのとなりでは、息子のリヌを抱いた巫女が座っていた。
村人達は見慣れない子供を気にしながらも、祈りの準備のため各々床に座っていた。
村人達が全員集まり、いつもなら巫女が舞台に上がって舞い始めるのだが、巫女は座ったまま動こうとしないため、村人達は「どうしたのかしら?」とヒソヒソと話し合っていた。
その時、イルージュが立ち上がると一歩前に出て真剣な目で村人達を見回し話し出した。
「みなさん、おはようございます。 全員集まりましたので、わたしからみなさんへお話しがあります」
村人達はザワザワしながら、イルージュを見ていた。
「最近のおばけ騒動ですが、ノブナガさまに調べて頂きました。その結果についてみなさんへご報告します。 その内容はとても信じ難く… いえ、信じたくない…と言った方が正しいのかもしれません」
イルージュの言葉に村人達は『只事ではない』と察し、口を引き結びイルージュの言葉の続きを待っていた。
イルージュは、一度だけ『ふぅ』と息を吐くと村人達を見回し、おばけの正体は巫女だった事、巫女はわたし達の為に舞っていたのではなかった事、そして、ロア・マナフの加護を受けたヒトではなく、リッチだった事を包み隠さず話した。
イルージュが巫女の方を向き、
「何か弁解する事はありますか?」
と、真剣な目で話しかけるが、巫女はフルフルと頭を横に振るだけで何も答えなかった。
「ひとつよいか?」
ノブナガは手を上げ、イルージュに声をかける。
「ノブナガさま、どうぞ」
「アネッサよ、あの夜、お主は灯りが付いている家に向かって何をしたのじゃ?」
ノブナガは巫女が家に向かって手を向け、呻き声のような声をあげたとたん、村人が倒れる音がした事が分からなかった。
「はい… わたしは、あの時『麻痺の魔法』を使ったのです」
巫女は消え入りそうな声で答える。
「『麻痺の魔法』じゃと? なぜそんな事をしたのじゃ? これまでもその魔法を村人達に使っていたのか? そもそも、そんな事をしなければ『おばけ騒ぎ』は起きなかったのではないのか?」
ノブナガが続けて問うと
「リヌの身体を維持する魔法を邪魔されたくなかったのです。わたしはいつも魔法を使う前に村に出て、みなさんが眠っている事を確認していたのです。 しかし、前までは夜になるとみなさん眠っていましたが、最近は深夜まで起きていらっしゃる事が多くなったのです。 初めは眠るのを待っていたのですが、みなさんなかなか眠らないので、仕方なく『麻痺の魔法』を使うようになったのです…」
巫女が答えると
「あの呻き声は、巫女さまの呪文だったのですか! そうか、麻痺されていたから朝起きた時、異様に身体がダルかったのですね…」
昨夜、麻痺させられた村人は「なるほど…」と、自分の体験について理解していた。
巫女はリヌを床に寝かせると、ゆっくりと立ち上がり村人達に向かって深く頭を下げ
「みなさん、わたしは… 自分の勝手な理屈と欲望の為に皆さんを苦しめてしまいました。 謝って許される事ではないと分かっています。 ですが、どうかリヌだけはお許しください。全て、わたしが勝手に始めた事なのです。この子は… 何も関係ないのです…」
巫女は涙声で、リヌを許して欲しいと訴えた。
「母さま… いえ、月女族 族長!お願いがあります!」
ザワザワとする村人達の中、急にティアが立ち上がりさけんだ。
「ティア、なんですか?」
「はい、確かに巫女さまはわたし達から生命力を奪いました。そのせいで、わたし達は弱くなりヒトから虐げられてきました。 なかには殺された者もいます。 でも、あたし思うんです! 母親が子供を助けたい、護りたいと思うのはみんな同じだって。 それはヒトだから、月女族だからじゃなくて、すべての『母親』はみんな同じように考えるんだと思う。 そして、あたし達、月女族は全員が『母親』です。 村のみんなも『子供を護りたい』という想いは理解できると思うのです…」
ティアは村人達を見回すと、村人達は真剣にティアを見つめていた。
「だから、族長。 巫女さま… いえ、アネッサさんを許してあげて下さい」
ティアは深く頭を下げて、イルージュに懇願した。
すると村人達からも、「巫女さまを許して欲しい」と声が上がり始めた。
「ティアさん…、みなさん…」
巫女は驚いたように村人達を見つめ、涙を流していた。
頭を下げるティアと、「許して欲しい」と声をあげる村人。そして、涙を流すアネッサ。
イルージュは、ただ黙って見つめていた。
とても許し難い行為を300年も続けていた巫女。それでも許して欲しいと訴える村人達。イルージュの決断は
次回 月女族の誇り
ぜひご覧下さい
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