【23話】ハーゼ村の長い夜2
ノブナガとミツヒデは、おばけが出るという寺の近くにある家で灯りを消して静かに外の様子を伺っていた。
ちょうど向かいにある家では、何か用事をしてるようで深夜になっても灯りが漏れていた。
「何も出ないな… やはり枯れ尾花か?」
「左様でございますね… 女のうめき声も実は風の音やもしれませんな…」
ミツヒデも、やはり噂は噂か?と考え出していた時だった。
「ミツヒデ! アレを見ろ!」
ノブナガが小声でミツヒデを呼び、壁に身を隠しながら目で合図を送る。
「アレは!?」
月明かりの中、黒いローブで全身を包みフードを目深に被った人影が足音もなくゆっくりと移動していた。
「しっ! アレがうわさのおばけか?」
ノブナガは、人差し指を口に当て声を殺してミツヒデに話しかける。
「おばけ… でしょうか? それにしてはあまりにも存在感があります。 やはり侵入者でしょうか?」
「わからぬ。 とにかく少し様子を見てみよう」
ノブナガとミツヒデが息を殺して黒い人影の動向を伺っていると、人影は明かりがついている家の方へゆっくりと近づき、少し離れた所で立ち止まった。
「なんじゃ?」
黒い人影はキョロキョロと辺りの様子を伺うと、両手を家の方へ向けると『女のうめき声』のような声をあげた。
「ヒィ!!」
明かりがついていた家から、一瞬、声がすると『ドサ』と音がして静かになってしまった。
人影はそれを確認すると、また辺りをキョロキョロとして寺の方へ移動を始めた。
「あやつ、何をしたんじゃ?」
黒い人影が手を向けていた家からは物音ひとつしなくなり、灯はついたままだが、さっきまでゴソゴソしていた人が動く気配は無くなってしまった。
ノブナガとミツヒデは人影が離れた事を確認すると、灯が付いていた家に近づき、中を覗き込んだ。
「!!!」
家の中では、この家の住人がピクピクと痙攣しながら倒れていた。
「おい! お主!大丈夫か?」
ノブナガとミツヒデは慌てて家に入り住人を抱き起すが、住人は痙攣したまま目を覚さない。
「ミツヒデ、すぐにイルージュを呼んでくるのじゃ! ワシはあの人影を追う!」
ノブナガはミツヒデに指示すると、人影を追って家を飛び出す。
「確か、こっちに歩いて行ったはずじゃが…」
ノブナガが人影を追った方角は『巫女が住む寺』の方だった。
辺りに潜んでいないか注意しながら進んで行くと、寺の近くで人影を発見した。
人影はそのまま寺に入っていってしまった。
「あやつの狙いは寺か?」
ノブナガは人影を追って、静かに寺に入る。
いつでも抜刀できるように刀を握った手に力が入る。ノブナガは「ふぅ」と息を吐き、手の力を抜き自然体に戻る。
人影はゆっくりと寺の中を進み、巫女が舞う舞台がある部屋に入って行った。舞台の上には台が置いてあり、台の上には何かが寝かされていた。
昼間、舞台を照らしていた天窓からは月明かりが差し込み、台の上に寝かされている何かを照らしているようだった。
人影は紫水晶を取り出すと、寝かされている何かの横に置き、愛おしそうにその何かを撫でている。
「アレは… ヒトか?」
月明かりに照らされた、その『何か』は子供くらいの大きさで白い手足が見えていた。
髪は短く切り揃えられており、遠目でも綺麗な顔をした男の子だとわかった。
ノブナガはいつの間にか刀から手を離しており、扉の隙間から静かに中の様子を伺っていた。
人影は男の子の前に跪くと、低い声で呪文のような言葉を呟き祈りだした。
しばらく様子を見ていると、ミツヒデとティア、イルージュがやってきた。
「ノブナガさま、如何なされましたか?」
ミツヒデが小声で声をかけると
「うむ、あの人影は何かを奪うわけでも、誰かを傷つけるわけでもなく、あそこで祈っておるようなのじゃ」
ノブナガはアゴで舞台を指し、ミツヒデ達が舞台の方に目を向けた。
その時、月明かりに照らされた男の子の身体が淡く光り、少しだけ浮いた。
「なに!?」
思わずノブナガとミツヒデが叫ぶと
「だれっ!?」
黒い人影が祈りを止め振り向き、男の子の光は消え『ドサ』と台の上に落ちる。
ノブナガは扉を開け、部屋に入り叫ぶ。
「ワシはノブナガじゃ! お主は何者じゃ?」
人影は驚いたように体を硬直させていたが、ノブナガの背後にいるイルージュとティアに気が付き観念したようにフードを外した。
「巫女さま!?」
イルージュとティアが叫び、ノブナガとミツヒデは2人を庇うように前に出た。
「イルージュさん、ティアさん…」
巫女は俯き静かに名前を呼ぶと、寂しそうに笑い… 涙を流していた。
「巫女さま… これは一体?」
イルージュが声をかけると
「遂にバレてしまったのですね…」
巫女は俯いたまま、静かに頭を振り座り込んでしまった。
ノブナガ達はゆっくりと舞台に近づくと、さっきは遠目で見えていた男の子がハッキリと見えてきた。
男の子は5歳くらいで巫女によく似ており、ただ眠っているように見えた。
「この子は?」
イルージュが巫女に問いかけると
「この子はわたしの息子リヌ… 300年前、流行り病で亡くなりました」
巫女はリヌの顔を撫でながら、涙を流していた。
「お主、ここで何をしていたのじゃ?」
「あなたはノブナガさん… でしたね。 そうですね、みなさんにキチンと説明しなければなりませんね…」
巫女は舞台から降りると、イルージュの前にやってきた。
「イルージュさん、村のみなさんを集めて頂けますか?」
巫女は優しく微笑むと、イルージュは巫女を見つめ返し
「わかりました。 ですが、もう村の者は皆眠っています。 明日の朝、祈りの時間にお願いします」
「…はい」
巫女は消え入りそうな声で返事をしていた。
「ですが、わたし達には今、説明してください。それと、ノブナガさま、ミツヒデさま。恐れ入りますが、明日の祈りの時間までわたし達と一緒に居てくれますか?」
「ふむ、わかった。この村の長はイルージュじゃ。 ワシらはイルージュに従おう。 よいな、ミツヒデ」
ノブナガはミツヒデを見ると
「はっ」
ミツヒデは膝をつき、頭を下げた。
「ティア、あなたもここに居なさい」
「はい、母さま」
ティアも真剣な顔でその場に座った。
「では、巫女さま、説明をお願いします」
イルージュは、滅多に見せないような真剣な表情で巫女を見つめる。
「はい。 話は300年前に遡ります…」
巫女は、ぽつりぽつりと話し始めた。
おばけの正体は巫女さまだった。巫女さまの口から話される悲しい過去。
次回 巫女の過去
ぜひご覧ください
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