【22話】ハーゼ村の長い夜
「ねぇ、知ってる? 深夜、村の中を女のオバケが彷徨いているそうよ…」
その噂はあっという間に村中に広がり、村人達は怯えていた。
「お主、そのウワサは本当か?」
ノブナガはキーノ達が噂話をしている輪に入り、話に参加していた。
「ええ、ノブナガさま。それが本当らしいですよ。 深夜、家の中で用事をしていたら、外から女の呻き声が聞こえるらしいの。 その声を聞いた人はみんな気を失ってしまうそうよ」
キーノは「あー、怖い怖い…」と両手で体をさすりながら噂話を続けている。
「その呻き声の正体は、誰も見ておらんのか?」
「ええ、呻き声を聞いたら最後、気がついたら朝になってるそうよ」
「それ以外は… 例えば傷がついてるとか、物が無くなっているとかあるのか?」
「この村で盗るような物もありませんし… ケガをしている訳でもありません。 あ、ただ、朝起きたら異様に体がダルいそうです」
「体がダルい…か」
キーノ達は一通り噂話をした後、日課の訓練に向かっていった。
◇◇◇◇
少し時間は戻る。
数日前、おばけの噂話がチラホラと聞こえ始めた頃、ノブナガはイルージュから相談があると呼び出されていた。
「ノブナガさま、実は今、村の中で女のおばけが出ると噂話が広がっているのです。 初めはわたしも気にして無かったのですが、噂話は広がる一方で、内容もだんだんと具体的になっております。 万が一、侵入者の仕業であれば村人達が心配なので、一度調べて頂けないでしょうか?」
「女のおばけ… か。 今までこんな噂話が広がった事はあるのか?」
「いいえ、今までは夜になると、みんな直ぐに眠ってしまっていました。 最近は魚などしっかり食べる事が出来るようになりましたので、村人達も体力がついて夜遅くまで起きている者が出てきたのです」
ノブナガが来る前、ハーゼ村の村人達は『ヒト様が口にする物を食べてはいけない』と虐げられていたため、カエルやバッタなど粗末な物しか食べる事が出来なかった。
その為、体力が無く夜になるとすぐに眠ってしまっていたのだ。
「なるほど。 わかった。調べてみよう」
ノブナガは膝をポンと叩き、イルージュの申し出を受けることにしたのだった。
◇◇◇◇
ノブナガとミツヒデはまず侵入者の痕跡を調べていた。
「やはり侵入者の可能性は低そうですね…」
ミツヒデは砦付近や村の近辺を調べていたが、侵入者の痕跡を見つける事はできなかった。
「うむ。 幽霊の正体見たり枯れ尾花… かと、思うのじゃが。 声を聞いた者は気を失っておるからのぉ。あながち勘違いとは言い切れんとこもある…」
ノブナガも頭を捻り、何かヒントはないかと考えていた。
「ノブナガさま、わたしはもう一度、村人たちから話しを聞いてまいります」
「そうじゃな、ミツヒデ頼む」
「はっ」
ミツヒデは一度頭を下げると、村へ戻っていった。
ノブナガはもう一度、侵入者の痕跡がないか調べる事にした。
村を囲む杭には板が貼られ、ただの『杭』から『壁』に変わっていたが、高さは変わらず2m程だった。
「この高さじゃ。 乗り越えようと思えば乗り越える事はできるの…」
ノブナガは壁を見ながらつぶやき、誰かが壁を乗り越えたような跡や、壁の下に足跡など痕跡がないか調べていた。
「しかし… 侵入者がいたとしてもじゃ、この村に侵入するような価値があるとは思えんのじゃが…」
村の建物は皆、雨漏りがしそうなボロ家。住んでいる村人も皆、その日暮らしが精一杯の者しかいない。
村の宝と言えそうなのは、巫女が住んでいる『あの寺』くらいだが、盗めるような物ではない。
結局、侵入者の痕跡らしきものは見つからず夕方になってしまった。ノブナガは一度家に戻り、村に戻ったミツヒデを待つ事にした。
ノブナガが家に戻り、しばらくするとミツヒデが帰ってきた。
「おぉ、ミツヒデ。 何かわかったか?」
「はっ、ノブナガさま。 これといって新しい話しはありませんでしたが、ひとつ気になる事がありました」
「ほぅ。 申してみよ」
「はっ。 どうやら女のおばけが現れた場所は、あの巫女が住む寺の近くのようでした」
「寺の近くじゃと?」
「はい、実際におばけの呻き声を聞いたと言う者達は皆、あの寺の近くに住んでいる者だけだったのです。 そこから離れた場所に住んでいる者で、おばけの呻き声を聞いた者は1人もいませんでした」
「ふーむ… よし、今夜そのおばけが出るという場所で張り込んでみるか」
ノブナガは、ポンと膝を叩き立ち上がると
「すでにイルージュ殿にお願いして、付近の家を準備しております」
「うむ。では、さっそく参ろう」
ノブナガとミツヒデは、準備した家に行くと夜がふけるのを静かに待つことにした。
オバケの正体を突き止める為に行動するノブナガ。その正体と、目的とは?
次回 ハーゼ村の長い夜2
ぜひご覧ください
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