【21話】勝利
「自警団、退却しろ!」
ホニードの号令に自警団は驚きながらも、素直に従いメルギドの町に引き上げていった。
「や… やった…? やったーー!」
自警団がいなくなったのを確認した村人達から歓声が沸き起こり、お互いの無事を抱き合って喜んでいた。
そんな中、ティアは村の入口で死亡した自警団員の元に歩み寄ると鎮痛な面持ちで遺体を見ていた。
「ティア殿…」
ミツヒデはそっとティアの横に立ち、肩に手を置いた。
「ミツヒデ… あたし…」
ティアは自警団員から目を離す事なく俯いていた。
「ティア殿。 ご自分を責める必要はありません。この自警団員の代わりに貴女が倒れていたかもしれないのです。 自警団はハーゼ村を襲撃した時点で、こうなる結果も覚悟しておくべきだったのです。 それを軽んじたホニード、そしてこの自警団員の責任なのです」
「うん… わかってる。 分かってるんだけど… でも、このヒト様にも家族がいて… もしかしたら子供もいて… そう思うと…」
ティアは涙を浮かべていた。
「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。一度生をもうけ、滅せぬもののあるべきか」
ノブナガはティアの横に立つと『敦盛』の一節を詠う。
「ノブナガ? なに?それ?」
ティアは涙目のままノブナガを見つめていた。
「下天と比べたら、人の世など儚いものじゃ。 そして、一度生を受けた者は必ず死なねばならん。 それが定めじゃ。ティアよ、それをゆめゆめ忘れるでないぞ」
ノブナガはそう言うと、自警団員の横で膝をつき手を合わせる。
「ミツヒデ、この者を弔ってやれ」
「はっ」
ミツヒデは自警団員から装備を取り外し、川の水を汲んでくると体を綺麗に洗ってやった。
「このイセカイではどのように弔うものか、わたしには分かりません… ですが、名も知らぬ自警団員殿、どうか安らかにお眠りください…」
ミツヒデが手を合わせ自警団員の冥福を祈ると、村人達もミツヒデの後ろに並び、膝をつき祈りを捧げていた。
「ミツヒデ、ありがとう。 きっとこのヒト様も喜んでいると思う…」
ティアはニコリと微笑んで手を合わせていた。
村人達は村の外に自警団員を埋葬すると、墓標を作り花を手向けていた。
◇◇◇◇
自警団の襲撃から数日後、村人達は日常の仕事に加え、砦の補強や武器の準備と訓練を行うのが日課となっていた。
「ノブナガー! ミツヒデー! 今日も魚が獲れたよー!」
チカム達は河原で石を集めるついでに、カゴを仕掛けて魚を獲るようになっていた。
先日食べた魚の味が忘れられない事もあるが、今までは無条件でヒト様に従うことで命を守ってきたが、自警団を撃退した事で、『自分達の命は自分達で守る』という自信がついた事が大きな理由だった。
「おぉ! 大漁ですね!」
「うん! たくさん獲れたよ!ミツヒデに教えてもらったカゴってスゴいね!」
チカムは満面の笑みで、カゴいっぱいの魚を見せびらかしていた。
「そうでしょう、そうでしょう。 村のみなさんと焼いて食べましょう」
ミツヒデも満面の笑みでチカムの頭を撫でていた。
「うん!!」
チカムはカゴを持って村の奥へ走って行った。
「転ばないでくださいねー」
「だいじょーーぶぅーー」
チカムは一度振り返って手を振るとまた走り出し、姿が見えなくなってしまった。
「やはり子供はあれくらい元気な方がよいの」
ノブナガが腕を組み、うんうんと頷くと
「左様でございますね」
ミツヒデもニコニコしながら頷いていた。
「子供が何言ってるの?」
ノブナガとミツヒデの背後から、クスクスと笑いながらティアが声をかけてきた。
本能寺で命を絶った信長と光秀は、当時48歳と55歳だった。しかし、異世界に来てロア・マナフにより2人は12歳位に若返ったため、見た目は子供だが、中身は戦国を50年程生きてきた武将というアンバランスな状態になっていたのだ。
対するティアは18歳くらいの若い女。ティアとノブナガ達は、側から見れば姉と弟のように見えただろう。
「ティアか。ワシらは『大人』じゃ。子供扱いするでない」
ノブナガはふんっと鼻から息を吐き、ふんぞり返るように胸を張る。
「はいはい、ごめんなさいね」
ティアはクスクスと笑いながら村の奥に行ってしまった。
「うーむ。 若返ったのはよいが、見た目と中身がしっくりこんのぉ」
ノブナガは、はぁとため息をつきながらボヤく。
「左様でございますね。 かといって、見た目通り『子供』のフリなど出来ませんし…」
ミツヒデも流石にこの違和感には慣れていないようだった。
「そうじゃなぁ。 まぁ、仕方あるまい。今更、どうにも出来ん」
「左様でございますな。 まぁ、なんとかなるでしょう」
ノブナガとミツヒデは、村の奥に行ってしまうティアの背中を見ながら苦笑いを浮かべていた。
自警団との戦いから数日後、ハーゼ村であるウワサが流れていた。
次回 ハーゼ村の長い夜
ぜひご覧ください!
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