【18話】巫女の正体
「ノブナガさぁん、ボクは一応この世界の神さまなんだよ? そう気軽に呼び出されても困るんだけどさぁ。 まぁ、ノブナガさんだからわざわざ出て来てあげわけだけど?」
ロアはチラチラとノブナガの顔を見ながら、恩着せがましく文句を言っていた。
「まぁ、そう言うな。 ロアよ、聞きたい事がある」
ノブナガはロアの文句を気にも留めずに話しを続ける。
「なんだい?」
ロアも諦めたようにノブナガの話しを聞いていた。
ノブナガはドカっと座り、ロアを正面から見ると
「ロア、この村の巫女は知っているか? 300年もお主に舞を捧げている巫女じゃ」
「巫女? んー… あぁ、知ってるよ。でも、アレはボクの為に舞っているんじゃないよ? あの巫女は自分の為に舞っているんだよ。 それがどうかした?」
ロアは首を傾げながらノブナガを見ていた。
「自分の為じゃと? どういう事じゃ」
ノブナガが身を乗り出してロアに食いよると
「あぁ、あの巫女は舞う事で村人から生命力を少しずつ回収しているんだよ。 祭壇に紫色の水晶があったでしょ?回収した生命力は、その水晶に集められている。まぁ、何に使うのかは知らないけどね」
「あの水晶か…」
ノブナガは祭壇の中央に祀られていた水晶を思い出していた。
「ロア、もうひとつ教えてくれ。 あの巫女はヒトか? お主の加護を受けて長寿になったと聞いたが?」
「ボクの加護? そんな事しないよ。あの巫女はリッチだよ」
ロアは興味なさそうに答えると
「ロア殿、リッチとは一体何者でごさいますか?」
ミツヒデも身を乗り出して、ロアに食いよる。
「生きていた頃は、僧侶や魔法使いだったヒトが不老不死を得て『ヒト』ではなくなった者だよ。あの巫女も元々は『ヒト』だったけど、今は『リッチ』になってしまったんだね」
「生きていた頃? では、あの巫女は今は生きていないということですか?」
ミツヒデが驚いた顔でロアに詰め寄ると
「ちょ! ミツヒデさん!近いって!」
ロアはミツヒデから離れて
「はぁ、そうだよ。彼女はずいぶん昔に死んでいる。 と、言うよりリッチになった時点で、ヒトとして死んでいるんだよ」
ロアはスカートの乱れを直して、またふわりと座る。
「ノブナガさま…」
ミツヒデはノブナガの考えを悟ろうと、ノブナガの顔を見る。
「ふむ。 あの巫女は『生ける屍』… と、いう事か。 なれば、なぜあの巫女はこの村の者を騙してまで舞うのじゃ? 己の目的である不老不死は手に入れたのではないのか?」
「さぁ、そんな事知らないよ。 それこそ本人に聞いてみたら?」
ロアは全く興味がないようで、つまらなさそうな顔をしていた。
「ロア、お主はこの世の神であろう? お主を崇拝しているこの村の者達を助けようとは思わないのか?」
なんの関心も見せないロアに、ノブナガは少しイラつきながらも、その真意をはかろうと落ち着いて話しを続けた。
「ノブナガさん、さっきも言ったけどボクは『この世の神さま』なんだ。この世のモノに対して全てに平等でなければならない。 誰かが繁栄すれば、誰かが衰える。誰がが産まれれば、誰がが死ぬ。誰がが生きる為には、誰かが死ななければならない。 そこにボクが手を出すと全てのバランスが崩れてしまうだろ? だから、ボクはこの世の全てに対して平等であり続けなければならないんだよ」
ロアはそう答えると、すっくと立ち上がった。
ノブナガたちがロアを見ていると
「でも、ノブナガさんとミツヒデさんだけは特別かな。 君たちはボクが見つけて連れてきた『お気に入り』だからね」
ロアはクルリと回ると、ノブナガ達を見てニコっと笑った。
「なるほど… お主の言う通りじゃ。 神が特定の者に肩入れすれば、それは世を混乱に落とす所業となるじゃろう…」
ノブナガは腕を組み、頷くとロアの言葉に納得していた。
「そうでしょ?」
ロアもニコニコしながらノブナガを見ていた。
「あい、わかった。 ロアよ、呼び出してすまなかったな。もう下がってよいぞ」
「さ…下がってって… もう!ノブナガさんはボクをなんだと思ってるんだよ。 神さまなんだよ?もう少し敬ってくれてもいいんだよ?」
ロアが頬を膨らませて文句を言うと
「ワシは神など恐れぬ。特にお主のような珍妙な格好をした神などな」
あはははと豪快に笑うノブナガに
「ホント、ノブナガさんは面白いヒトだよ」
ロアはクスクスと笑い、
「それじゃ、ボクは帰るよ。 君たちが巻き起こす風を楽しみにしてるよ」
そう言って、ロアは消えてしまった。
しんと静まり返った部屋で、焚き火のパチパチと爆ぜる音だけが聞こえていた。
「ノブナガさま。 あの巫女はやはりヒトではありませんでしたな。 生命力を集めているとロア殿は言っていましたが…」
「うむ。 巫女の目的を探る必要がありそうじゃな。 あとはホニードじゃ。必ず近いうちに現れるじゃろう。 まずはホニードの襲撃に備える事が優先じゃ。 平行して巫女の『真の目的』も探るのじゃ」
胡座をかいたまま頬杖をつき「おもしろくなってきたの…」とつぶやくノブナガの顔を、焚き火の明かりが怪しく照らしていた。