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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
大和の国
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【14話】ニームの獄中生活

ニームは『王家』を捨て『一般人』としてティアの下で働くことになったが、肝心の本能寺が建立中のためしばらくは地下牢に投獄されることとなった。

メルギドの安土城やアクロの城は早急に建てノブナガの威厳を示す必要があったため、魔法を駆使して驚くほどの速さで築城したが、本能寺はメルギドとアクロを行き来するための中継宿であるため急いで建立する必要がないのだ。

だから、ミツヒデは労働者を雇うことでチトナプに人を集め、町が活気に溢れるように仕向けたのである。これが結果的には大和の国を活気づかせるようになると考えたのだろう。


さて、ニームとハルマー、ギルエは本能寺が完成するまで地下牢で獄中生活を送ることとなるのだが、元王家や高位の人間であったため『投獄』というより『軟禁』されていた…の方が表現としては近かった。


ニームは牢に設置された快適なベッドの上に座り、ふかふかのマクラを抱きしめながら牢の前で待機しているソレメルの第3秘書サリアに話しかけていた。


「ねえ、サリア。ひとつ聞いてもいい?」

「はい。なんですか?」

サリアは優しく微笑みながら応える。


「安土城の地下牢って、どうしてこんなに豪華なの?」

『牢』とは暗く、壁に設置された棚のようなベッドで眠る。

食べ物がもらえるだけでもありがたいと思わなければならないほどの食事。

投獄された者は処刑される方が早いか、衰弱死する方が早いか…

それがニームが知る『牢』なのだ。

ところがニームが投獄されている牢は、ニームが知る牢とは真逆だった。

だから、ニームは理解ができなかった。

『ここは牢なのか?』と。


「この地下牢はニームさま専用です。ノブナガさまから、ニームさまは『座敷牢』に牢獄しろと命じられました。それでソレメル町長が地下牢を改造し、ニームさま専用の『座敷牢』をご用意したのです」

サリアはきれいな姿勢を保ちながら説明する。


「ザシキロウ…って?」

「わたし達も初めて聞く牢でしたので、ソレメル町長はミツヒデさまに尋ねました。どうやら『座敷牢』とは高位の方が入られる牢だそうで、そのほとんどはご自宅がそのまま牢として使用されるそうです」

「自宅が牢…?」

「はい。つまり、座敷牢とは自宅から出ることが許されない『牢』を言うそうです」

「そんな『牢』があるのね。知らなかったわ」

ニームは無意識に「へぇ…」と声を漏らしていた。


「ですが、ニームさまの自宅である『王宮』はすでに存在しません。そこでソレメル町長はここにニームさまの部屋を再現することを思いついたのです。もちろん、ニームさまの私室を見たことはありませんので想像ですが…」

サリアはクスっと笑いながら答えた。


「そうだったのね。ありがとう。わたしの部屋はこんな感じでしたわ」

ニームもクスっと笑いながら答える。


「それはよかったです」

ニームの言葉はお世辞だと理解しているが、サリアは素直に嬉しそうに微笑んでいた。


「さて、ニームさま。そろそろ『面会』の時間です」

「もう、そんな時間? わかったわ」

ニームはベッドから降りると、乱れた服を直し用意されたイスに座って鉄格子の外側に視線を送る。


しばらくすると老夫婦が、獣人の兵に案内されてやってきた。

老夫婦は兵に促されサリアに近寄る。


「こんにちは。面会時間は15分となっています」

サリアの言葉に老夫婦は「はい」と答え、鉄格子の前に置いてあるイスに腰かけた。

そう、ニームには1日に数回、面会者がやってくるのだ。

面会者は老若男女問わず、そして種族を問わずやってくる。

彼らはこのメルギドに住む住人達だった。


アクロチェア王国は滅んだとはいえ、今までアクロチェア王国の姫として崇められていたニームだ。

住人たちの中にはニームを慕う者もいるだろう。

そう考えたソレメルはノブナガにこう進言した。

「住人たちの中にはニームさまを慕う者が一定数います。その者たちはニームさまが投獄されたと聞くとノブナガさまに反感を持つかもしれません。そこで、投獄期間中、ニームさまとの面会を許可してはいかがでしょうか? それに、ニームさまの牢は王宮の私室を思わせる造りとなっていますので、それを見ればノブナガさまの器量の大きさを感じさせることもできるかと思われます」


これに対しミツヒデも

「ハルマーやギルエを捕らえた今、ニーム殿の名の下、謀反を企てるものもいないでしょう。それに、本能寺で働き始めれば、いつでもだれでもニーム殿に会いに来ます。今、住人たちを遠ざける意味もありますまい」

と、ソレメルの意見に賛成し、ノブナガもそれに同意した。

その後、ノブナガとソレメル、ミツヒデの3名で相談し住人によるニームの面会は1日に数回とし、1回当たり15分の条件で実施することとした。


このため、ニームは1日に数回、住人たちの話し相手をしなければならなくなったのだ。

とはいうものの、ニーム本人も住民たちと話せることが楽しみとなっていた。

なぜなら、王宮で暮らしていた頃は王国民と話をする機会などなく、いつも兄弟かメイド、王宮務めの高官くらいしか話し相手がいなかった。それが今は、さまざまな人と話しができる。

ニームにとって、これほどうれしいことはなかった。


「ニームさま、またやって参りました」

「まぁ、ごきげんよう。クレトさん、メラニアさん」


クレトと呼ばれた男は70代くらいで、いつも妻のメラニアと一緒にニームに面会にきていた。

クレトとメラニアはヒト族で、アクロチェア王国民としてニーム姫を慕っていた。

当時はニームを見ることも声を聞くことも、ましてや話しをするなんて出来るわけがなかった。

毎年行われていたアクロチェア王の年始の挨拶時に、横に立っている王室の方々を遠くから見ていることがクレトとメラニアは至福の時間だった。

このようにアクロチェア王国には一定数の『王室ファン』が存在しており、王室に生まれる王子や姫はまるで自分の孫のように感じる者が多かった。


「ニームさま、体調はいかがですか?」

クレトはいつもこの質問から始まる。


「ありがとう、とても元気ですよ。ここはとても快適ですので、ずっと暮らしていたいくらいですわ」

ニームは冗談交じりに答え、クスクスと笑う。


「ええ、ええ。お顔の色もよいですし、お元気そうでなによりです」

メラニアは細い目をさらに細めて微笑んでいた。


「今日はコレをお持ちしました」

クレトは胸元から小さな包みを取り出した。


「まぁ!ありがとう」

ニームは小さな包みを受けとると「開けてもよろしいですか?」と尋ねる。


「どうぞ、お開けください」

クレトは小さな包みを開けるニームを嬉しそうに見ていた。


「まぁ!これはメルギドの星ですね?」

小さな包みに中には、赤や黄色、オレンジ色をした小さな金平糖が入っていた。


「はい、この町、一番の人気のお菓子です。どうぞ、お召し上がりください」

メラニアがニコニコと笑いながらお菓子を勧める。


「ありがとう」

ニームはメルギドの星をひとつ摘み、嬉しそうに口に運ぶ。


「んんっ。おいしいっ」

ニームの表情がとろけるように緩み、それを嬉しそうにメラニアが見ていた。


「それにしても、ニームさまが地下牢に投獄されたと聞いたときは頭に血が上ったもんですが… こうしてお話しできるし、地下牢もこんなにキレイですし… なによりニームさまがお元気そうで」

クレトはうっすらと涙を浮かべながら言葉を詰まらせていた。


「またその話ですか? おじいさん、いつもその話しばかりですね」

メラニアは軽くため息をつく。


「やかましい。 まあ、でも。ノブナガという男… 案外、いい男なのかもしれんなぁ」

クレトの言葉にメラニアも頷く。


「そうですね。ノブナガさまは、ヒトだけでなく獣人や亜人、魔族、すべての民を大切にしているのですね…」

ニームは以前の王国が行っていた『ヒト種族至上主義』を思い出し少し心に痛みを感じ、この言葉が出てきたのだろう。その目には後悔の念が浮かんでいた。


「クレトさん、メラニアさん。そろそろお時間です」

サリアが静かに声をかける。


「もうそんな時間か。それじゃ、また来ますね」

「はい。お待ちしてます。チトナプの本能寺が出来たら、いつでも遊びにきてくださいね」


老夫婦は軽く会釈すると地下牢を出て行った。

ニームは優しい目で老夫婦を見送っていた。

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