【16話】剛と雷
巫女の見た目を追加しました。
ホニードを撃退し、しばらくすると村人達が集まりお互いの無事を確認すると、ホニードを撃退したノブナガを讃えていた。
「ノブナガもミツヒデも、見たことがない武器を持っているんだね」
ティアが不思議そうに刀を見ていると
「これは刀じゃ。 知らんのか?」
ノブナガは立ち上がると刀を抜き、太陽の光を反射させる。
「ほぁぁ… キレイ…」
ティアは刀に見惚れ、村人たちもうっとりと刀に見入っていた。
「この刀はの、ワシの為に特別に打たせたモノじゃ。 ミツヒデの刀と比べてみよ」
ミツヒデも刀を抜き、ノブナガの刀と並べて見せた。
「ワシの刀は普通の刀よりも少し長く、厚い。そして、重心を普通よりも刀の先の方にしているのじゃ。ミツヒデの刀も特別に打たせたもので、長さや厚さは普通じゃが、重心を手元よりにしておる」
ノブナガの刀はミツヒデの刀よりも3cmほど長く、厚さは1.2倍位あった。
「そして、ほれ。見てみろ」
ノブナガは刀の角度を変えて見せると、そこには恐ろしいほど美しい刃紋が浮かび上がっていた。
「刀の良し悪しは刃紋で判るのじゃ。これほど良い刀はそう無いぞ」
ノブナガは刀の角度を変えながら、刃紋をうっとりと見ていた。
「へぇ、ハモン… コレが?」
ティアがそーっと手を伸ばそうとした時、
「ティア、やめておけ。 お主の手が無くなるぞ」
「ひっ!!」
ティアは慌てて手を引っ込めて、まだ手が有るか確認していた。
ノブナガは近くに落ちていた葉っぱを拾い
「見ていろ」
と、言って刀の上から葉っぱを落とした。葉っぱはフワフワと揺れながら刀の上に落ちると、なんの抵抗も無く2つに分かれて地面に落ちていった。
「えぇ!! な… なに?」
村人たちはあまりの出来事に理解が追いつかず、ただ地面落ちた2つの葉っぱを見ているだけだった。
「ワシの刀も、ミツヒデの刀も刃紋に触れると、この葉のようになる。 みな、気をつけるのじゃぞ」
ノブナガは村人たちを見て、ニヤリと笑い刀を鞘に戻した。それを見てミツヒデも納刀しノブナガの背後に控えた。
ノブナガはドカっと座り話し出した。
「ワシの剣は鉄をも斬る『剛の剣』じゃ。 そして、ミツヒデは神速を誇る『雷の剣』。ミツヒデに斬られた者は、自らが斬られた事にすら気付かずに死んでいるだろう」
「勿体なきお言葉でございます…」
ミツヒデは頭を下げる。
「ワシら武将は1対1より、1対多で戦う事が多いのじゃ。 じゃから、各々が得意な技を持ち戦場を駆ける。そうやってワシらは戦い続けてきたのじゃ」
「左様でございますな。利家殿の朱槍! 思い出しますなぁ。 あれほど勇猛な武将はおりますまい」
ミツヒデは懐かしそうに、信長の下で一緒に戦ってきた友たちを思い出していた。
「あぁ、又左か… あやつが森部の戦で『頸取り足立』の首を取ってきた時は、ワシも驚いてしまったわ」
日の本で戦を懐かしむように思い出し笑っていた。
「ノブナガにもたくさん仲間がいたんだね」
ティアがニコニコしながらノブナガを見ると
「うむ、たくさんいた。あやつらともう一度、戦場を駆けたいものじゃ」
「そのお仲間は? どこにいるの?」
ティアが聞くと、
「ん? あぁ、遠い… とても遠い異国じゃ」
ノブナガは少しだけ寂しそうな顔をして笑った。
「…そう」
ティアは寂しそうな顔になると、それ以上何も聞かなかった。
「ん? ティア。何か勘違いしておらんか? ワシは仲間との事を懐かしいとは思うが、この世界に来たことを後悔はしておらんぞ」
「え? でも、もうお仲間とは…」
ティアが驚いたようにノブナガを見ると
「確かにワシはあやつらとはもう会えん。じゃがな、ワシの仲間は向こうでワシの後を継ぎ泰平の世を成しておる。 ワシは向こうで成すべき事を為してきたのじゃ。 次はこの世でワシはワシが成すべき事を成す。その為にワシはここに来たのじゃ」
ノブナガは不敵な笑みを浮かべると、ミツヒデを見た。
「左様でございます。ノブナガさまはここに『成すべき事を成す』為に来られたのです。 わたしはそのお手伝いに参りました」
ミツヒデは刀を置き、ノブナガの前で膝をついて頭を下げた。
「そうか… そうなんだ。 ノブナガもミツヒデも強いわけだ」
ティアは微笑んで2人を見ていた。
「ノブナガさま、ミツヒデさま。申し訳ありませんが、わたし達はまだ今日のお祈りの途中だったのです。 これから巫女さまの下に戻り、祈りを捧げて参りたいと思います」
イルージュは申し訳なさそうに声をかけてきた。
「おぉ、そうじゃったのか。 それではワシもその巫女の舞とやらを見させて貰ってもよいか?」
「えぇ、もちろんです」
イルージュはニコッ笑うと、ノブナガ達を巫女の下に案内した。
そこは村の一番奥にある建物だった。
村人たちは雨漏りがしそうな小さな家に住んでいるが、巫女が舞う建物はしっかりとした立派な木造建築で、赤や金で装飾された寺院のようだった。
「おぉ! これは立派な寺じゃ!」
ノブナガもミツヒデも、場違いなほど立派な建物に驚きを隠せなかった。
「ん? アレは?」
ミツヒデは建物の屋根近くにある『三つ目』のマークのような装飾を見つけた。
「え? あれはロア・マナフさまのシンボルでもある『三つ目』ですよ? 教会には、みなあのシンボルが描かれてるじゃないですか。 あれ? もしかして絵が下手過ぎましたか?」
イルージュは不安そうにミツヒデを見る。
「あ、いや、そういう訳では… は、早く巫女さまがお待ちになっていますよ。 急ぎましょう」
ミツヒデは慌てて誤魔化すと、イルージュに案内を急かした。
イルージュは、そうですね…と話しながら建物へノブナガ達を案内する。
「ここで巫女さまはお暮らしになり、毎日、ロア・マナフさまへ舞を捧げているのです」
イルージュはそう説明し、「こちらへ」とノブナガたちを建物の中に案内していった。
建物に入ると窓から差し込む太陽の光で、明るく暖かな感じに包まれていた。
しばらく進むと大きな扉があり、イルージュがそっと開けて中に入る。
そこは広い大きな部屋で、壁に光る石が取り付けてあり薄暗いものの、人が動くには問題のない明るさだった。部屋の奥に一段高い舞台があり、赤や青、金色で装飾された祭壇が祀られ、中央に紫水晶が祀られていた。
部屋の天井には天窓が付いており、舞台にスポットライトを当てているように太陽の光が降り注いでいた。
ここは祭壇と舞台を際立たせるように計算された部屋だった。
舞台の上にはブロンドの髪を緩くカールした若い女が、祭壇に向かって祈りを捧げていた。
「巫女さま、ただいま戻りました」
イルージュが声をかけると、
「みなさん、ご無事でなりよりです」
巫女は振り向いて青い目で優しく微笑む。
「…ヒト…か?」
ノブナガは小さな声でつぶやくと
「うん。巫女さまはヒトだよ。 巫女さまはこの村に辿り着いてから、ずっと変わらぬお姿で舞ってくださっているのよ」
ティアが小さな声でノブナガとミツヒデに説明していると
「では、お祈りの続きを致しましょう」
巫女は祭壇に向き直り祈りを捧げ、舞い始めると村人たちは舞台の下へ移動し祈りを捧げる。
「さぁ、ノブナガ、ミツヒデも」
ティアはそう言って舞台の下へ向かっていった。
「ミツヒデ、確か巫女が来たのは300年前じゃとティアは言っていたな?」
ノブナガは小声でミツヒデに問いかけると
「はい。その通りです」
「アレはなんじゃ? あの巫女はどう見ても18〜19の娘じゃ」
「わかりませぬ。この世界のヒトは300年以上も生きるのでしょうか?」
「わからぬ…」
ノブナガは鋭い目で巫女を見ていた。