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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
大和の国
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【1話】ノブナガの政策

アクロチェア王国の王都『アクロザホルン』陥落から1年が経過した。

王都陥落後、各地に出撃していた騎士や戦士団が次々と王都に帰還し、多少の混乱はあったもののミツヒデを筆頭に元王都を任された元ロイヤルナイツのマーナガルム(元ミナスリート)、モニカ、フレカ(元リダ)の指揮下に入ることで落ち着きを取り戻していた。

その後、何度かガザム帝国やアクスムーン法王国から攻めれることがあったが、いずれも小規模な『小競り合い』程度であったことと、『魔道銃』の威力により被害はほぼ無かった。

これくらいの被害で済んだ背景としては、『魔道銃』が威力を肌で感じた両国への抑止力となり大規模な侵攻へ発展しなかったことも大きいのだろう。


現在、アクロチェア王国は『大和の国』と名を変え、ノブナガのもと新体制で統治されていた。

宿場町だったメルギドは大和の国の首都『メルギド』となり、アクロザホルンは『アクロ』と名を変えミツヒデに統治される都市となっていた。


アクロの都市の中央には、巨大な黒い城が建っていた。

ここは元王宮があった場所で、ミツヒデの指揮のもと魔法のチカラを使うことで短期間での築城に成功していた。


今、この黒い巨大な城の望楼からミツヒデは城下町を眺めていた。


「都市アクロも以前の賑わいを取り戻してきましたね…」


「そうだね。この前、都市の空を飛んでみて回ったけど、以前のアクロザホルンよりも賑やかなんじゃないかな? ヒトだけじゃなく、獣人や亜人もたくさんいる」

ミツヒデの肩には美しく長い尾をリズミカルに動かしている鳥が止まっていた。


「左様でございますな。 これもノブナガさまのおチカラ。みながノブナガさまを慕い、集まるのです」

ミツヒデは城下から目を離すことなく、うれしそうに話していた。


「でもさ、まさか魔物まで町に住むようになるなんて思いもしなかったよ」

ロアはクスクスと笑いながら、長い尾を楽しそうに揺らしていた。


「ところで、ロア殿はなぜここに?」

ミツヒデはロアを指に乗せ、目の前に移動させて話しかけた。


「だってさ、ノブナガさんったらボクを鳥かごに入れたまま放置するんだよ? せっかく分身体を作ったのにさぁ。ヒドイと思わない? だからさ、ボク、ノブナガさんに言ったんだ。『ミツヒデさんのところに遊びに行ってくる』って」


「で、ノブナガさまなんと?」


「『好きにしろ』 だってさ」

ロアはプイっと横を向いて拗ねてみせた。


「ははは。 ノブナガさまらしいですな」

ミツヒデは楽しそうに笑っていた。


「でね、その後、『ミツヒデの所に行くなら、一度メルギドに来いと伝えよ』だってさ。 ボクは伝書鳩じゃないっつーの!」

ロアは怒りを表すように羽をパタパタと羽ばたかせていた。


「おお、左様でございますか。 ならば、急ぎメルギドへ向かわねば」

ミツヒデは嬉しそうに部屋の奥へ入っていった。



◇◇◇◇


「うむ…」

ノブナガは安土城の八角堂で、腕組みをしながら机の上にある紙を睨むように見ていた。


「ソレメル、これは誠か?」

ノブナガは机の紙から目を離し尋ねる。


「はい。 全て確認しました。 間違いありません」

ソレメルの答えにノブナガが満面の笑みを浮かべた。


「素晴らしい! やはり『楽市楽座』は商人たちを活気づかせるのぉ」

ノブナガは王都攻略後メルギドに帰り、まず始めたのが『ギルド』の撤廃だった。

いきなり大和の国全体でギルドを撤廃するにはリスクもあるため、まずはメルギドだけで実施していたのだ。

アクロチェア王国で商売をするためには、その商売を取り仕切っている『ギルド』にお伺いをたて商売をする承認を得る必要があった。

これはノブナガが日本にいたころにもあり、『座』とよばれる組合のような組織だった。

このような組織が商売を取り仕切ることで、商人達はある程度の安定した収入を得ることができるという利点があった。

しかし、商売を始めるにあたって組織への入会費や毎月の会費などが必要であり、なんとか会費を支払ったとしてもそれに見合う収入がなく商売が成り立たなくなるなどのトラブルが発生していた。

そしてなにより組織長が権力を持つようになり、組織長の意に沿わない商人は排除されるようになり『自由な商売』ができなくなってしまうのだ。


ノブナガはこの組織『ギルド』を撤廃することで、民が自由に商売を行える環境を作り上げたのだった。


アクロチェア王国の時代は、メルギドだけでなく各町ではヒト種族だけが優遇された生活を送っていた。

その陰では獣人や亜人が虐げられ、なかには奴隷として強制的に使役されるものもいた。


だが、現在の大和の国になり、ヒト種族だけでなく獣人や亜人、魔族までもが自由に平等に暮らし始めた。

これにより町の人口は単純に3~4倍に増え、あらゆる種族が暮らすことでさまざまな需要が現れ『商売の幅』が大きく広がったのだ。


そしてメルギドで一番効果を発揮したが、安土城見学という『観光』だった。

メルギド付近の町や村だけでなく、遠く離れた町やガザム帝国、アクスムーン法王国の町からも観光客がやってくるようになっていた。

また、ヒトだけではくドワーフやエルフ、魔族も観光にくることもあった。

このように遠方から観光客が来ることで宿泊や食事、お土産販売などが繁盛し始めた。

そこに『ギルド撤廃』を実施したため、メルギドではノブナガもびっくりするほどの経済効果をもたらしていたのだった。


「ところでノブナガさま。ギルドの撤廃による経済効果の大きさはよくわかりましたが、『冒険者ギルド』はそのままでよかったのですか?」


ノブナガはパン販売や宿屋、鍛冶屋などあらゆる商売を取り仕切るギルドを廃止した。

だが、『冒険者ギルド』だけは手を付けなかったのだ。

ソレメルとしては冒険者ギルドも廃止することで冒険者に憧れる者は誰でも冒険者になれ、各冒険者がさまざまな仕事を請け負えるようになれる。

また、冒険者へ仕事を依頼する商人や町の者たちも、ギルドへ払う『仲介料』がなくなり仕事の依頼がしやくるなるのではないか… と考えていたのだ。

だから、ソレメルはノブナガが冒険者ギルドだけを残したことが不思議だった。


「冒険者ギルドか… 理由は3つある」

ノブナガは3本の指を立て、ソレメルに説明を始めた。


「まず、冒険者ギルドの『役割』じゃ」


「『役割』…?」


「うむ。確かに、冒険者ギルドを廃止すればどんな者でも冒険者となり仕事を受けることができるじゃろう。じゃが、その仕事の難易度がその冒険者の力量に適しているかはわからん。 そうなると自分の力量も分かっておらん冒険者は死ぬことになる。 変に力を持った冒険者ほど、自分の力量を見誤ってしまうものなのじゃ」


(あの大男も相手の力量も分かっておらんなだな…)

ノブナガは初めて冒険者ギルドで出会った大男を思い出していた。


「2つめに『仕事の配分』じゃ」

ノブナガは腕を組んで説明を続ける。


「例えばとても優秀な冒険者がいたとする。仕事を依頼する商人や町人達は当然その優秀な冒険者へ仕事を依頼したいじゃろう。そうするとじゃ、その優秀な冒険者ばかりに依頼が集中し、他の冒険者は仕事を受けることもできず力量が上がらなくなる。それが続くと冒険者間の力量の差は開くばかりとなり、不要な軋轢を生む要因となるのじゃ」


この説明を聞いたソレメルが小さく手を上げて発言する許可を求めると、ノブナガは黙って頷き発言を許す。


「それは商売人にも同じことが言えるのではないでしょうか?」


「うむ。そうじゃな。 じゃが、商人はその『差』を埋めようと知恵を絞り、あの手この手で商売をする。じゃが、冒険者はその『差』を埋めるために自分の力量以上の仕事に手を出すようになる。そうなれば、その冒険者に待っているのは『死』じゃ。反対に商人は創意工夫を何度も繰り返しても死ぬことはない」


「なるほど、確かにノブナガさまのおっしゃる通りでございます。 で、3つめの理由をお聞かせ願えますか?」

ソレメルは何度も頷きながらノブナガの話しを聞いていた。


「最後の理由は、冒険者ギルドの情報収集力じゃ」


「情報収集力?」


「そうじゃ。ソレメル、冒険者カードというモノを知っておるか?」

ノブナガは自分の冒険者カードを取り出し、ソレメルに見せる。


「はい。もちろん知っております」


「うむ、ならば、このカードにはその冒険者が戦った相手の情報が記録されておることは?」


「ええ、もちろん。 草原や荒野などで冒険者の亡骸を見つけた場合は、その冒険者カードを持ち帰り冒険者ギルドに持っていくことで、その冒険者がなぜ死んだのか?どれくらいの数の魔物に襲われたのかもわかるようになります。 その情報をもとに冒険者ギルドは魔物討伐の依頼を… なるほど!」

ソレメルはそこまで話し、ノブナガの意図を理解した。


「そうじゃ。この国ではラーヴワスと共にきた魔物… 『魔族』もワシらと共存できておる。じゃが、まだまだヒトを襲う『魔物』は多く、ワシらと『共存』できん『魔物』がいることも事実じゃ。 それにの、冒険者カードが記録するのは『魔物』だけではない。 その冒険者が戦った相手がすべて記録されておる。つまり、『ヒト』や『獣人』『亜人』も記録されるのじゃ。 もし、その冒険者がたくさんの『ヒト』と戦い死んでいたら… その相手は単純に『ヒト』ではなく、特別な『意味』を持つかもしれん」

ノブナガは眉間に皺を寄せながら話す。


「特別な意味… とは?」


「敵じゃ。 この国に刃を向けようとする敵国の可能性が出てくる」


「敵!?」


「じゃから、冒険者ギルドはこのまま残し続けておく方が、ワシらにとっても得策なのじゃ」

ノブナガはソレメルに笑顔を見せて説明を終わった。


「なるほど… 冒険者カードから、ざまざまな情報を読み取ることができるのですね…」


「うむ。戦は金と情報じゃ。戦が始まる前に勝敗は決まるものなのじゃ」

ノブナガはそう言い高笑いしていた。


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