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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【66話】天下布武

アクロチェア国王はミツヒデに捕らえられ、両手を後ろ手で縛られるとノブナガの前で両膝をついて頭を垂れていた。


ここはノブナガ軍の本陣。

中央に置かれた簡易なイスにノブナガが座り、両脇をミツヒデとホニードが固めている。

国王の側面にはラーヴワスとセミコフ、バハカイ、ユソルペが立ち、反対側にはアネッサとティア、パルたち月女族が並んでいた。


国王の後ろでは武器を外したミナスリートとモニカが膝をついて、ノブナガの言葉を待っていた。


「貴殿がノブナガ殿か?」

アクロチェア国王は哀れみを乞うような眼でノブナガを見上げた。


「うむ」


「私は()()国王である。 現アクロチェア国王と貴殿とのやり取りは、()国王の中から見ていた。 私と現国王とは別なのだよ」

ついさっき、ミナスリートらに『自分は初代国王であり、現国王でもある』と言っていた事を忘れたかのような発言をし、愛想笑いを浮かべると言葉を続けた。


「我が子孫ながら、臣下の不始末を見て見ぬふりをし、ノブナガ殿へ兵を仕向けるとは… いや、私もビックリしていたのだ。 だが、その()国王は私の依り代となり、すでにこの世にはいない。 どうだ? ノブナガ殿、初代国王である私と共に世界を取らないか? 貴殿と私が手を組めば敵などおるまいよ」


国王の言葉を聞いたノブナガは「ふむ…」と考えると、アネッサに声をかけた。

「アネッサ、この者は()()()()だと言う。 この者も魔法で()()()()()()()ということなのか?」


アネッサは少し考え、ミツヒデを見た。

「うー…ん。 ねぇ、ミツヒデ。この初代国王が現れた時の状況を、もう一度教えてくれない?」


「フレカ殿が国王に光の矢を放った時でした。突然、国王から青紫の霧が出たのです。 その霧は国王に吸い込まれるように消えると『国王』が消え、この『初代国王』が現れたのです」

ミツヒデの説明を聞き、アネッサは少し考えてから答えた。


「ノブナガ。これは『魔法』というより『呪い』に近いかもしれない」


「呪いじゃと?」


「えぇ。 おそらくこの初代国王は代々国王に憑りついていたのでしょうね。 隙を見つけて国王の体を乗っ取り、また王の座に返り咲こうとしていた… でも、歴代国王の体を乗っ取ることができなかった。 今回、フレカの光の矢の攻撃を受けて、現国王が隙を見せたんじゃないかな? もしかすると、ロイヤルナイツの武器で国王に傷ひとつ付けられないという事実を、現国王は知らなかったのかも。 だからフレカの攻撃を受けた時、いままで見せなかった隙をみせてしまい、体を乗っ取られてしまった…」

アネッサはそこまで話すと、初代国王をジロリとみて言葉を続ける。


「そんなところかしら?」


「ほぉ、女。 お前はなかなか博識のようだな」

初代国王は感心したようにアネッサを見る。


「ありがとう。 でも、貴方に言われても、全然嬉しくないの」

アネッサは不機嫌そうに答えていた。


「なるほど。 この世界にはワシの知らぬ事の多いことよ」

ノブナガは興味深そうに初代国王を見ていた。


「ノブナガ殿、どうだ? 私はこの国… いや、この世界のさまざまなこと知っている。 私と手を組まんか?」

初代国王は両膝をついたまま、ノブナガににじり寄った。


「そうじゃな…」

ノブナガがそうつぶやきながら立ち上がると、ラーヴワスが叫んだ。


「ノブナガ!! そいつはオレを騙し、オレの仲間を殺した! オレはそいつを許さない!」

ラーヴワスが叫びながら、一歩前に踏み出そうとした。


「まぁ、待て」

ノブナガは手を上げてラーヴワスを制止すると、横に置いていた刀を手に取った。


「な?! ま! 待て! 待ってくれ! 私の話を聞いてくれ!」

慌てた初代国王は後退りしながら、ノブナガに必死に話しかけようとしていた。


「お主はこの王国の王。 そして此度の戦でお主は負けた。 ならば、王は王らしく首を差し出せ」

ノブナガは刀を抜き、ゆっくりと初代国王に歩み寄る。


「ま… 待ってくれ! 話を! 話を聞いてくれ!」

初代国王がノブナガとの距離を取ろうと後退りしていると、ミツヒデとセミコフが国王を両脇から挟み背中を押し倒して強引に首を差し出させた。


ノブナガは初代国王の横に立ち、刀を振り上げ構える。


『ざしゅ!』


ノブナガの刀は振り降ろされ、初代国王の首は地面に転がり落ちた。

初代国王の体からは大量の血が噴き出し、あっという間に辺りは血の海となる。


ティアは黙って見ていた。

アネッサが心配そうにティアを見ているが、それに気が付いていないのかティアは微動だにしない。


「ティアさん… 大丈夫?」

アネッサが声をかけるとティアは静かにうなずくだけで、血の海に沈む初代国王の体から目を離さずにいた。

そんなティアをパルたちは、ただ見守るだけ。


「ねぇ、ノブナガ…」

ティアは初代国王から目を離すことなく、ノブナガを呼んだ。


「なんじゃ?」


「あたし、何が正しいのか分からなくなった…」


「ほう、お主は、今まで『何が正しい』のか分かっていたような物言いじゃな」

ノブナガの返答にティアはキッとノブナガを睨んだ。


「あたしはノブナガに従うことが『正しい』って信じてた。 でも、今回、王都に火を放ち多くのヒトを殺してしまうところだった。ノブナガは言ったよね? 王都には『兵士』しかいないって! だから、王都に残っている『兵士』は躊躇なく殺せって! でも!王都にはたくさんの普通のヒトが居たわ! 赤ちゃんを抱いたお母さん、小さな子供の手を引くお父さん、お年寄りもたくさん居たのよ!」

ティアは肩で息をしながら声を荒げた。


「あたし… 本当は誰も殺したくない。 でも、戦争だから… 敵が仲間を殺しにくるから… だから、『敵』を殺し『仲間』を守ってきた。 巫女さまが言ってたわ。 『あたし達から見れば、あたし達は正しい。でも、敵から見ればあたし達は間違っている』って」

ティアは涙を浮かべながらアネッサを見て、ノブナガを見た。


「うむ。 ティア、アネッサの言うことは正しい。 この世に『正しい』は無いのかもしれぬ。 だから、ワシらは『自分が正しいと信じるもの』のために戦うのじゃ」

ノブナガは刀の血を払い拭き取ると鞘に戻し、簡易なイスに座った。


「自分が正しいと信じるもの?」

ティアは小さな声でノブナガに尋ねる。


「そうじゃ。 ワシはこの王国は間違っていたと考えておる。獣人と言うだけでお主らは虐げられてきた。 ヒトは毎日、余るほどのうまい飯を食い、お主らはカエルやバッタを食っていた。しかも、魚すら食ったことがないと言う」

ノブナガは立ち上がるとティアの下に歩み寄る。


「ワシは、この世に泰平を築くべく戦うと決めた。 民は泰平の世で笑って生きなければならぬ。そのためにワシは天下布武を掲げたのじゃ」


「天下布武?」


「あぁ。天下布武とは、天下に武… つまり『徳』を布くことで、すべての民が等しく笑って生きれる世にすることじゃ」


「『徳』って?」

ティアは涙声で尋ねた。


「『徳』とは、『7徳』じゃ。 1つ、暴を禁じる。 2つ、戦を止める。 3つ、大を保つ。 4つ、功を定める。 5つ、民を安じる。 6つ、衆を和す。 そして、7つ、財を豊かにする。 これら7徳を天下に布くことで世は泰平となり、すべての民は等しく笑い豊かに生きることができるのじゃ」

ノブナガはティアの肩に手を乗せ、諭すように話していた。


「でも… そのために、誰かを殺すの?」


「…そうじゃな。 これはワシが『正しい』と考えておることじゃ。 当然、それを『間違い』じゃと考える者もおるじゃろう。 なれば、お互いの『正しい』を賭けて戦うしかあるまい。 そうして戦いの先に、ワシが考える『正しい』が皆が考える『正しい』になり、やがてこの世から戦がなくなり泰平の世が訪れるのじゃ」


「だから、『今』は戦わなければならない…」

ティアは自分に言い聞かせるようにつぶやく。


「うむ。 その通りじゃ」

ノブナガはティアの肩から手を離すと、空を見上げた。

空は青く、遠くに鳥が飛んでいるのが見えた。


「それが、ワシが成すべきことなのじゃ」

ノブナガは天に誓うようにつぶやいていた。



「ノブナガ殿」

ミナスリートがノブナガに声をかけた。


「お主はロイヤルナイツの… ミナスリートであったな」


「はっ。 国王亡きあと、私はもうロイヤルナイツではありません。 私はマーナガルム。貴殿の言葉に感銘いたしました。 一度は刃を向けた者でございますが、何卒、私をノブナガ殿の仲間の末席に置いていただきたくお願い申し上げます」

ミナスリート改め、マーナガルムは膝をつき頭を下げる。

それを見たモニカも慌ててマーナガルムの横で膝をつき頭を下げ


「わ… わたしは… モニカ…。 ロイヤルナイツの時と、お…同じ名前です。 わ… わたしの…両親が… わたしがロイヤルナイツになった… 時も、困らないように…と、モニカとな…名付けてくれました。 わ… わたしも、ど…どうか、お仲間に… お願い…します」

モニカはおどおどしながら、ノブナガに懇願していた。


ノブナガはしばらく沈黙し、二人を見ていた。

マーナガルムとモニカは、頭を下げ続けノブナガの言葉を待つ。


「うむ。 わかった。ワシと共に来い」

ノブナガの言葉を聞いたマーナガルムとモニカは、ぱぁと顔を輝かせノブナガを見上げると、もう一度深く頭を下げ


「「この命、御身と共に」」

と、ノブナガに忠誠を誓うのだった。





(数か月後)


戦いが終わった王都にはミツヒデと、ラーヴワスが残ることとなった。

王宮跡地には城を建築することとなり、ミツヒデは安土城を築城したノウハウから魔法による効率的な建築作業を行っていた。


王都には元ロイヤルナイツのマーナガルムやモニカ、フレカが残ることで各地から帰還した騎士団や戦士団たちも大きな混乱もなく日常を取り戻しつつあった。


一方、王都に住んでいたヒトの半分が王都から離れ、近くの町や村へ散っていった。

だが、これまで王都で奴隷として使われていた獣人や亜人が、戦禍時の救助活動を認められ市民権を得て新たな住民として暮らしていた。

また、ラーヴワスが連れていた魔族や付近に隠れ住んでいた獣人達も王都に住むようになり、ここはまるでメルギドのようにヒトも獣人も魔族も一緒に暮らす賑やかな町になりつつあった。



「ところでミツヒデ」

ラーヴワスは建築作業の指揮をとるミツヒデに声をかけた。


「はい、なんでしょうか?」


「次はどんな城を作るんだ?」


「そうですねぇ。 安土城はノブナガさまの好みである『豪華絢爛』で『奇抜』な城にしましたが、今回はわたしの好む城を建てよとのご命令ですので、黒を基調とした城にしようかと考えております。 この王都にふさわしく大きな黒い城。 いずれノブナガさまに入城していただけるよう、見たこともない城がいいですね」

ミツヒデは、それは楽しそうに話していた。

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