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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【65話】アクロチェア王国の最後

「久しいな」

()()()()()()()()()()はラーヴワスに話しかけた。


「あぁ、まさか生きている… と言っていいのか?」

ラーヴワスは苦笑いを浮かべ、軽口をたたいた。


「どうだろうな? それは私にもわからん。 だが、こうして話ができるということは『生きている』といっても過言ではないだろう」

初代アクロチェア国王は、とても上機嫌で話していた。


「ラーヴワス殿、これはいったい?」

ミツヒデも状況が分からず困惑している。

そのミツヒデもよりも困惑… いや、混乱していたのがロイヤルナイツの3人だった。


「あ… あなたは、『初代』国王さま…なのですか? 確かに国王と面影は似ていますが…」

ミナスリートはどう対処すべきか考えながら話しかけていた。


「うむ。私は初代国王アクロザホルン・ルドベレス・アクロチェアである。 お前たちはロイヤルナイツの子孫であるな? 私に従え」

初代国王は胸を張り、右手を前に出してミナスリート達、ロイヤルナイツの3人に命令した。


「お… 恐れながら、現国王はどうなされたのでしょうか?」

現国王は青紫の霧に包まれたかと思うと霧を全身で吸い込み、今目の前にいる『初代国王』に代わってしまったのだ。


「ん? アレは私の依り代として利用した。 よって、私は『初代国王』であり、『現国王』でもあるのだ」


「そ… それは…」

ミナスリートはかなり困惑した顔をしていた。

ミナスリートが忠誠を誓ったのは『現』国王であり、『初代』国王ではない。

だが、『国王』に忠誠を誓うと言うことは『アクロチェア王国』に忠誠を誓っているのと同義であるため、『現』国王でも『初代』国王でも同じとも考えられる。

とは言いながら、ミナスリートも人間である。

そう簡単に割り切れるものでなかった。


「アクロチェア国王、オレはあんたと再会できて嬉しく思うよ」

ミナスリート達が混乱している中、ラーヴワスは不敵な笑みを浮かべながら初代国王を見ていた。

ただ、いつもと違うのはラーヴワスの目が怒りに満ちていたことだった。


「あぁ、ミス・ラーヴワス。 お前とお前の仲間たちはいい働きをしてくれた。おかげで獣王ザザンは倒れ、王国民は裕福な暮らしをできるようになった」

初代国王はウンウンと満足そうにうなずく。


「黙れっ!! てめえのせいで、オレの仲間たちは全員が無実の罪をなすりつけられて殺された!」

ラーヴワスの叫びが玉座の間に響いた。


「アレらは魔法の武器に『魔法を再注入する』とウソをついて戦士たちを騙していたのだ。 我々はそれを罰したのみ。それはお前も認めたことだろう?」

そう答える初代国王の目はいやらしく歪み、その態度は明らかにラーヴワスをバカにしたものだった。


「てめぇ…」

ラーヴワスのガマンは限界をとうに過ぎていた。


「ぶっ殺してやる!」

ラーヴワスの叫びと同時に初代国王に突きを放った。

ラーヴワスの赤い棍は初代国王に向かって伸び、かなり距離があった初代国王を強襲した。


ミナスリートとモニカは混乱していたこともあり反応が遅れ、ラーヴワスの赤い棍は二人の間をすり抜けて初代国王へ突き刺さった… かに見えた。

だが、棍は初代国王の手前で、まるで見えない壁にぶつかったように止まっていた。


「なに!?」

ラーヴワスは驚き目を見開く。


「ふふふ。 そんな強力な魔法の武器を開発するのに、私がなんの対策もしていないはずが無いだろう? ()()()ロイヤルナイツの武器では私には傷ひとつ付けることすらできん」


「どういう事だ!?」


「お前達に持たせた魔法の武器は、あの獣王ザザンをも倒せる武器なのだ。 そんなモノを『忠誠』や『信頼』だけでお前達に持たせて、もし反逆されたらどうする? 私はそこまでバカではない。魔法武器開発局には、ロイヤルナイツに持たせる武器で私に傷をつけることができないよう制限をつけさせていたのだ」

初代国王は得意そうに話す。


「制限だと…?」


「あぁ、ミナスリートとリークは王国へ忠誠心が強い、モニカは力で抑えされる。だが、ギルエは忠誠心よりも正義感が強過ぎ、リダは忠誠心すらなく自尊心が強過ぎる。そして、お前だ。ラーヴワス、お前は野心が強過ぎた。そんな者たちに、『強力な魔法武器』を『なんの制限もなく』持たせておくわけにはいかんだろ?」


フレカは、ハッとした顔でラーヴワスと初代国王を交互に見てつぶやいた。

「え?待って? つまりラーヴワスはロイヤルナイツで、この武器は神から授かったモノではなくて、あんたが作らせた『魔法の武器』だったってこと?」


「そうだ。 だから、お前の光の矢も私には届かなかっただろう?」

初代国王はフレカを見て答えると、言葉を続けた。


「まぁ、お前達にとって私は『神』のような存在だ。 つまり、『神から授かった武器』で間違いないのではないのか?」

初代国王は、「くくく」と笑いながら話していた。


「まさか、ギルエの話しは全て本当だったなんて…」

フレカは手で口を隠し、驚きを隠せずにいた。

同じように驚きを隠せずにいたミナスリートは、大剣の切先をラーヴワスに向けながら国王を守るように立ち位置を変えた。


「ミナスリート、よい判断だ。 モニカ!! お前もロイヤルナイツとしての使命を果たせ!」


「ひゃい!!」

国王の怒声とも聞こえる声にモニカはビクっと反応し、慌ててミナスリートの横に立つ。


「国王さま」

その時、ミナスリートが静かに国王を呼んだ。


「なんだ?」


「恐れながら、確認させてください。 先ほどのお話ですと、あの極悪人であるラーヴワスもロイヤルナイツの一員であった… と、いう事で間違いありませんか?」

ミナスリートはラーヴワスの動きをけん制しながら尋ねる。


「うむ。確かに、ラーヴワスは初期のロイヤルナイツメンバーであった」


「なるほど。では、先ほどのラーヴワスとの話しですが、『ラーヴワスとその仲間たちがいい働きをした』とはどういう意味なのでしょうか?」

ミナスリートの声は静かに、そして冷静に事実だけを読み取とうとしているようだった。


「ふむ… 当時、獣王ザザン討伐するためにラーヴワスは戦い、仲間たちは魔法の武器に『魔法を再注入』する仕事をさせていたのだ。 だが、こいつらは私への恩を忘れ、戦士たちを騙し私腹を肥やしていたのだ。 それらは全てラーヴワスの指示であったと、そこのラーヴワス本人も認めていることだ」

国王の説明を聞いたミナスリートはため息を吐き、構えていた大剣を下した。


「な! 何をしている!」

国王が叫ぶと、ミナスリートはくるりと振り返り国王を蔑むような眼で見た。


「あなたは、わたしが忠誠を誓った『国王さま』ではないようです。 わたしの家にも『御伽噺』は伝わっています。どうやら、ギルエが言っていたように『御伽噺』は『真実』で、『王国の歴史』は『ニセモノ』だったようですね…」


「な… なにを言っている! お前はロイヤルナイツ! 私に従うのが使命だ!」

国王が叫ぶがミナスリートはため息を吐き、モニカはおどおどしているだけだった。


「魔法の武器に魔法を再注入する? そもそも武器に付与された魔法は消えることはありませんし、上書きすることもできません。 そんな常識も知らないのですか?」

ミナスリートの問いかけに、国王は答えられなかった。

それは当然のことだった。

当時、『魔法の武器』と言えば神話の時代から存在する極めて稀な武器しかなかった。

そんな時代に、アクロチェア王国の魔法武器開発局が初めて『人工の魔法の武器』の開発に成功したのだ。

それも成功したのはロイヤルナイツが使用している6つの武器だけ。

一応、いくつかの魔法の武器の制作は出来たが、『魔法の武器』と呼ぶのおこがましいような微弱な魔法付与が出来ただけだった。

それから長い年月が過ぎ、魔法の武器も一般的になった現在。


開発に成功した当時しか知らない『初代国王』に、魔法の武器の常識を知る術はなかったのだ。

いや、正確には代々取り付いてきた歴代の国王の内側からみることは出来ただろう。

だが、『初代国王』はそれをしなかったのだ。


ミナスリートはゆっくりとラーヴワスの横に立ち、国王に向かって大剣を構えた。

どうしていいか分からず、きょろきょろしていたモニカも慌ててミナスリートのもとに走り寄りチェーンで防御態勢を整える。


「いいのか?」

ラーヴワスがミナスリートに声をかけると、ミナスリートはニコっと笑い


「残念ですが、私が忠誠を誓った『国王さま』は亡くなられてしまったようです。 あそこにいるのは『国王さま』の仇です」


「なるほど。 それなら、一時休戦としようか」

ラーヴワスも笑い武器を構える。


「そうですね。 ですが、どうやら私たちの武器では傷ひとつ付けられないそうです」


「あぁ、そうだな。()()()()なら… な」

ラーヴワスが凶悪な笑みを浮かべる。


「なるほど、確かにそうですね」

ミナスリートもラーヴワスの意図を理解し、ニヤリを笑った。


「き! 貴様ら!! 私は国王だぞ! 国王に歯向かうのか!!」

初代国王は叫ぶが、すでに初代国王を守るロイヤルナイツも騎士もだれもいなかった。


ラーヴワスとミナスリートは武器を納刀し、指を鳴らしながら初代国王に向かって歩き出す。


「き!! 貴様!! ロイヤルナイツの使命を果たせ!!」

初代国王は後退りしながら叫び続けていた。


「私はロイヤルナイツのミナスリート。 国王さまの仇、討たせていただきます」

ミナスリートの鍛え上げられた拳が初代国王に打ち込まれた。


「がはぁ!」


「おい、これくらいでくたばるんじゃねぇぞ。 これはオレの仲間達の分だ!」

ラーヴワスの強烈なパンチが初代国王を吹き飛ばす。


「ま… 待て! お前達! そうだ! 金! 金をやろう! 地位も、思うままの地位を与えてやろう!」

初代国王は泣きながら叫んでいた。


「てめぇは、終わりなんだよ!」

ラーヴワスが初代国王の腹を蹴り吹き飛ばすと、初代国王は壁にめり込むようにぶつかり泡を吹いて気絶してしまった。


「ちっ、もう終わりかよ」

ラーヴワスは気絶した初代国王を引きずり、ミツヒデの前に放り投げた。


「ミツヒデ、これで終わりだな」

「えぇ、お疲れさまでした」

ミツヒデは満面の笑みでラーヴワスを労う。


「さて、ミナスリート殿、モニカ殿。 お二人はこれからどうされますか?」

ミツヒデの問いに、ミナスリートとモニカは顔を見合わせお互いに頷いてから答えた。


「私たちはもうロイヤルナイツではありません。それにこの王国も貴方達に落されてしまいました。 これからのことは、これから考えようと思います」


「そうですか。 ならば、一度ノブナガさまと会ってみませんか?」


「ノブナガ…さま?」


「えぇ、わたし達の主君です。 今後、この国の王と成られるお方」

ミツヒデの提案にミナスリートとモニカは少し考えると、意を決したように答える。


「承知しました。 我らは敗戦国の騎士。貴方に従いましょう」

ミナスリートとモニカは膝をつき、ミツヒデに頭を下げた。

その時、玉座の間に飛び込んでくるようにホニードが走ってやってきた。


「ミツヒデさん! 下に抜け道があった! 国王が逃げたかも… って、あれ?」


「ホニード殿、国王はここに捕らえました。 さぁ、王宮が焼け落ちる前にわたし達も引き上げましょう」



◇◇◇◇


その頃、王都の外に仮設された教会では、治癒術師たちが王国民の治療にあたっていた。

ギルエは王都内にけが人が残っていないか走り回っていた。


「もう、王都内にはだれも居ないか…?」

その時、ギルエは路地の陰に少し豪華なローブを被った少女と、同じようにローブを着た従者らしき男が身を隠すように屈んでいるとこを見つけた。


「おい! 大丈夫か? ケガをしてるのか?」

ギルエの声に男が少女を庇うようにしてギルエを見た。


「ギルエさま?」

男はローブのフードを外して顔を表した。


「ハルマー? お前は、ハルマーか? もしかして、そちらのお方は…」

ハルマーと呼ばれた男はギルエに膝をつき、頭を下げる。


「ギルエさま、ハルマーでございます。そして、こちらはニーム姫です」

ハルマーに紹介されて少女がフードは外すと、まだあどけなさの残る金髪で金色の目をした少女が顔を出した。


「姫! よくご無事で!!」

ギルエはニーム姫に膝をつき頭を下げる。


「ギルエ、王都は… 王国は、どうなるの?」

ニームは悲壮な顔で尋ねた。


「……姫。 今はとにかく御身の安全が第一です。今は逃げましょう。わたしもお供させていただきます」


「……わかった」

ニームは小さく頷き、フードを被りなおした。


「ハルマー、行くぞ」

「はい」


その後、ギルエとハルマー、ニーム姫は王都を離れ、その姿を見たものはいなかった。



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