【63話】玉座の間での攻防
「おい、フレカ。お前が先陣を切れ」
ラーヴワスの非情ともとれる言葉にフレカは一瞬固まった。
フレカは弓使い。
屋内で、しかも両扉を挟んで複数の飛び道具を持つ敵が狙っている。
(あの矢… ボウガンか…)
フレカはゴブリンの額に刺さっている矢を見て、敵の武器の推測をする。
ボウガンは引き絞った弦を固定し、短い矢をセットする。
敵はボウガンのトリガーに指をかけ、フレカの姿を見た瞬間に矢を放つだろう。
弓使いであるフレカにそれを避ける術はない。
この扉の隙間に立てば、複数の矢がフレカに突き刺さることは明白であった。
とはいえ、ここで「できません」と言えばフレカはラーヴワスに裏切り者として殺されるだろう。
(やるしかないか…)
フレカは覚悟を決めた。
その時、両扉の向こうから声が聞こえた。
「そこにいるのはリダか? リダ・ニイキル! お前なのか?」
それはミナスリートからの問いかけだった。
フレカは思わずミツヒデを見る。
ミツヒデは黙って頷き、フレカに返答を許可した。
「そうよ! わたしよ!ミナスリート!」
「リダ! なぜお前がそこにいる?」
「そ… そんなことより武器を下して! ボウガンで狙われたら姿を見せることもできないわ!」
フレカの叫びにミナスリートは少し間を開けて答えた。
「リダ! お前は王国を… アクロチェア王国を裏切ったのか?」
ミナスリートには聞こえていた。
先ほどのフレカとラーヴワスの会話が。
「…」
「リダ! 答えろ! お前は王国を裏切ったのか?」
フレカは下唇を噛んで黙っていた。
「リダさん… あ… あの… ウソですよね? リダさんが… 裏切るなんて…」
おどおどしたように、女の声も聞こえてきた。
「モニカ…」
フレカは弓をぐっと握り、うつむいていた。
「リダさん… あの… ウソだと… い… 言ってください」
モニカは弱々しい声でフレカに話しかけてくる。
「モニカ…」
「ごめん!!」
フレカは叫びながら両扉の間に立ち、光の矢を放った。
その瞬間、ボウガンの矢がフレカを襲う。
「フレカ殿! ぐっ!」
ミツヒデはフレカを突き飛ばし、フレカと共にラーヴワスの下に転がる。
「ミツヒデ!!」
ミツヒデの足にはボウガンの矢が2本刺さっていた。
「がっ!」
「ぐぁ!」
同時に玉座の間から声が聞こえてくる。
フレカの放った『光の矢』は両扉を通った瞬間に、1本が4本に、4本が8本
8本が16本に増え、ボウガンを構えていた兵士に届く頃には32本の光の矢になって敵に襲い掛かっていた。
「リダ!!!!」
ミナスリートの叫び声が玉座の間に響く。
「今よ!」
フレカはラーヴワスに叫んだ。
ボウガンは一度発射すれば、矢の装填に時間がかかる。
つまり、『今』が敵との距離を詰める絶好のチャンスなのだ。
「よくやった!」
ラーヴワスは玉座の間に飛び込み、ボウガンを持った兵達との距離を詰める。
同時にオーガ達も盾を構えながら玉座の間に飛び込んだ。
「ミツヒデさん! 大丈夫?」
フレカはミツヒデを抱き寄せて扉の陰に身を隠した。
「これしき、なんの問題もありません」
ミツヒデは足に刺さった矢を引き抜き、袖を破ってきつく縛る。
「そんな足じゃ戦えないよ!」
フレカが止めるが、ミツヒデは刀を支えにして立ち上がると足に力を入れてみる。
「うむ。問題ない」
ミツヒデはそう言って、軽くジャンプしていた。
「そんな、その傷では立てるはずが…」
フレカの心配をよそに、ミツヒデはニコっと笑う。
「フレカ殿、援護を頼む」
そう言い残してミツヒデは玉座の間に飛び込んでいった。
そのスピードはとてもけが人とは思えない速さだった。
「わかった」
フレカはオーガ達の背後につくと、弓を構えラーヴワスやミツヒデの動きとタイミングを合わせ矢を放つ。
光の矢はオーガの盾の隙間から飛び出し、1本の矢が32本に増えて兵達に襲いかかる。
ボウガンを持った兵士達は次々と光の矢に倒されていった。
「ボウガンはもういい! 武器を持ち換えろ!」
ミナスリートの指示でボウガンからロングソードに武器を持ち換えた兵士達と、ワーヴワスが衝突した。
「ぬぉぉらぁ!」
ラーヴワスは赤い棍を振り回し兵士達を倒していく。
「相手はひとりだ! 囲い込め!」
ミナスリートの指示で兵士達がラーヴワスを囲み、全方位からロングソードを振り下ろした。
「おらぁぁ!!」
その時、ラーヴワスが振り回す棍が伸び、ラーヴワスを取り囲んだ兵士達が殴り飛ばされてしまった。
玉座の間に入ってすぐのミツヒデは腰を落とし、ぐっと足に力を込めた。
さっきボウガンの矢が刺さった傷から、『ブシュ』と血が噴き出すがミツヒデはそれを無視していた。
(日ノ本で戦っていた頃なら、この傷では戦えなかったでしょう… ですが、この世界に来てから異様に体が動く…)
ミツヒデ自身も不思議だったのだ。
思えは、ティアと初めて会ったときもそうだった。
自分でも信じられないほどのスピードで走り、ティアを捕らえることができたのだ。
それから黒大蜘蛛の時も、メルギドを襲ったギゴール盗賊団との闘いもそうだった。
(若返っただけでは理由が付かないほどだ…)
そこまで考えたとき、ミツヒデは思い出した。
この世界に来た時、ロアが『なかなか死なない体にした』と言っていた。
(アレはこういう意味だったのか…)
(ですが、今は…)
ミツヒデはミナスリート達の背後で、玉座に座っている国王を睨んだ。
「参る!」
ミツヒデが力いっぱい床を蹴ると、一瞬で兵士達との距離が無くなる。
「っ!!!」
距離があったミツヒデが一瞬で目の前に現れたことで兵士達は驚き、体か硬直してしまった。
ミツヒデの刀は振り抜かれ、兵士達の首がボトボトと落ちていった。
「な! なんだと!」
ミナスリートは大剣を構えミツヒデを警戒する。
モニカは自分の周りにチェーンを丸く円を描くように配置していた。
「なぁ、オレは昔から思ってたんだ。 ミナスリートの大剣とリークの大楯を使えたら最強じゃねぇのか? ってな」
ラーヴワスは最後の兵士を倒し、赤い棍で肩をトントンと叩きながらニヤニヤと笑っていた。
「あなたは… もしかして、あの極悪人『ラーヴワス・リナワルス』の子孫ですか?」
ミナスリートは大剣を構えながら尋ねた。
「子孫? 何言ってる? オレがラーヴワス・リナワルスだ」
「ウソをつくなら、もっとマシなウソをつくのです… ねっ!」
ミナスリートはラーヴワスとの距離を詰め、頭上目掛けて大剣を振り下ろす。
「残念。 オレは『ウソ』はキライだ」
ラーヴワスは赤い棍で大剣を受けると、ニヤリと笑いミナスリートの腹を蹴り飛ばす。
「っ!!」
ミナスリートは数歩、後ろに下がるが態勢を整えて切先をラーヴワスに向けていた。
「さぁ、勝負といこうか」
ラーヴワスとミナスリートは武器を構え睨みあっていた。