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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【61話】『正しい』と『間違い』

『大楯』リークを討ち取ったあと、ノブナガは王宮に向かって叫んだ。


「アクロチェア王国 国王! ワシはメルギドの町、安土城 城主のノブナガじゃ! お主は私欲のため獣人や亜人を迫害し、ついにはワシの娘キシュリを殺した。ワシはお主に誠意ある対応を求めたが、お主の答えはメルギドへの挙兵じゃった! よって、ワシらはこの国を落とす! お主は王として潔く首を差し出せ! さすれば、これ以上の犠牲が出ることはないじゃろう! もう一度言う! 王として潔く首を差し出すのじゃ! これより一刻だけ待ってやろう」

ノブナガは王宮を睨むと、踵を返し自軍に戻った。


外から見た王宮は何の変化も起きていないが、おそらくは王宮内では上を下への大騒ぎとなっていることだろう。


「ミツヒデ」


「はっ。ここに」

ミツヒデは膝をつき、頭を下げていた。


「今のうちに、兵にメシを食わせておけ」


「はっ」


「あと、熾天使のリダをここに連れてこい」


「はっ」

ミツヒデは一度、頭を下げると兵に食事と摂らせるようカーテに指示し、リークの大楯のあたりで話をしているリダを呼びに向かった。


「リダ殿、ノブナガさまがお待ちです」


「え? あ、はい!」

リダは慌てて振り返りミツヒデを見ていた。


「こちらへ」


リダはミツヒデに促されノブナガの前で膝をつき頭を下げていた。

ミツヒデはリダの側面、いつでもリダを斬れる位置に立っている。


「ワシがノブナガじゃ。 面をあげよ」

ノブナガは手頃な石に腰かけて話しかけた。


「ノブナガさま。 わたしはロイヤルナイツのリダ・ニイキル… でした」

リダはゆっくりと顔を上げ、ノブナガを見た。


「でした… か、ならば、今のお主は何者じゃ?」


「はい、わたしは王国を裏切りましたので、もうロイヤルナイツではありません。 わたしはフレカ… 『フレカ・ニイキル』でございます」

フレカはそういうと、装飾された美しい弓を自分の前に置いた。


「なるほど。 では、フレカ。お主に聞きたいことがある」


「はい。なんなりと…」


「残りのロイヤルナイツ二人は、今、どこに居る?」


「はい。大剣使いの『巨神』ミナスリートと、チェーン使いの『蛇使い』モニカはガザム帝国との戦争に出ておりました。しかし、先日、国王から帰還命令が出ておりましたので、あと数日後には王都へ到着すると思われます」

フレカは何も隠すことなく答えていた。


「ふむ。では、あの王宮にはあとどれくらいの兵力が残っておるのじゃ?」

ノブナガはアゴをクイッと動かして王宮を指した。


「王宮には文官や武官、あとは執務官などばかりで、兵力というほどのものはありません」


「それは誠か?」

フレカの答えにミツヒデが尋ねた。


「はい。王宮を守るのはわたしとリークの役目でした」

フレカはミツヒデを見て答える。


「ノブナガさま」

「うむ。 じゃが、油断はならんぞ」

「はっ。承知しております」


ノブナガとミツヒデが短い言葉で意思疎通していると、ドカドカとラーヴワスがやってきた。


「おい!ノブナガ! あのでかい盾、オレの部隊にくれよ!」

ラーヴワスは満面の笑みを浮かべながら、空気を読まず大声で話しかけてきた。


「でかい盾?」

ノブナガは少し考え、すぐにそれがリークが持っていた『大楯』だと理解した。


「なぁ、頼むよ。セミコフもホニードも扱えねぇしよ。 あのまま捨てるのはもったいないだろ?」

ラーヴワスはノブナガの肩に手を回し、顔を近づけて話しかけていた。


「ラーヴワス殿。 ノブナガさまに馴れ馴れし過ぎではありませんか?」

ミツヒデはチクっと釘を刺す。


「ん? いいんだよ。オレは、ノブナガと戦友(とも)だからな」

ラーヴワスはノブナガの背中をバンバンと叩きながら反論する。


「ですが!」

ミツヒデが言い返そうとしたとき、ノブナガが手を上げてミツヒデを止めた。


「よい、ラーヴワスに戦友(とも)となれと言ったのはワシじゃ」


「ほらぁ、だから言っただろ?」

ラーヴワスはどや顔でミツヒデを見ていた。


「で、ラーヴワス。 大楯をお主の部隊で扱えるのか?」

ノブナガが尋ねると、ラーヴワスは立ち上がり両腕を組んでノブナガを見た。


「おお! オレの部隊にいるオーガ共に持たせようと思うんだ。中でもひとり体がでかいヤツがいてよ。そいつなら大楯も扱えるはずだ。後は、あの騎士共が持っていた盾を持たせてやれば、鉄壁のオーガ部隊ができるって寸法さ」

ラーヴワスは得意そうに説明する。


「オーガ… あぁ、あの鬼共か。なるほど、それはよい考えじゃ」

ノブナガは軽く頷きながら答えた。


「それじゃ?」

「うむ。構わぬぞ。お主の好きにするがよい」

「よっしゃー!」

ノブナガの答えにラーヴワスは大喜びでオーガ達の下に走っていった。


「よかったのですか?」

ミツヒデが尋ねると、ノブナガは


「うむ。そのうち役に立つじゃろう」

と、笑っていた。


そんなやり取りをフレカは不思議そうに見ていた。


「なんじゃ?」


ノブナガの問いにフレカが、ピクっと反応してから尋ねた。

「あ! あの、ノブナガさま。オーガって、()()()()()ですよね? あの、魔物の…」



「うむ。確かに、お主らのいう『魔物』のオーガじゃ。じゃが、ラーヴワスが率いる『魔物』はお主らが考える『魔物』とは違い、ヒトの言葉を理解できる者たちじゃ。ワシらは『魔族』と呼んでおる」


「言葉を理解する魔物? 魔族? えぇ??」

フレカはノブナガが言っている事が、まったく理解できずにいた。


「まぁ、お主も話してみれば分かるじゃろ」

ノブナガは、くくくと笑いながらフレカを見ていた。


「ノブナガさま、そろそろお時間です」

その時、ミツヒデが一刻経ったことを告げた。


「うむ。国王からの返事は?」

「何もございません」

「うむ。ならば、王宮を落とすとするか」

「ははぁ!」


ミツヒデは頭を下げると自軍に戻っていった。

兵たちはすでに食事を済ませており、セミコフやホニード、ラーヴワスがノブナガを見ている。


「いくぞぉ!!」

ノブナガ軍の攻撃が始まった。



◇◇◇◇


その頃、ティアたち月女族とアネッサは王都の東門付近に来ていた。


そこは王都の住人たちが王都から脱出しようとごった返していた。

そんな中、ケガをしたヒトや、足が悪い老人などの避難を助けている獣人達がいた。

彼らは煤だらけの顔で、ボロボロの服に裸足だった。


東門から出た広いスペースには、王都で活動していた教会の関係者が集まり怪我人の治療にあたっている。


アネッサ達は屋根の上からその様子を見ていた。


「みんな、この前、メルギドで王国騎士団と戦ったの覚えてる? あの時、メルギドは… いえ、貴方達がこうなっていたかもしれないのよ」

アネッサの言葉を聞き、ティア達は屋根の上から王都の人々を見ていた。


「ノブナガは強い。理由はよくわからないけど、ノブナガはまるで何十年も軍隊を率いて戦ってきたような強さを持っているわ。 だから、あの時は勝てた。ノブナガがいなかったら、今頃、貴方達はこの世にいなかったかもしれないわね」

アネッサは、「もしそうなったら、わたしもこの世にはいないでしょうけど…」と誰にも聞こえない小さな声で呟いていた。


「巫女さま、わたし達はこれでよかったのでしょうか?」

ティアの質問にアネッサは少し沈黙する。


「ティアさん。これが正しいのか、間違っているのか… それは誰にも分からない。わたし達から見れば『正しい』でしょう。でも、王国から見れば『間違い』。つまり、誰が見るかで答えは変わるものなの。 ただ、アレを見て」

アネッサは必死で王都の人々を助けようとしている獣人達を指さした。

実は、獣人達がヒトを助けているのはアネッサの脅迫によるものなのだが…


「これまでの王国では、獣人がヒトを助けるなんてありえなかったでしょう。 理由はどうあれ、あそこじゃ、ヒトも獣人も亜人もみんな助け合っているわ。 それは誰が見ても『正しい』じゃないかな? そして、そのキッカケは今回の戦い」

アネッサに言われ、ティア達は助け合っている『人々』を見た。


「わたし達はあの風景を求めて頑張って、やっと実現したのが『メルギド』だった。 だけど、王国はそれを許してくれず、メルギドを滅ぼそうとしたのよ。 だから、これは『必要な戦い』だったの」

アネッサの本当の目的はヒトや獣人が仲良く暮らすことではなく、月女族(むすめたち)が楽しく生きていられる世の中にすることなのだが、アネッサは目に見えるもの全てを都合よく説明していた。


ティアたちはアネッサの言葉を素直に受け止め、小さく頷いていた。


その時、獣人のひとりが屋根の上のアネッサに気が付いた。

獣人は「ひっ」と小さく悲鳴を上げると、これまで以上に周りのヒトの救助を始めた。

それを見た付近の獣人や亜人たちもアネッサの存在に気が付き必死に働き始める。

それはまるで鬼教官から地獄のような訓練を強いられている『訓練兵』のようだった。


獣人達の作業スピードが格段に上がったため、人々の避難はあっという間に終わってしまった。


王都の住人たちが門の外側でお互いの無事を喜びあっていると、救助活動が終わりヘトヘトになった獣人や亜人たちが門から出てきた。


「あんたたち!! ありがとう!!」

「あんたたちのおかげで、王都の住人は無事避難することができた。本当にありがとう!!」

人々は獣人や亜人達を囲み、涙を流して感謝していた。


「え? あ、いや…」

これまで自分たちを奴隷として扱ってきたヒトが、涙を流しながら感謝してくれている。

獣人や亜人たちはアネッサに脅迫され人命救助を行っていた。

だが、結果としてはヒトと獣人、亜人の垣根は無くなり、お互いに力を合わせ助け合う『仲間』となっていたのだった。


「これで月女族(むすめたち)が王都に来ても安心ね」

アネッサは王都の人々の様子を屋根の上から嬉しそうに見ていた。




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