【15話】イコクでイチバン
「みな、ケガはないか?」
ノブナガが振り返ると村人達は腰を抜かし、その場にへたり込んでカタカタと震える体を抱きしめていた。
「ティア! もうあんなバカな事はやめて!」
イルージュはティアを叱りつけると、思い切り抱きしめて泣きだした。
「母さま… でも、あぁしないとみんなが…」
ティアもイルージュに抱きつきながら、ボソボソと震える声で答えていた。
「でも、よかった… ティアが生きていてくれて… ホントによかった…」
「母さま… こ… 怖かった…」
ティアもやっとホッとしたのか、涙が溢れて出していた。
「ティア、お主の心意気、見事であった」
ノブナガはティアの肩をポンと叩いて笑い、
「ティア殿、あまり無茶はおやめ下さいね…」
ミツヒデは優しく声をかけていた。
少し時間が経ち、イルージュたちは落ち着きを取り戻してきた。
「ノブナガさま、この度は本当にありがとうございました」
イルージュは深く、深く頭を下げて感謝の意を表していた。
「イルージュ、頭を上げてくれ。この度の事は、メルギドで無理矢理ティアに魚を食わせたワシの落ち度じゃ。 申し訳ない事をした。スマン」
ノブナガが頭を下げて謝罪すると
「そんな事ない! 魚を食べる選択をしたのはあたし。 拒否する事だってできたのに… あたしが食べたい欲求に勝てなかったのが悪いの… だから、ノブナガは謝らないで」
ティアは泣きながら謝っていた。
「ティア殿、ノブナガさま。起きた事はもう仕方ありません。 それより、これからの事を考えましょう。 わたしの見たところ、あのホニードという男は自尊心が高く、地位もある男のように見えました。 あれほど恥をかかせたのですから、このまま収まるとは思えません」
ミツヒデはそう言いながらホニードが向かった先を睨んでいた。
「うむ、そうじゃな。 だから、さっさと殺してしまえばよかったのじゃ」
ノブナガはフンっと鼻息を荒くすると
「ノブナガさま、今日のティア殿の話しでもありましたように、この王国は『ヒト種族至上主義』です。 もし、あのままホニードの首を飛ばせば、いかな理由があろうとも責めを負うのはイルージュ殿やティア殿などハーゼ村の者となりましょう。 まずは地を固め、ハーゼ村の者たちが安心して暮らせる場所を確保する事が先でございます」
ミツヒデが膝をつき、ノブナガに提言すると
「わ… 分かっておるわ! ただの戯れよ。ワシもそう思っていたところじゃ」
少し挙動不審なノブナガは腕を組み、フンっとさっきよりも強めに鼻から息を吐いていた。
「はっ。 これは失礼致しました」
ミツヒデは膝をついたまま、深く頭を下げていた。
ミツヒデは立ち上がるとティアの方を向き、
「ところでティア殿。 あのホニードという男について教えて頂きたいのだが…」
「うん… ホニードはメルギドの自警団の団長で、一番強いヤツなの。この辺でホニードに勝てるヤツなんていないと思うわ」
「うむ、チカムも同じ事を言っておったの…」
ノブナガはその場にドカっと座り、ティアの話しを聞いていた。
「ホニードは新しい武器が好きで、新しい武器が手に入るとやって来て、いろいろ難癖つけてきて、あたし達で試し斬りをするの… もう何人もホニードに斬り殺されたわ…」
ティアは悲しそうな顔で俯いていた。
「ふむ。妖刀に取り憑かれた辻斬りのような輩ですな…」
ミツヒデがボソっとつぶやくと
「うむ。それに団長という地位まで持っておるとは… なかなか厄介なヤツじゃな…」
ノブナガも、「ふーむ…」と考え込んでしまった。
「ヨウトウ? ツジギリ?」
ティアは聞いたことが無い言葉に、少し混乱しているようだった。
「ノブナガさま… やはり…」
ミツヒデがノブナガを見ると
「うむ。 そうじゃな」
ノブナガは軽く頷いて、ミツヒデの考えを肯定した。
ミツヒデは軽く頭を下げると、イルージュに向き直り
「イルージュ殿。 近いうちにまたホニードは現れるでしょう。 わたし達はしばらくこの村でホニードを待ちたいと思いますが… よろしいでしょうか?」
「え? は、あ… もちろんノブナガさまもミツヒデさまもこの村に居て頂いて構いません。 しかし、それではノブナガさま達がホニードの標的になってしまいます…」
イルージュは心配そうにノブナガ達を見ていた。
「イルージュ、これはワシのケンカじゃ。 他の誰にもやらん」
あはははと、ノブナガはイルージュの心配事を豪快に笑い飛ばしてしまった。
「イルージュ殿、大丈夫でごさいます。わたし達は強い。お任せください」
ミツヒデもニコっと笑っていた。
「ホント! ノブナガってスゴイ強かったね!」
ティアは飛び跳ねるように立ち上がると、ノブナガの手をブンブンと振っていた。
「ん? ワシはノブナガじゃ。当たり前じゃろ」
ノブナガが満更でもない顔でニヤニヤしていると
「ノブナガさまは、我が国で一番強いお方ですから」
ミツヒデもニヤニヤとしていた。
「この前ノブナガが言ってた『イコク』で一番強いの!? それってどれくらい強いのかな? ホニードより強かったけど… アクロチェア王国騎士団よりも強い?」
ティアは子供がヒーローを見るようにキラキラした目でノブナガを見つめていた。
「うむ。アクロチェア王国騎士団とやらは見た事がないから分からないが… ワシの方が強いに決まっておるじゃろう」
かははははと、ノブナガは大声で笑いふんぞり返っていた。
「ノブナガさま… すぐに調子に乗る…」
ミツヒデはコメカミ辺りを抑えて、はぁとため息をついていた。