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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【55話】戦いの始まりとティアの後悔

「そろそろ行くとするか」


「御意」

ミツヒデは軽く頭を下げるとノブナガ軍の先頭に立って振り返り、兵士達の顔をひと通り見て叫んだ。


「全軍! 陣形を整えよ!」

ミツヒデが部隊全体に指示を出すと、中央先頭に魔道銃部隊、その後ろに弓矢部隊が隊列を整える。


弓矢部隊の背後では、ホニード率いるヒト族で構成された戦士部隊が並び、左翼にはラーヴワス率いる魔族部隊、右翼にセミコフ率いる獣人と半獣人の混成部隊が並ぶ。

その形は中心のホニード部隊が突き出した三角の形をした陣形、『魚鱗』の陣形だった。


さらに後方には魔法使い部隊と、カーテ率いる補給及び治癒部隊が隊列を整える。



ノブナガはホニードの部隊の背後で馬に騎乗して、全体を見ていた。


「ノブナガさま、陣形整いました」

ミツヒデはノブナガの横で膝をつき報告する。


「うむ。 しかし、兵士達の背中に旗印が無いのは、些か寂しいものじゃな」

ノブナガは少し残念そうに苦笑いを浮かべながら、軽口をたたく。


「左様でございますな。 あの旗印には気持ちを奮い立たせる力がありますからなぁ」

ミツヒデも残念そうに兵士達の背中を見ていた。


「そうじゃ! これが終わればイルージュに旗印を作らせるとしよう!」


「それは良いお考えでございますな!」


「ならば、さっさと城攻めを終わらせるとするか」


ノブナガとミツヒデは楽しそうに笑い合うと、前方の王都アクロザホルンを睨むように見た。



一方、王都では門兵からの報告を受けた戦士団と騎士達が集まり、固く閉ざされた門を守るように城壁に沿って横に並んでいた。

騎士団長は先頭に立ち騎士剣を振り上げながら戦士と騎士達を鼓舞している。


すると、先頭に立つ騎士達が淡く光ったかと思うと、光は消えるを繰り返し始めた。


「ホニード、アレはなんじゃ?」

ノブナガは光っては消える騎士達を指差しながら尋ねた。


「アレは魔法使いが騎士達に防御魔法をかけているだ。 おそらく魔道銃を警戒して魔法防御をしているんじゃないか?」

ホニードはそう言うと魔法使いの部隊隊長を呼んだ。


すると、後方で隊列を組んでいた魔法使いの先頭にいた、大きめの三角帽子を被り、黒いローブを纏った男が慌てて走ってきた。


「ホニードさま、何でしょうか?」

魔法使いの男は若干、息を切らしながら尋ねる。


「おお、ソネト。 あの騎士達にかけている防御魔法が何か分かるか?」

ソネトと呼ばれた男は、ホニードから魔法使い部隊の指揮を任された部隊長だった。

ソネトは魔法使いとしては平凡だが、仲間からの信頼が厚く部隊をまとめ的確な判断で行動できる男であることからホニードに気に入られていたのだ。


ソネトは目を細めならが騎士達を観察すると、「なるほど…」と呟いてからホニードとノブナガの方を向いた。


「アレは魔法防御力向上の魔法ですね。 おそらく魔道銃対策でしょう」

ソネトもホニードと同じ答えをノブナガに報告する。


「うむ。ならば、ミツヒデ! 魔道銃部隊には鉛の弾を使わせるのじゃ。 魔法の弾は残しておけ」

ノブナガが指示すると、ミツヒデはすぐに魔道銃部隊に伝達し準備をさせる。


「ソネト、大義であった。 持ち場に戻れ」

ノブナガの指示に、ソネトは頭を下げると魔法使い部隊に戻っていった。


「ノブナガ、あいつらの準備も終わったようだぜ。 そろそろ突っ込んでくるころだ」

ホニードはニヤニヤと笑いながら、凶悪な目で騎士達を見ていた。


「うむ! 全軍! 構えぇ!」

ノブナガが号令を発した同じタイミングで、魔法防御をした騎士達が突撃を始めた。

騎士の背後には戦士団、さらに背後に魔法使い達が付いてきていた。


「魔道銃部隊! 弓矢部隊! 構えぇ!」

ミツヒデの号令が飛び、魔道銃部隊は片膝を着き銃を構える。

弓矢部隊は弓を引き縛り、次の号令を待っていた。


同時にホニード部隊とセミコフ部隊、ラーヴワス部隊は抜刀し腰を落として、いつでも突撃できる体勢をとっていた。



「うぉぉぉぉ!!」

騎士達は雄叫びを上げながらノブナガ軍に突撃する。



「弓矢部隊! 放てっ!」

ミツヒデの号令で弓矢部隊から一斉に弓が放たれた。

大量の矢は山なりに飛ぶと雨のように、騎士や戦士達に降り注いだ。

だが、弓矢では何人かの戦士が倒れる程度で、せいぜい突撃の速度を抑えるのが精一杯だった。


騎士たちの背後からは、突撃をサポートするようにファイヤーボールやアイスボール、サンダーなどの魔法が放たれノブナガ軍に襲いかかろうとする。

当然、ノブナガ軍の背後から同様に魔法が飛び、空中では魔法がぶつかりあい激しい魔法合戦が繰り広げられていた。


弓矢部隊からは絶え間なく矢が放たれ、少しだが騎士や戦士達にダメージを与えていた。



騎士達との距離が近づいてきた時、ミツヒデが号令を発した。

「魔道銃部隊! 撃てっ!」


『どぱぱぱぱぱぱぱーん!!』

一斉に放たれた銃声はまるで雷のように激しく、複数の銃声が連続して響き続けていた。


「ゔあ!!」

「ぐぁ!」

「ゔぁーーーー!!」


魔道銃を『魔法攻撃』だと考えていた騎士達は、『鉛の弾』に次々と撃ち抜かれ倒れていく。


魔法防御の魔法が効いていないと感じた騎士達はパニックになり足が止まる者や、逃げ出そうとする者、背後の戦士達に押され狼狽えた目で突撃を継続させられている者などで混乱状態となってしまった。


その時、固く閉ざされた門の内側から激しい爆発音が何度も響いた。

驚いた騎士や戦士たちが振り返ると閉ざされたはずの門は吹き飛ばされおり、守っていたはずの王都は炎に包まれていた。

さらに、吹き飛ばされた門からスケルトンやゾンビなどアンデットがわらわらと出てきていた。


「いったい、何が!?」

驚いた騎士達の足は完全に止まってしまい、何が起きているのか理解出来ず思考が停止してしまった。


「全軍、突撃! いけーーー!」

ノブナガの号令が飛び、ホニード軍を先頭にセミコフ軍、ラーヴワス軍が突撃を開始した。



―――――――――――――


少し時間が戻り、王都内ではティアたち月女族が戦闘の音を聞いて動き出していた。


「はじまった! 打合せ通りやるよ!」

ティア達はカーテの倉庫から飛び出し、各々が予め決めていた場所へ向かって走った。


王都内は静まり返っており家の窓は閉められ、通りには誰もいなかった。


(うん、みんな避難してる)

ティアは誰もいない事に安心し、自分の持ち場に向かった。


「みんな! 準備はいい?」

ティアが叫ぶと、各場所に散った月女族の仲間たちから「準備完了」の返答がある。


「それじゃ、作戦開始!」

ティアの号令により、月女族達はファイヤーボールやファイヤーアローなどを撃ちまくった。

すると、しだいに各所から火の手が上がり始めた。


まだ火は小さかったが、そこに大量のネズミが現れた。

そう、アネッサが召喚したあのゾンビネズミだった。

ゾンビネズミは火を見ると次々と火に飛び込み、腹の中の火の魔石と共に爆発する。

火はやがて炎となり、瞬く間に王都に広がり始めた。


炎は手当たりしだいに燃え広がり、さらにゾンビネズミが飛び込む事で勢いを増す。

また、各家に保存していた生活用の火の魔石にも引火し、あちこちで爆発が起こり始めた。


その時、誰も居なかったはずの家からたくさんの人々が飛び出してきた。

中には子供を連れた母親や、まだ歩く事すら出来ない赤子を抱いた母親、年寄りの手を引いて逃げ惑う子供がいた。

さらに、路地裏や物陰から獣人達が飛び出しパニック状態となる。


「え? どうして?」

ティアは目の前で逃げ惑う人々に驚き、固まってしまった。


その時、パルやチカム達の叫び声が聞こえてきた。

「ティア姉さま! ヒトが! 子供やお母さんが、たくさんいる! どうしよう!」


各地に散った月女族の仲間達の目の前でも、同様に人々が逃げ惑う状況となっているようだった。


「どうして? どうしてここに居るの?」

ティアは、何が何やら分からずただただ目の前に広がる惨状を見つめるしかできなかった。


すでに炎の勢いは激しく、手のつけられない状況だった。

あちこちで起こる爆発に吹き飛ばされ動かなくなるヒト。

崩れ落ちてきた瓦礫に足を挟まれ動けなくなるヒト。

子供を助けようと家に戻り出てこないヒト。


ここは阿鼻叫喚の地獄だった。


「どうして… あっ」

ティアは思い出した。


カーテはたくさんの薬草を売り、たくさんの食料を抱えて帰ってきた。

翌日も朝から食料を買い込んで、夕方に王都を出ると言っていた。


(カーテは()()()()()()()()()()()()()()()()()


少し考えればすぐに分かる事だった。


(王都のヒト達は、誰も避難していなかった…)


そう、ノブナガの戦いが始まる直前まで、王都はいつも通り華やかな町だったのだ。


王都にはロイヤルナイツをはじめとした騎士団や、王都を守る戦士団がいる。

何より王都を囲む城壁と、門を守る門兵。


ノブナガとかいう、訳の分からない人物が王都を攻めようとしている?

そんな訳の分からない人物に、この素晴らしい王都が負けるはずがない。

王都から避難する?

逆に王都の中にいる方が安全に決まっている。


それに、そんな根も葉もないウワサ話をしている暇があるなら、今晩のオカズを考える方が大事なのだ。


ほとんどのヒトがそう考えていただろう。

一部の獣人はそんなウワサ話に期待をしたかっただろうが、期待するだけ虚しくなると諦めていたに違いない。



(だから、誰も王都を離れなかった… そして、カーテはそれを知っていた…)

ティアは自分の浅慮を後悔し、悔しくて… 悔しくて…

涙が溢れていた。


その時だった。

炎の向こうからたくさんの獣人や、エルフやドワーフなど亜人種が現れた。

獣人達は必死の形相で、逃げ遅れたヒトの救助を始める。


さらに、少し遅れて大量のスケルトンが現れ獣人達と協力して人命救助を始めた。


(え? なに? 何が起こってるの?)

ティアが混乱していると、パルやチカム達から同様の事が目の前で起こっていると声が届いた。



その時、オオカミゾンビに跨ったアネッサが現れた。

「ティアさん、遅れてゴメンなさい!」


「巫女さま…?」


「ホント! スケルトンのやつら足が遅いんだから! ティアさん遅れてゴメンね。 もう大丈夫。この炎で誰も死なせないわ」

アネッサはティアを抱きしめると、ニコっと微笑んでいた。

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