表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
140/171

【50話】国取り

リダが謁見の間で報告した数日後、ヴァナラとドナール達はは王都に到着した。


「じゃあ、兄さん。 楽しい旅だったよ。また、機会があれば一緒に旅をしよう」


「こちらこそ。 こんなにも楽しい旅は初めてだった。感謝している」

ヴァナラの返答にドナールは少し照れながら笑うと握手を交わし、


「それじゃ! 次の旅を楽しみにしてる」

ドナール達はそう言ってヴァナラと別れ、町の雑踏の中に消えていった。


「わたしも楽しみにしています」

ヴァナラはそう呟くと表情を引き締め『ギルエ』に戻り、王へ報告する為に自分の屋敷『ブルガテアク家』に向った。


屋敷までの道、店先にはたくさんの食べ物が並び、店主のお客を呼び込む声があちこちから聞こえる。

行き交う人々は今日の夕飯を考えながら品定めし、気に入った食材を手にしている。

王都では誰もが幸せそうで、裕福な暮らしをしているようだった。


ギルエはそんな王都の人達を見ながら、これまでの旅を思い出していた。


(この王都は確かに住みやすく、みなが幸せそうに暮らしているように見える… だが…)


ギルエは辺りをクルリと見渡した。


(それは、ヒト種族に限っての事だ。 今、わたしの視界にはヒトしか居ない。 あの路地の向こうや、あの物陰では獣人や亜人が身を隠すようにして生きているのだろう…)


これまでギルエは路地裏や物陰なんて気にも留めなかった。

この幸せそうに暮らしている風景が『王都』であり、人々が憧れる『都』だと信じて疑わなかった。

そう、この『王都の表面』だけがギルエの『世界』だったのだ。


ヒト種族にとって王都は『繁栄』の証であり、憧れの町なのだが…

今のギルエには『偽りの繁栄』にしか見えなかった。

いや、見えなくなってしまった… と、言う方が正しいのかもしれない。


(王都に近くなればなるほど、獣人達の目から生気は消え、なかには敵意を宿す者もいた…)


「メルギドとは大違いだ…」

ギルエは誰にも聞こえない声で呟いていた。



ギルエがブルガテアク家に着くと、執事をはじめブルガテアク家に仕えるメイドや使用人達が涙を流しながら出迎えてくれた。


使用人逹をある程度宥めたギルエは革鎧を脱ぎ、汗と身体の汚れを流し正装に着替えブルガテアク家が誇る立派な応接室に向かう。


()()で待っていたのはギルエの父であり、ブルガテアク家の現当主だった。


重厚な扉をノックすると、中から入室を許可する父の声が聞こえた。

ゆっくりとドアを開けると、応接室の中央に置かれた革張りのソファーにギルエとそっくりな白髪の男が座っていた。

男はギルエをひとまわり大きくした屈強な体をしていたが、右腕が無かった。


白髪の男の隣には同じ歳くらいの女性も座っており、女性は多少の白髪があるが金髪の美しい女性だ。


「父上、母上。ただいま帰りました」

ギルエは静かにそう言うと、膝をつき頭を下げた。


「ギルエ。 ロイヤルナイツであるお前が居ながら、王国騎士団は敗れたそうだな。 それで命を拾い、おめおめと帰ってきたのか」

父上と呼ばれた白髪の男は、ギルエの顔を見るなり威圧感のある声で言葉をあびせた。


「申し訳あり……」

ギルエは深く頭を下げ低い声で詫びようとしたが、父はギルエの言葉を遮るように言葉を被せてきた。


「本来ならロイヤルナイツの父として、このような言葉で叱責しなければならないのだろう… だが、ワシはロイヤルナイツの父である前に、ヴァナラ… お前の父であるようだ」

父はゆっくりと立ち上がるとギルエに近寄り、残った左腕でギルエをきつく抱きしめた。


「父上…」


「ヴァナラ… よく、無事で帰ってきた。 よく生きていてくれた…」

父は滝のように涙を流していた。


「ヴァナラ… 本当によかった…」

母もギルエを抱きしめ、嗚咽を漏らしながら泣いていた。


ギルエも両親と会い、ホッとしたのかいつの間にか涙が溢れていた。そのまま3人はしばらく泣きながらギルエの無事を喜ぶと、両親と対面するようにギルエはソファーに座り口を開いた。


「父上、わたしはこれからこの度の戦いを国王へご報告しに行きます」


「…うむ」

父は静かに応えるだけで、それ以上の言葉は出なかった。


「また、しばらくご心配をおかけします事、お許しください」

これからギルエは戦いの敗者として国王と謁見するのだ。

当然、敗戦の責任は追求されるだろうが、運が良ければ次の戦いで挽回できるチャンスもあるだろう。

だが、ギルエは()()()()についても報告するつもりだった。

メルギドの住人達の事、王国に住む獣人や半獣人達の事…

全ての()()が幸せに生きるための理想像の事。

そして、ラーヴワスの事。

これらを報告すれば自分はただでは済まないだろう。

もしかすると反逆者として処刑されるかもしれない。

だから、ギルエは軽く頭を下げ父の言葉を待っていた。

これが父との最後の言葉になるかもしれないから…


「ギルエ… いや、ヴァナラ」

父は長い沈黙の後、重い口を開いた。


「はっ」


「己が信念を貫け。 ワシらの事は何も気にするな」


ギルエは何も説明していないにも関わらず、父に心を見透かされたような衝撃を受けた。


「はい。ありがとうございます」

ギルエは深く頭を下げ、感謝の意を伝えるとゆっくりと立ち上がり応接室の扉へ向かった。

そこで振り返ると、もう一度頭を下げて応接室を出ていった。


応接室の扉を閉めると、少し俯いたギルエは

「お元気で…」

と、呟き屋敷を出て行った。




ギルエは屋敷を出ると、まっすぐ王宮へ向かった。

突然、『()()()()()のギルエ』(正確には()()()()なのだが…)が現れ、王宮の門兵や執務官達は驚きとギルエの生存の喜びでパニックになっていたが、ギルエはなんとか王との謁見を取り付けることに成功した。


ギルエは謁見の間に通され、国王が現れるまで膝を突き待機しながら考えていた。


(父が戦争で片腕を失い、わたしがギルエを継いだが… 結局、わたしは父の足下にも及ばなかったな…)

ギルエは小さく『ふふ』と笑い、初めて国王と謁見した日を思い出した。


(父は偉大だった。おそらく歴代のギルエの中でも1.2を争う程のチカラを持っていただろう。 それに比べると明らかに軟弱なわたしを見た国王の失望した目… あの目を忘れた事などない…)


(だから、わたしは必死で強くなった… いや、強くなったと()()()()()()()…)

ギルエは拳を強く握り爪が手の平に食い込み、血が滲んでいた。


(だが… わたしは『急流』程度だった…)

ギルエは溢れそうな涙を必死で止め、滲んだ血を拭く為にポケットのハンカチを取り出そうとした。

その時、手に当たったのはハンカチではなく、メルギドを去る時に出会ったネコ耳の少女『ユナ』がくれた『小さな丸い袋』だった。


「これは…」

ギルエはユナを思い出し硬くなっていた表情が緩み、少し下がった目尻を気にせずに小袋を見ていた。


(ユナ殿…)


その時、執務官の声が響いた。


「国王さま、ご到着!」


ギルエは小袋をポケットに押し込むと、頭を下げ国王を待つ。



「ギルエ、よく戻った」

国王の声が謁見の間に響いた。





その頃、安土城ではノブナガの下にヒト、獣人、魔族などが集まっていた。


「お主ら!聞け! ワシらはキシュリを無惨に殺された事を王国に意を唱えた! じゃが、王国が出した答えは、先日の王国軍の侵略じゃ! お主らも感じておるじゃろう! この王国では力無き者は虐げられ、意を唱えれば力で潰されるのじゃ!」

ノブナガは集まった()()たちの顔をひとりひとり見るように全体を見渡した。

そこに集まった人間たちは、先日の戦いで得た自信と強い信念を持った目でノブナガを見つめていた。


「ならば! ワシらの正義の力をもって悪を正してやろうではないか! この国の全ての『人間』がいつまでも笑って生きられるように、ワシらがこの国を正すのじゃ!」

ノブナガは刀を抜き振り上げて叫んだ。


「「おおおーーーー!!!」」

ノブナガの叫びに呼応し、安土城に集まった人間たち…『ノブナガ軍』の雄叫びが上がる。

ノブナガは満足そうに笑うと馬に乗り、ノブナガ軍の先頭に立つ。

ノブナガの横にはミツヒデとティア。

すぐ後ろからラーヴワスやアネッサ達、幹部達が各々の部隊を引き連れていた。


「さぁ、国取りを始めるとするか」

ノブナガは不敵な笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ