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Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
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【49話】リダ・ニイキル

「アレはバケモノだ」

ドナールの目は真剣で、昼間の話題が尽きない人物とは別人のようだった。


「…バケモノですか。 何かあったのですか?」

ヴァナラの質問にドナールは深く息を吐いてから話し出した。


「さっき、アネッサとノブナガに護衛を依頼した事があると言っただろう?」


「ええ」


「その時の話しだ。オレは冒険者ギルドのギルド長からスゴい新人冒険者がいる。 チカラはベテラン冒険者並みなのに新人料金でお得だぞ。 と、勧められて護衛を依頼をしたんだ」

ドナールはコップの水を一口含み、喉を潤してから話しを続けた。


「初めて会った2人の印象は、まだあどけなさの残る姉と幼い弟のようだった。 とてもベテラン冒険者並みのチカラがあるとは信じられず、『信じられるモノを見せてくれ』と言ったんだ」


「なるほど… それは当然のことでしょう」

ヴァナラもドナールの行動を肯定していた。


「その時にアネッサの冒険者カードを見せてもらったんだが、確かに職業適正欄にはプリーストとネクロマンサーが表示されていた。 だが、それはあくまでも適性があるというだけで、本当にネクロマンサーになるかどうかは別の話だ。 しかも、まだ若い女… いや、少女といってもいいくらいだ。すぐにネクロマンサーになれるとも思えなかった。 だからオレは『将来有望な新人冒険者』程度に考えていた」


「確かにネクロマンサーになるには、膨大な知識と魔力が必要となります。 そんな若い娘がネクロマンサーとは考えられませんね…」

ヴァナラもドナールの言葉を肯定していた…… が、頭の中では


(だが、その若い娘がネクロマンサーだった… しかも、とんでもない力を持っていた…)

と、あの先日の戦いを思い出していた。


ドナールはヴァナラの言葉に頷くと言葉を続ける。

「さっきも言ったが、ノブナガはアネッサの幼い弟のように見えていた。 実際、2人が話している雰囲気を見ているとアネッサが姉として振る舞っているように見えた… 初めはな…」


「初めは…?」

ドナールの意味深な言葉にヴァナラが尋ねると


「あぁ、初めはそう思った。 だが、そうではなかった。会話を続けていると、節々で弟のノブナガの方が上の立場のような雰囲気があった。 そして決定的な事が起きた」

ドナールは震える手を更に握り締めて押さえ込み、焚き火の炎を凝視していた。


「決定的な… 事?」


「オレがアネッサのチカラは理解したとノブナガに伝えると、ノブナガは『今度は自分のチカラを見せる』と言ってギルド内で暴れていたらしい大男の前に立った」

ドナールは深く息を吐き、言葉を選ぶように少し間を開けていた。


「その話を聞いた時は、オレも信じられなかった。 真実だと知ったのがノブナガ達と別れた後で良かったと… 本気で思ったよ」

ドナールの話を一緒に聞いていたアスターは、ドナールを見ながら呟くように話し、ダナとセルジも頷いていた。


「何があったのですか?」

ヴァナラが尋ねると、ドナールが話し出した。


「ノブナガは、オレに自分のチカラを見せると言って大男の前に立つと、ノブナガと大男は何か話していた。すると、突然、大男が暴れ出したんだ。 さすがにこれはマズイと思った瞬間、オレは自分が死んだと錯覚したんだ」

ドナールの話がよく分からず、ヴァナラは


「ノブナガと大男の話ではなかったのですか?」

と、尋ねた。


「その通り、ノブナガと大男の話だ。 狭いギルド内とはいえ、ノブナガとはある程度離れた場所にオレは居たんだが、大男がノブナガに殴りかかろうとした瞬間、ノブナガから『死のイメージ』が放たれギルド内を埋め尽くしたんだ。 オレはその『死のイメージ』を受け、自分が死んだと思ってしまった…」

ドナールはその時を思い出したのか、少し顔色が悪くなっていた。


「死のイメージ… 殺気…のようなモノでしょうか?」

ヴァナラの問いにドナールは


「そういえばアネッサがノブナガにそんな事を言っていたな… その時、ギルドの受付嬢は気絶し、何人かの冒険者たちもオレと同じように死にそうな顔をしていたよ。 唯一、アネッサだけが平気な顔でノブナガに文句を言っていた事が、逆にこの2人の強さ… いや、恐ろしさを際立たせていて、未だに夢に見るてうなされる事があるよ…」

ドナールは自分を落ち着かせるように、水を飲み干していた。


「そんな事があったのですか…」

(あのノブナガという子供、とんでもないヤツだとは思っていたが… 私は… いや、王国は絶対敵にしてはいけない人物に刃を向けてしまったのではないだろうか?)

ヴァナラの頭の中ではさまざまな事が浮かんでは消え、また浮かびを繰り返していた。




その頃、王国ではメルギド奪還に向かったヤールガ団長率いる辺境防衛騎士団が壊滅したとの報告を受け、文官や武官、貴族達が上を下への大騒ぎとなっていた。


「辺境騎士団が壊滅!? それは間違いないのか!?」

悲壮な顔で報告した文官を叱責するように、国王は大声で問いただしていた。


「は… はい。先程、騎士団の伝令が王国に到着し、そのように報告を受けております」

文官は深く頭を下げ、震えながら報告していた。


「…ふむ。 確かロイヤルナイツのギルエも同行していたはずだが? ギルエはどうした?」

その様子を見た国王は冷静さを取り戻し、ひとつ深呼吸し普段通りの声で尋ねた。


「ノブナガ軍との戦いの中、魔物の群れが現れた為、ギルエは魔物対応に向かいました。 それ以降、ギルエの消息は掴めておりません」


「魔物だと? ギルエが魔物如きに遅れを取ったと言うのか?」

国王には例え魔物の群れが襲ってきたとしても、ギルエが負けるとは考えられなかったのだ。


「いえ… あの、かなりの数のゴブリンの群れだったようですが…」

文官は伝来から受けた報告書を見ながら説明していた。


「ゴブリン如き、ギルエなら何匹居ようと関係ないだろう」

国王は若干イライラしながら問いただしていた。


「はい。ゴブリンなら何匹居ようとギルエならば問題ありませんが… ん…どうやらギルエはゴブリンの中にいた『赤い猿の獣人』と戦闘したようです。 その戦闘があまりにも激しく、伝令の兵は結果を確認出来なかったようです」

文官は報告書を閉じ、国王への報告を終えた事を示した。


「赤い猿の獣人…だと?」

国王は急に深刻な顔になり文官を睨むように見ていた。


文官としてはギルエの戦いの結果が不明である事が問題だと考えていた。だが、国王はそれではなく『赤い猿の獣人』に強い反応を見せた事に驚いていた。


「はい。 赤い猿の獣人と戦闘になったと報告が上がっております」


「ふむ…」

国王はその顔に刻まれた深いシワを、更に深くし何かを考え込んでいた。


「国王さま… 何か問題でも?」

文官がそう声をかけた時、扉がノックされる音が部屋に響いた。


「取り込み中だ! 後にしろ!」

一番年上の武官がドアに向かって叫んだ。


「まあまあ、こちらの状況を知ってノックしているのですから… わたしが聞いてきますよ」

優男風の文官が武官をなだめながらドアに歩いていき、少しだけドアを開けて外に待機している兵と少しだけ言葉を交わしドアを閉めた。


優男風の文官はゆっくりと国王の前に歩み寄ると、膝を付いて報告した。

「国王さま、ガザム帝国との戦地に向かっていた騎士団が帰還しました」


王はピクっと反応し、優男風の文官に目を向けた。

「ガザム帝国と… と、いうことは『熾天使のリダ』が帰ってきたのか?」


「はっ。 騎士団を代表してリダ・ニイキルから戦況報告させて欲しいと謁見の間で待機しております」


「ふむ。 リダが帰ってきたか… うむ、わかった。報告を受けよう」

王はスクッと立ち上がると、文官や武官達を連れて謁見の間に向かった。


謁見の間では白い鎧を身に纏ったリダ・ニイキルが片膝をついて頭を下げて待機していた。

その鎧には美しい装飾が施されており、窓から入る太陽の光を反射させていた。

その姿は王国を守る純白の騎士… いや、天使そのものだった。


謁見の間にはリダのほか、国王の身の回りの世話をする数名のメイドと扉を守る衛兵、それらをまとめる中年の執事が1人いるだけだった。


リダが謁見の間に来てしばらく経った頃、執事が部屋中に響きわたるように声を発した。


「アクロチェア王国 国王さま、こ到着」


執事の声にリダを始め、部屋にいる者全てが頭を下げて国王の入室を静かに待っていた。


しばらくすると、謁見の間にある玉座の横の扉がゆっくりと開き国王の姿が現れ、引き続き文官、武官達が現れた。

国王が玉座に座ると、王を守るように武官達が両脇を固め、文官達は部屋の横に並んで立っていた。


「面をあげよ」

国王の重厚な声が響くと


「はっ」

短く答えたリダがゆっくりと頭を上げた。

背中まで伸びた絹のような金髪はかるくカーブを描きながらリダの背中を飾り、この世の全てを慈しむような潤んだ瞳は緋色をしていた。

そしてその顔には傷どころかホコリひとつ無く、白く透明感のある肌は太陽の光をキラキラと反射していた。



「うむ。 リダよ。いつもながら美しいな。 どうだ?戦線から離れる気はないか?」

王は少し微笑みながらリダの帰還を喜び、そして、戦場で美しいリダに傷がつく事を心配していた。


「ありがとうございます。 ですが、わたくしはロイヤルナイツでございます。わたくしは王国の民を守る義務と責任があります。 王のお心遣いには感謝しておりますが、わたくしの使命を全うする事をお許しください」

そう答えるリダの声は聞く者の全ての耳を優しく癒す、鈴の音のような美しいものだった。


「うむ。其方ならそう答えるだろうとは思っていた。 では早速、報告を聞かせてくれ」

国王の声が響き、リダは軽く頭を下げてから戦果の報告を始めた。


「まずはこれを」

リダは布に包まれた球状のモノを王へ差し出した。


「うむ」

王の声を聞き、壁沿いに立っていた文官のひとりがゆっくりと歩いてやってくると、リダから球状のモノを受け取り王の前で布を取り除く。


そこには両目を潰され、恐怖に歪んだ獣人の頭があった。


「約1万のガザム帝国軍は我が騎士団の聖なる力により壊滅。 一方、我が騎士団の損耗は少なく、すぐにでも戦場へ行軍する事も可能でございます」

リダは獣人の頭とは正反対に、天使のような優しい笑顔で報告すると恭しく頭を下げていた。

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