表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rev.ノブナカ  作者: わたぼうし
【3章】ノブナガと王都騎士団
138/171

【48話】メルギドの掟とバケモノ

「オレはアスター。 ドナールとは友達でね、よく一緒に行動しているんだ」

アスターはドナールより少し背が低く170cmくらいで、やはり体格はよく赤い髪に黒い目をした美丈夫だった。


「俺はダナ。よろしく頼むよ」

ダナは身長が160cnくらいで青い髪で金色の目で鷲鼻をしていた。


「やぁ、僕はセルジ。 よろしく」

セルジは一番背が高く190cmくらいあった。

スキンヘッドで顔に大きな傷のあるセルジは商人というより戦士という方がしっくりくる外見をしていた。


4人とも体格がよく、多少の魔物や野盗くらいなら返り討ちにしそうな男達だった。


「私はヴァナラ。 よろしく頼む」

ギルエ改め、ヴァナラはひとりひとりと握手を交わした。


「さぁ、軽く自己紹介も済んだ事だし出発しようか」

ドナールはそう言うとヴァナラを自分の馬車の御者台に座らせ街道を進みはじめた。


馬車を進めていたドナールの他愛のない話は、夕暮れまで絶えることはなかった。

おかげて王国の未来や自身について考え込んでいたヴァナラも、いつしか考える事を忘れドナールと楽しい時間を過ごすようになっていた。



「今日はここで野営をしよう」

ドナールは街道沿いにある大きな岩の近くで馬車を止めると仲間達に声をかけた。

アスター達は手際良く野営の準備をすると、焚き火を中心に5人分のイス代わりの石を並べた。


「さぁ、今日の晩飯当番は誰だったかな?」

アスターが戯けたように尋ねると、セルジが


「僕だよ」

と、小さく手を上げて応えていた。


「お前かーー! ヴァナラさん、今日は残念だったな。セルジは見た目通り料理が下手だ」

アスターは器用に肩をすくめて、軽く頭を横に振っていた。


「大丈夫! 腹が減っていたら何でも美味いもんだよ」

セルジは笑いながら夕飯の準備を始めていた。


「手伝いましょうか?」

ヴァナラが声をかけると、セルジはニコっと笑い


「大丈夫。 もう出来るよ」

と、器を取り出して始めていた。


「え?」

あまりにも早すぎる食事の準備に驚き、ヴァナラがセルジの手元を見ると、そこには携行用の固いパンが人数分と干し肉と野菜を水で煮ただけのスープ(?)、あとは少しの岩塩が置かれていた。


(コレは料理なのか?)

明らかに何の味付けもしていないスープとパンにヴァナラが唖然としていると、アスターが隣にやって来て囁いた。


「な? セルジには味覚というものがないんだ… こういう時は、見た目に反して繊細な料理をするのが()()()なんだが… こいつは、見た目通りダメなんだ… 明日はオレの番だから、まともな飯にしてやるよ」


「そ… そうですか… 期待してます」

ヴァナラは苦笑いを浮かべながら答えていた。



日が沈み、焚き火の明かりがヴァナラ達の顔を照らし始めた頃、セルジが作った味の無いスープと固いパンを齧りながらドナールは楽しそうに話しをしていた。


(本当に話題の尽きない人だ…)

ヴァナラが関心していると、ドナールがヴァナラに話を振ってきた。


「ところで、にぃさんは双剣使いかい?」


「え? あ、あぁ、そうです。 私は双剣を武器として使っています」

ヴァナラは手元に置いた双剣を撫でながら答えた。


「なるほど。 と、言うことはにぃさんは『濁流のギルエ』に憧れたクチかな?」

ヴァナラが答えようとした瞬間、ドナールは手を前に出しヴァナラの答えを遮った。


「いや、分かる! 男の子なら一度はロイヤルナイツに憧れるもんさ! オレだってガキの頃はギルエに憧れて木の棒2本を振り回していたもんさ」

ドナールは少し懐かしそうに笑っていた。


「えぇ、まぁ。 そんな感じです」

ヴァナラは自分がギルエだとは言えず、苦笑いを浮かべているとアスターが割り込んできた。


「オレは『巨神』ミナスリートだな! ミナスリートは大剣の一撃で軍隊も吹き飛ばすらしいぞ! 男ならあの圧倒的な力に憧れるもんさ」


「まぁ、確かに? ミナスリートの一撃は凄いらしい。でもな! ギルエの双剣は… いわば芸術なんだよ! ギルエの乱舞は美しく、巻き込まれた者はなす術もなく切り刻まれる。 まさに濁流! そうだろ?にぃさん!」

ドナールの熱弁にヴァナラの頭の中には、先日のラーヴワスとの戦いがフラッシュバックしていた。


「私は… それほど強くはありませんよ…」

ヴァナラは遠い目をしながら、力無く答えていた。


「ん? 何を言ってるんだ? にぃさんがギルエほど強くないのは当たり前だろう。 なぜなら、ギルエには神から与えられたという双剣があるし… そもそもヒトにあれ程強くなる事は不可能ってもんだ。 ロイヤルナイツはみな神の化身か何かなんだろうよ」

ドナールの答えに、我に返ったヴァナラは


「あ… あぁ、そうだな! 私の話でなかったな」

と、照れ隠しするように笑って誤魔化していた。


「あははは  にぃさんはオモロイやっちゃなぁ」

ドナールがヴァナラの肩を叩きながら笑うと、アスター達も大声で笑っていた。


「まぁ、そうは言ってもギルエやミナスリートに憧れたのは子供の頃の話しさ。 今はやはり『熾天使』リダさま!」

ドナールの言葉にアスターやダナ、セルジも同意し頷いていた。


「リダ… ですか?」

ヴァナラの問いにドナール達は、カッと目を見開き反論し始めた。


「にぃさん! リダさまを知らないのか? リダさまはまさに天使なんだよ。 その美しい姿は神にしか見る事は許されず、その美しい声は鈴の音のようだとも言われている。 リダさまが放つ矢に射抜かれた者は命だけでなく、心まで奪われしまうとも言われている。 男ならリダさまに射抜かれて死にたいと願うものさ」

ドナールの熱弁にアスターたちも


「そうだとも! リダさまを一目見る事ができるなら、死んでも構わない」

と激しく同意していた。


(ええ? アイツが? 確かに見た目は美しいと私も思うが、中身は悪魔だぞ? アレほど性悪な女はいないというのに…)

リダの本当の姿を知るヴァナラは、思わず否定しそうになったが『ドナール達の夢を壊してはいけない』と言葉を飲み込んでいた。


「そ… そうですか。 リダさまを見ることが叶うといいですね」

ヴァナラは愛想笑いを浮かべながら答えていた。


「にぃさんはギルエ一筋なんだな。 今でも双剣を握りしめ戦っているんだから」

ドナールは腕を組み、『うんうん』と頷きながら何かに納得していた。


「ところで、にぃさん。 メルギドには行ったかい?」

ドナールの不意の問いかけにヴァナルは思わず


「え? いや… 行った事は…… ない…」

とウソをついてしまった。


「そうかい。 オレたちは何度かメルギドで商売をしてきたんだが。  あの町はいいな! ヒトも獣人も魔物ですら仲良く暮らしている。 何より活気が溢れている!」


「活気が? そんなにですか?」

ヴァナラの問いにダナが答えた。


「あぁ! あの町の活気は俺たちが行った町の中でも1番だったな。 ドナールも言ったが、あの町じゃ種族に関係なく活気が溢れているんだ。 この王国じゃヒト種族以外… 特に獣人は死んだような目をしているか、復讐の炎を宿した目をしているヤツばかりだ。 でもな、メルギドは違った。 どの種族も対等で… いや、月女族だけはアイドル的な扱いをされているが… まぁ、それ以外はみんな対等なんだ。 これがどれだけ凄い事か分かるか?」


ダナの問いにヴァナラは首を横に振って答えた。


「まず、商売相手が増える! 商売相手が増えれば、取り扱う商品も増える! 商品が売れると商売人が集まり、更に賑やかになる。 そうしているとメルギドという町にたくさんのヒトや獣人、魔物が集まり町は発展していく。 そのうち王都よりも大きな町になるかもしれないという事だ」


「王都よりも!?」


「そうさ、だから僕たち商人はメルギドに集まるんだ。 何より儲かるからね」

セルジは笑いながら言葉を足していた。


(まさか、それほどとは…)

ヴァナラは焚き火の炎を見詰めながら、改めてメルギドという町を考えていた。


「まぁ、商売人から見れば最高の町だと思うよ。 メルギドは」

アスターはニコっと笑いながら言うと、コップの水を一気に飲み干した。


「もし、にぃさんもメルギドに行くつもりならコレだけは忘れないようにした方がいいぞ」

ドナールの真剣な顔にヴァナラも気を引き締めて、ドナールの言葉を待った。


『月女族には手を出すな』


ドナールをはじめ、アスター、ダナ、セルジは声を揃えてこの言葉を発した。


「月女族? それはなぜですか?」

ヴァナラの問いにアスターが答えた。


「メルギドには月女族というウサギの獣人女がいるんだが、その月女族を守護するアネッサという巫女がいるんだ。 その巫女はルートハイム家の者で、どんな傷や病も治癒してしまう神のような存在らしい」

アスターの言葉にダナが補足する。


「俺が聞いた話しじゃ、生きてさえいれば千切れた腕も治せるらしい」


「千切れた腕でも!?」

ダナの言葉にヴァナラも驚きの声をあげた。


「ええ、アネッサという巫女は町の人々から神のように慕われている。 あのポテカ司祭とナープール司祭が師匠と敬うような存在ですからね」

セルジの言葉をダナもアスターも頷いて肯定したが、アスターは真剣な顔でヴァナラにグイッと顔を寄せた。


「だがな、それは表の顔だ。 アネッサという巫女はネクロマンサーでもあるらしく、以前メルギドを襲った盗賊団の2人が月女族の女を犯そうとした時、アネッサがその現場にやって来たそうだ。 で、その盗賊2人はどうなったと思う?」

アスターの問いにヴナァラは少し考え


「どうなったのですか?」

と答えた。


「ゾンビにされたのさ。 それも()()()()()…な」

アスターは少し青褪めた顔で答えた。


「生きたまま…?」


「あぁ、生きたままだ。 生きたままゾンビにされ、死ぬ事も許されず体は朽ちていく… それが永遠に続く…なんて想像しただけで気が狂いそうになる」

アスターは両手で自分の体を抱きしめ、震える体を抑えていた。


「そうだ。 実際、何人かの商人仲間がメルギドの近くで、すでに無くなってしまったであろう自分のハラワタを掻き出しながら徘徊するゾンビが目撃されている」

ダナも青褪めた顔でアスターの言葉を証言していた。


あまりの恐怖に皆が言葉を失っていると、ドナールが話を続けた。


「オレは以前、冒険者ギルドでアネッサとノブナガに護衛を依頼した事がある。 その時、アネッサの冒険者カードを見せてもらったんだ。そこには確かにプリーストとネクロマンサーの適性が書かれていた。 護衛中は魔物に遭遇する事が無かったので、戦っているところは見なかったが…」

ドナールは少し間を空け、言葉を足した。


「でもな、本当に恐ろしいのはノブナガだ。 にぃさん、もしメルギドに行くなら月女族とアネッサもそうだが、絶対にノブナガには逆らっちゃダメだ。 いや、近づいてはダメだ。 アレはバケモノだ」

ドナールは両手を組み、硬く握る事で震える手を抑えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ